今は亡きオリガ・ヤコヴレヴァさんへ 届かないとわかっていても伝えたい想い

私にとってオタクの原点となったシンガーと、人生について回想するただの自己満足な日記。

五里霧中の自己分析

私は休学中とは言え大学3年生。嫌ではあるけどどうしても就活について何かしら行動を起こさないといけない時期。
先ずは自己分析から、と数々の自己啓発本やYouTube動画の人、大学のキャリアサポートや先輩は口を揃えて言うけれど、そもそも自分が何者なのかわからない。

何が得意なのか。
将来どんな人でありたいか。
長所は。
短所は。
今後2~30年のキャリアプランは。

たかが20年しか生きていない私がそんなことを知っているはずがあるだろうか。少なくとも、今まで何の疑問を抱くこともなくごく普通の義務教育のレールを走ってきた私は「自分の事は自分が一番知っている」なんてものは幻想、綺麗ごとに過ぎないと思っている。ぱっと訊かれて答えられるはずがない。

世の中から当然のように求められる”常識”に苛立ちつつ今日も自己分析の動画を眺めていた。

「思春期(学生時代)の自分に最も大きな影響を与えた出来事はなんですか」

月並みな質問。誰でも一度は聞いたことがある質問。
それを目にした時、私はふと中学に入りたての自分を思い出した。
外国語を大学で学びたいと心に決める前の自分だ。

歌姫の道標

中学3年生のある日、エスカレーター式で高等部への進級が決まった頃だっただろうか。ふと思い立って父のCDコレクションを漁っていた。
ただの悪戯が、当時の私の”進路”に対する考え方を変えた一度目のターニングポイントだった気がする。

中学2年の頃、高等部2年から始まる文理選択の為に先輩から話を聴く機会があった。当時は”就職のためには大卒の肩書がないと厳しいし、とりあえず適当な大学で単位を取ればいいや” ”数学嫌いだし比較的楽そうな文系かな”くらいの雑な進路決定だった。1年経っても状況は変わらず、具体的にどんな学問を究めたいのか見当もつかない。
そこで出逢ったのが、父のコレクションから発掘された、とあるアニメのサウンドトラックだった。

歌詞カードを何となく開いたその瞬間の衝撃が蘇る。

見たことのない魔法の呪文のような文字。
”中二病”も少々患っていた私は、隠された謎の暗号を見つけた勇者の気分。
日本語訳の歌詞もあったけれど、果たして本当にこの呪文を正確に解読しているのだろうかと不思議に思った。
彼女の透き通るような歌声は、言語が全く分からない私にも癒しと力をくれた。

彼女の歌詞に込められた想いを、自分の力で感じてみたい。
周りの誰も知らない、新しい”魔法”を使ってみたい。
ある種の憧れがこの時に生まれ、彼女が生前最後に出した曲、”My way”に背中を押された。
高校を出たら、もっと彼女の言語を学ぼう。
こうして私は進路希望に”外国語学部”と書くようになった。

それから授業の合間に独学でアルファベットから勉強し始めた。
志望動機を語るために彼女の歌の力を借り、大学に受かった。
言語を2年間学び、それなりに理解できるようになった。
海外留学中の今、学んだ言語を使って旅先の人々と意思疎通できた。

かつての私が憧れた、言語を理解し操る”魔法使い”に少しずつなれているだろうか。
これからの人生で、この魔法を誰かの役に立てることができるだろうか。
かつての彼女が、歌という言葉の魔法で私の進む道を示してくれたように。

この世からあの世へのファンレター

親愛なるオリガ・ヤコヴレヴァ様へ。
 はじめまして。私は日本の大学生です。
 6年前初めて貴方の歌をサウンドトラックで聴き、それをきっかけに貴方の話す言語に興味を持ちました。そして、それを今大学で学んでいる最中です。
 昔の私は、義務教育を終えた後に学びたいことが見つからず悩んでいました。ですが貴方の歌を聴いた時、言語が解らなくても伝わる優しさと力強さに圧倒され、詞に込められた想いをもっと知りたいと思うようになりました。ロシア語が少し理解できるようになった今歌詞を読むと貴方が作り上げた世界観の美しさがより一層感じられ、聴くたびに心の安らぎと勇気をもらっています。もっと早く貴方の歌に出会えていれば直接感謝の言葉とお手紙を送ることができたかもしれませんが、それが叶わず残念でなりません。
 私にとって貴方のロシア語の歌が道標となったように、私も言葉の力で誰かの手を引く存在になりたいと思っています。国も母語も住む世界も違いますが、どうか天国から見守っていただけませんでしょうか。
敬具


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