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明けの明星

金星と地球はほぼ同じサイズで、「姉妹星」と言われています。けれど、私たちが住む地球と違って、金星の表面は500℃近くの高温なうえに大気のほとんどは二酸化炭素、おまけに濃硫酸の雲に覆われているので、生きるために酸素が必要な人間にとって、住環境としてはとても過酷な惑星のようです。

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「明けの明星」を認識したのは、アメリカで。時差のせいで朝早くに目が覚めてしまい、毎朝、「明けの明星」を眺めた。平原に住む北米の先住民の人たちは「明けの明星」を模したスターキルトをつくる。西洋の文化とのコラボレーションだが、バッファローがいなくなり、それまでのように皮をまとうことがなくなったのと入れ替われるように生まれた習慣のよう。

新たな生命の誕生を祝うとき、繋がりの人々が集ってひし形の小さな布を糸でつなぎ合わせる。最初はおくるみとして使われ、人生の節目節目の通過儀礼の際には身を守り、最後はスターキルトに包まれてスピリットの世界へ渡ると教わった。儀式の最後に行われる「ギブアウェイ」の際にも贈られる。

そんなことを真似て、私も過去2枚のキルトを手がけた。いずれも、混乱している最中に泣きながら新しい命をむかえようとしていた繋がりの人に、なにも出来ることがないのでキルトを縫った。そして、いつか、自分のためのキルトを縫おうと思いながらもまだ実現しておらず、また、私のところにくるはずだった、少し小さめのオレンジ色のキルトは、届かず終いだった。

そんなこんなで、いまも夜が明ける直前の、朝になっていく時間が好きだ。今朝、4時頃に目が覚めて、外でコーヒーを飲みながら、東の空の「明けの明星」を眺めていた。じわじわと空が白んでいき、星々が消えていくなか、金星だけはひときわ明るく輝き続ける。

金星のすぐ下には太陽が控えていて、徐々に夜明けを連れてくる。自らを輝かせることができない金星が輝いて見えるのは、太陽のすぐ近くにいて、太陽の光を反射しているから。他の惑星と比べて、光をより反射しやすい金星ならではの存在感を放つ、オン・ザ・ステージの時間。

初夏からの1〜2ヶ月ほどの金星は、日が沈んで最初に見えるので、「一番星」として輝く。夕方頃の西の空。その頃の金星は「宵の明星」と呼ばれる。
そして、一年のうちの1〜3ヶ月、金星は地球と同じ場所にいて、その輝きを失う。地球にすぐそばで休む、金星のバケーションタイム。

金星が動く速度は地球よりもゆっくりで、地球の公転周期が365日、自転周期が1日なのに対して、金星の公転周期は225日、自転周期は243日。
おまけに金星の自転は地球とは逆に回転しているので、金星が1回転する間に、太陽は2回昇って2回沈み、約2ヶ月ごとに昼と夜とが入れ替わる。
朝から晩までを1日とするなら、地球でいう約120日間が金星の1日、金星で3日過ごすと、地球では1年が過ぎているという計算。浦島太郎は、金星に連れていかれていたんだろうか。

神話の世界では、金星は愛と豊穣と美の女神「Venus(ウェヌス・ビーナス)」を象徴する。古代ギリシャ神話では愛と美の女神・アフロディーテ。古代メソポタミアでは美と闘いの女神・イシュタル。

星読みの世界の金星は、物質を表す十字架の上に、スピリットを表す円がのっかるシンボルで標記される。金星は、女性、美、愛、芸術、お金などの象徴として扱われるけれど、私は金星の衝動としての「繋がり」に着目し、自身が価値を感じるものとの関わりあいをみる。

金星(ビーナス)の魅力は人を惹きつける。その吸引力によって、人と人との関係性がうまれ、互いに夢中になる。自分にとって共感できるもの、真に価値あるものはなにか、そして、そのものと、どのように関わりあうのか。似たものどうしが惹きつけられあい、ひとつに還ろうとする。繋がりを求め、結びつきや一体感を切望する。その衝動を「欲望」と呼ぶのか、「愛」と呼ぶのか。。金星の魅惑の光は目を眩ませる。金星の影響をもろに受ける時、相手の素晴らしいところばかりが目につき、現実を見誤ることがある。しかし、相手の良い部分に目をむける性質は、上手に使うことが可能なのだ。豊かな想像と創造のエネルギー。

人が人を求め、親密な関係を求めることは、ごく自然なことだ。人は人から生まれるのだから。金星は、私たちが慈愛や渇愛をどのように表現するのか、また、人からのそれをどのように受け入れるのかを試す。より、高い意識で金星のエネルギーと交わる時、私たちは宇宙との繋がりを思い出す。

美しいガーデンで、着飾り、音楽を奏で、歌をうたい、踊り、絵を描き、言葉を綴り続けるビーナスは、人と人とを結ぶ。


そうこうしていると、雲がやってきて、金星を隠してしまった。
さあ、私も今日を始めよう。

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