オトンとパチンコに行った

オトンとパチンコに行った。

私が「ゴルフをやってみたい」と言うので、オトンはクソ暑い昼下がりに打ちっぱなしに連れて行ってくれた。
私は初心者のくせに130球バカスカ打ち、近くのパン屋で2人お茶したあとだった。
なんとなくまだ時間を潰したいなあと後ろ髪を引かれながらも駅に向かっていたときに、オトンはふと
「パチンコするか!」と言い、
そのまま吸い込まれるように道路脇そばにあったパチンコ屋に入っていったのだった。

パチンコ経験0の私は、なんなら「パチンコするか!」と言われるまでそこにパチンコ屋があると気づいていなかった。
突然のことに多少動揺した。父からパチンコに誘われるなんて初めてで、それも母や他の兄弟がいない時だからに違いなかった。
二つ返事で私はオトンの背中について行った。

オトンは私が小さい時から会社勤めで、真面目に生きている(風)だが、意外と競馬やゴルフ、麻雀、パチンコ、ボウリングとかなり遊びに通じている。営業職だったので嗜まざるをえなかった事情もあるだろう。

パチンコ屋のなかはタバコの匂いが染み付いていた。人影はまばらで、誰もが無心に画面を見つめていた。ジャラジャラと玉が流れる音が響き、演出のSEがやたらうるさかった。見るからに挙動不審な女(パチンコ屋さん初めて)とその父親らしき男の2人連れは、視界に入ると若干鬱陶しいらしく、たびたび目が合い気まずい思いをした。

「なんか好きなアニメとか、気になる台にしよう」と父が言うので、私は悩んだ末に「新世紀エヴァンゲリオン決戦〜真紅〜」の1円パチンコ台の前に腰掛けた。本当は、うる星やつらの台にしたかったけど、真隣に男性が座っており、明らかに初心者の人が隣に座ればやりづらかろうと諦めたところだった。
父は、隣のカイジの台に座った。

結論から言うと、私の1000玉は4700玉に増えた。
オトンは隣で3000玉を使い切っていた。
右打ちやら確変やら大当たりやら結局さっぱりわからずじまいだったが、なけなしの野口が増えたので私はほくほくで店を出た。

帰り道、父は私をパチンコ屋に連れて行ったことを若干後悔していたみたいだった。
「本当に怖いよな、これ普通だったらまだ続けてずっと一日中やるんだよ」「ビギナーズラックで、大抵の人が経験するんだ」「店の人が遠隔で見るからに初心者の人には当たるように操作するんだ」と娘のマインドコントロールを図ろうとしてきて、それが少し笑えた。「そうだね怖いね、うっかりやらないように気をつけるね」と言いながら、私は自分の一人暮らしの家に帰るために父と別れ改札を抜けた。

そこから乗り換えを何度か間違え、1時間かけて自分の土地まで帰ってきた私は、すでにどうしてもパチンコがしたくなっていて、なんとかその言い訳を考えていた。「こんなに勝ってしまっていると調子に乗ってしまうから、今から負けに行くべきなのでは」とか、色々考えたけれど、百均で買わなければいけないものがあったのを思い出して、なんとかパチンコ屋の前を通り過ぎた。

家につき、つい買ってしまったプラムを洗って齧りながら、オトンは今も本当はときどきパチンコをしてるんだろうなあと考え、それよりもゴルフをもう一度やりたいと私は思った。

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