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甲辰の歳

 小学生の頃から、冬休みは年賀状に刷るための、版画を彫るのが一大イベントだった。父親にならって彫刻刀を持ち、炬燵で兄とひたすら版画を彫る時間。一番楽しいのは、干支にちなんだデザインを考えている時。
 36年前の辰年にどんな版画を彫ったか、あいまいな記憶なのだが、確か、「龍」の字が書かれた凧の絵を彫ったような・・・

 干支(えと)は、甲・乙・丙ではじまる十干(じっかん)と子・丑・寅ではじまる十二支(じゅうにし)の組み合わせ。60通りある。一巡するのに60年というわけだ。

 2024年の干支は甲辰(きのえたつ)。

 それぞれの干支には意味がある。「甲辰」は「新しいことを始めて、成功する、いままで準備してきたことが形になる」という年になるらしい。前回の「甲辰」、60年前は1964年、東京オリンピックが開催された年だ。戦後復興を遂げまさに「新しいことを始めて成功する」年となった。
 今年、2023年は「癸卯」(みずのとう)だった。「古い時代が終わり、成長や飛躍へと向かう区切りの年となる」といわれていた。確かに株価はバブル後最高値を更新。「生成AI」という言葉が席巻し、コンピューターが「勝手に学習しものを考える」時代の始まりを感じさせた。
 私は、というと時代に反して「好古」(こうこ)である。好古とは「昔の物事を好むこと いにしえの道を愛すること」。六年間、独学で続けた「書」であったが今年の春、師との出会いがあった。良き仲間とも出会えた。人生の醍醐味は、良き友と、良き師に出会う事である、と今は思う。

 今思うとこの忙しい年末に年賀状を版画で刷るなどということをよくやっていたと思う。時代そのものが、まだのんびりとしていたのだろう。
 一番うまく刷れた年賀状は、ひそかに好きな子にあげた。その子のことを想って書いている時間もまた幸福であった。

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