私の青春の一曲
もう20年近く前の話。
婦人雑誌に、私の小文が掲載されたことがある。
募集のテーマは「私の青春の一曲」。
23歳の頃、失恋をして、その頃大流行していた「氷雨」という曲についての話を書いて投稿したら、掲載してもらえた。
その時の小文を、かいつまんで書いてみる。
23歳の時、私は大失恋をした。
一人暮らしの部屋に帰りたくなくて、パチンコ店で時間を潰していた。その時流行していた「氷雨」という曲が店内の有線で、よくかかっていた。
♫誰が待つというの、あの部屋で。
そうよ、誰が待つというのよ。
結婚の約束までしていたのに。
もうすぐ24歳になってしまうじゃないの。
お先真っ暗よ。
泣きながらパチンコしている私は、ちょっと危ない人だったに違いない。
それから長い年月が経ち、彼の顔も声も忘却の彼方に流れ去り…。
いまや面の皮もお腹の肉も厚くなり、下ネタで盛り上がるおばちゃんになってしまった私。
「氷雨」は、その時の「失った恋」ではなく、若くて純粋でスレンダーだった「あの頃の私」を完全に失ってしまった、ということを知らしめてくれる、思い出の歌になりました。
こんな感じの小文であった。
「氷雨」は、私の場合は桂山明生さんが歌っていた方に思い入れがあったのだが、雑誌に掲載された小文のサブタイトルは、日野美歌さんの名前になっていた。(氷雨は元々桂山さんが歌い、その後日野さんも歌った競作だった。その当時は2人ともそれぞれヒットしていた)。
きちんと明記しなかった私が悪いのだが、あのパチンコ台の前で、鼻水を啜りながら聞いていたのは、桂山さんの声の方が圧倒的に多かったのである。
24歳でお先真っ暗などと本気で思っていたのは、若さのせいばかりでもないだろう。
婚期はクリスマスケーキと同じ(24を過ぎると売れない)などと言われていた時代。
当時は何も意識していなかったけれど、やはりそういう縛りもあっての、挫折感もあったように思う。
青春の一曲。
今でも「氷雨」を耳にすると、心にさざなみが立つ気がする。
勿論それは20年前に書いた通り、失恋に対する思いではなくて、若くて、未熟で、それゆえに真摯で、傷付きやすくて。
そんな2度と取り戻せない自分が愛おしくて、切なく思うからだろう。