【雑感】SBI新生銀行の上場廃止

上場廃止


2023年9月28日、東京証券取引所において新生銀行(現SBI新生銀行)が上場廃止となった。

旧村上ファンド系?による大量保有報告書


その裏で、大量保有報告書本大量保有報告書)によれば、旧村上ファンド系とされる投資会社エスグラントコーポレーションがSBI新生銀行の株式9.75%、2000万株を取得していた。

本大量保有報告書には、次のような記載がある。

【最近60日間の取得/処分の状況】

【保有株券等の数】

【株券等保有割合】

【保有目的】

つまり、元々150万株程度は保有していたところ、2023年9月21日に市場外において約1850万株を公開買付価格である1株2800円で取得し、それにより保有割合は9.75%に、保有株券数は2000万株となった。

ここで重要な点は、公開買付価格である1株2800円で市場外から取得し、保有株券数を2000万株としたところにある。

まず保有株券数が2000万株となれば、2023年10月2日に予定されていた、2000万株につき1株の割合で行われる株式併合(いわゆるスクイーズアウト)により、1株を取得できる

この1株を利用して、経営陣への助言や重要提案行為等を行うことを予定しているものと思われる。

また、SBI新生銀行に関して、直近での大量保有報告書や変更報告書のうち、SBI系の投資会社や整理回収機構を除き、エスグラントコーポレーション以外の届出がないことから、同社は、大量保有報告書や変更報告書の届出が不要な、保有割合5%未満で、かつ、SBI地銀ホールディングスによるTOBに参加しなかった(できなかった)株主を探し、約1850万株を市場外で一挙に集めたものと思われる。

SBI地銀ホールディングスや整理回収機構も2023年9月8日付けで変更報告書を届け出ており、それらによれば、SBI地銀ホールディングスが約53%、整理回収機構と預金保険機構が合計で20%強となっていた。

その結果、東洋経済オンラインの記事にある図のような状況となることが予想されていた。

東洋経済オンライン

もう一段階のスクイーズアウト?


こうなると、もう一段階スクイーズアウトの手続を行い、エスグラントコーポレーションを排除することは困難と思われる。

つまり、スクイーズアウトの方法としては、①株式併合(会社法第180条)、②特別支配株主の株式等売渡請求(同法第179条)、③全部取得条項付種類株式への転換・取得決定(同法第111条第2項第171条)があるが、まずSBI地銀ホールディングスはSBI新生銀行の総株主の議決権の9割以上を保有していないことから②の特別支配株主の株式等売渡請求はできず、また整理回収機構・預金保険機構(政府系株主)に対しては「公的資金」の返済として1株7450円程度にする必要がある(※)とされているところ、1株2800円という公開買付価格では到底足りないことから政府系株主をもスクイーズアウトしてしまう③の全部取得条項付種類株式も利用できない。

※ 公的資金3500億円が残っているとのことであり、整理回収機構が保有する2000万株と預金保険機構が保有する2700万株弱の合計約4700万株で考えると、概ね1株あたり7450円が必要という計算

この点、①の株式併合で、2株を1株に併合すれば、政府系株主が1株、SBI地銀ホールディングスが3.5株、エスグラントコーポレーションが0.5株となり、目的を果たせそうにも思える。

しかし、そうなるとエスグラントコーポレーションからの株式併合差止請求(会社法第182条の3)、公正価格での買取請求(同法第182条の4)やそれに付随する価格決定申立(同法第182条の5)といった紛争をクリアしなければならない。

また、このとき、端数が合計で1株分生じることになるが、合計5株中の1株であり20%に相当するところ、それだけの資金がSBI新生銀行から流出することも懸念である。

おまけ:上場廃止基準


SBI新生銀行は、株式併合による上場廃止決定がされている。

JPXウェブサイト

この根拠となる有価証券上場規程第601条第1項第18号には、次のように規定されている。

(上場内国会社の上場廃止基準)
第601条

上場内国株券が次の各号のいずれかに該当する場合には、その上場を廃止するものとする。この場合における当該各号の取扱いは施行規則で定める。
(18) 株式併合
上場会社が特定の者以外の株主の所有するすべての株式を1株に満たない端数となる割合で株式併合を行う場合

有価証券上場規程

ここでいう「特定の者」の定義の解釈はネット上を探した限り見当たらなかった。本来的には、株式併合を主導する株主の意に沿わない株主が残るということは想定されないため、「特定の者」とは、株式併合を主導する株主やそれと同調する株主を指すのが適当かと思われるが、本件ではSBI地銀ホールディングスや政府系株主と必ずしも同調しないであろうエスグラントコーポレーションが残った。

さすがに、合計4者の株主のみで上場維持というのは不可思議ではあるため、「特定の者」のみが残ったとして上場廃止決定がされたものと思われる。

なお、株式併合の場合の上場廃止日は、株式併合が効力を生ずる日の2日前(休業日を除外する)の日とされている(有価証券上場規程施行規則第603条第6号の3)。

本件では、株式併合の効力発生日が2023年10月2日と設定されていたため、その営業日ベースでの2日前にあたる同年9月28日が上場廃止日となった。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?