公共の場を、よりストレスフリーに。「○○カード」とそれを巡る環境について思ったこと

「ジャムカード」ーアイルランド

アイルランド留学生活中。先日バス停で待っていたら、こんなものを持っている男性の広告を見かけました。

TFIウェブページより引用。https://www.transportforireland.ie/jam-card/
左側:「少し時間をください」右側:「学習障害があります。少しお待ちください。」
裏面(画像右側)の文面は他に「自閉症です」「認知症です」などのバリエーションもあり、申請のタイミングで選べます。

このカードは一体何でしょう。
TFI(Transport for Ireland/大雑把に言うとアイルランド国内の公共交通機関を管理する会社、でしょうか…)のウェブサイトによると、これは「ジャムカード」と呼ばれるもの。学習障害や自閉症、その他の事情でコミュニケーションに難しさを感じる人々が公共交通機関内や小売店などで提示するというシステムのようです。
カードはプラスチックカード版とアプリ版から選べて、いずれも無料で発行できます。Bus Éireann(バス・エーラン/アイルランド国内のメジャーなバス会社の1つ)、Dublin Bus(ダブリン・バス/所謂「市バス」のようなイメージ)などのオフィスの他、オンラインフォームの入力でも申請が可能で、取得までの手軽さも魅力。
これを見せることで言葉が上手く出てこない自分の状況をシンプルかつ素早く相手に伝えられ、スタッフも本人もコミュニケーションにおけるストレスが軽減できるメリットが生まれます。例えばバスの運転手に何か聞きたいことがあるのにスムーズに話せないとなった時。カードを見せると運転手は「成程そういう事情で考え中なんだな」と状況を理解でき、無理に急かそうとしなくなる→こちらは慌てず落ち着いて話したい事を纏められるという効果が期待されます。
私自身幼い頃自閉症の特徴が顕著だった(母曰く言葉の発達が同年代の子と比べて極端に遅かったらしい)、かつ今でも突然自分が何を言いたいのかわからなくなって言葉に詰まってしまうことがあります。その時運転手や他の乗客を待たせてイライラさせてしまったらどうしよう、と不安になります。もし今後アイルランドに長期間住むことになって、私がこのカードを持っておくに値する人なのであればお守り代わりに鞄に入れておきたいと思いました。

jam cardについてもっと知りたい方はこちら↓のサイトも是非。(jamカードを発行し障がい者支援を行っている団体のサイト。英語です)
Just a minute of patience | JAM Card | Autism | Hidden disability | Northern Ireland 

「ヘルプカード」ー日本

公共の場で周囲の人の配慮を求めるカード。
ここで私はふと「ヘルプカード」の存在を思い出しました。
ヘルプカードの概要について、参考までにサイトを幾つか引用します。
ヘルプカード 東京都福祉局 (tokyo.lg.jp)
ヘルプマークとは?対象者・入手方法や配布場所について解説【専門家監修】 (litalico.jp)

これらのサイトからおわかりいただけるように、先ほどの「ジャムカード」は主に発達障害や精神疾患等でコミュニケーションが難しい人を主に対象としているのに対し「ヘルプカード」は身体的な障がいを抱える人々なども対象になっています。後者はオンライン申請の形式がなく役所で受け取るには一定の書類提出が必要ですが、自作でも可能という点で準備のしやすさは概ね似ていると言えるでしょう。
しかし「ヘルプカード」は本当に周囲の人の「ヘルプ」を求める機能を果たせているのでしょうか。

 SNSで目にした現実

昨今はInstagramやYouTubeなどで様々な背景を持つインフルエンサーが発信活動をしており、私たちにとって親しみやすい形で様々な病気や障がいについて知ることができます。
以前とある方がヘルプカードに関する視聴者の質問に答えるショート動画を投稿していて、ヘルプカードをどのように入手したか、どのように普段持ち歩いているかなどを話していました。その動画のコメント欄に、気になる文面がありました。記憶は曖昧ですが、内容は次のような感じでした。

「…自分は普段ヘルプカードをあまり目立たないよう鞄の内側につけて持ち歩いている。以前電車に乗っていた時、あるご老人の方から「それをつけていれば席に座っていいと思っているんだろう、若いくせに」といったことを言われ嫌な思いをしたからです。…」そのコメントを見たとき、なんて心無いことをその人は言われたのだろうと悲しくなりました。当事者じゃないくせに偉そうに言うな、と思った読者の方が居られましたら申し訳ありません。しかし私が仮にご本人の立場だったらと考えると胸が痛むのは、噓偽りも誇張もない事実です。

「○○カード」が本当の意味で機能するには

本当に周囲の人の理解や助けが必要な場面でカードを見せても「それは甘えだ」「迷惑をかけていい免罪符にするな」などと冷たくあしらわれてしまったら、ただでさえ症状が出て苦しいのに更に大きなダメージがかかってしまいます。
まして過去にそのような配慮のない言葉を浴びせられた経験がありカードを使うことに抵抗や恐怖心を抱いてしまっていたら、持っていても使えない。
これでは折角システムが用意されていても意味がありません。

「多様性」「個人の生きやすさ」を強調する風潮の中、求められるのは行政や各民間団体による支援策だけではない。私たち一人ひとりの知識と理解、行動こそが社会全体の居心地の良さに大きく影響するはずです。


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