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山田君 不動産で世を渡る(プロになる)※平成バブル 丸源 5856

 

 1億5千万円の買付証明をもって、俺は新宿アイランドタワーにあるデスクにもどった。社内の根回しと稟議書を作成するのだ。
 あらかじめ入手した評価証明を司法書士に渡して登記見積もりをとる。固定資産税の日割り計算。購入の稟議と売却の稟議で、もちろん利益収支表添付。
 買い物件に出口がセットされていて、経費を差し引いても利益率が40%近くになるため稟議はセレモニーみたいなものである。

これから買いの契約だ。信用金庫に連絡してもう一度現地の調査を行いたいとお願いした。
すぐに返事がきて、材木店の番頭が立ち会うことになった。
軽井沢に到着し、すべての境界の明示を受け写真に残す。
一応、建物の外観写真を撮り、内見を行った。
実業家の売主が昭和初期に建てた建物は相当傷んでいたが、日本の職人の腕を上品に注いだ造りである。洋間もあり、黒く光った床と窓のステンドグラス、これが本物のアンティークであり感動ものである。軽井沢の自然と調和している室内からみる窓からの借景。軽井沢の豪華な別荘より、ひっそりと時間を重ね、決して主張せず、静寂は自然の中にぽっりと佇んでいるこの建物に俺は感動した。


今回はまとめての資産売却の一部を買うということで特別に切り離してもらった。法人名義と個人名義のうち、この別荘は個人名義であった。

売買契約当日には、番頭が委任状をもって現れた。俺はもってきた売買契約書に記名と押印をしてもらい契約は無事終了した。

抵当権の抹消や国税の条件が整い次第、残金決済、引き渡しを行うことで俺は高崎を後にした。


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