名月
秋の月は美しい。
秋の空気は、春や夏に比べて乾燥している。そのため、澄んだ空気が月をくっきりと夜空に映し出す。
月の高さも冬ほど高くはない。見上げればちょうど良い高さに月がある。秋だけ、月が美しいと感じるのはそのような理由がある。
「夜に入り、明月蒼然」
(藤原定家『明月記』)
定家は、平安時代末期から鏡倉時代初期という激動期を生きた歌人である。
日本の代表的な歌道の宗匠として永く仰がれてきた。明月記は定家が19歳から74歳まで書き続けた日記である。その日記の中に、それがある。
古語というのはいい。
「明月蒼然」、と口に出してみるとわかるが、たったこれだけの語に圧倒的な風景が広がる。
青々とした月を想像してみる。定家がこれを書いていた 19歳の頃。度重なる天変地異や、源氏と平家の争乱、宮中における貴族の頽廃と醜い地位をめぐる争い。
時代の過渡期と天変地異が重なる時代背景を想像すると、この明月蒼然が、またいっそう深く感じられる。
天変地異、戦争、堕落する政治、様々なことが今の世にも重なる。
定家を想い、「夜に入り、明月蒼然」と呟いてみる。そのとき月は…
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