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オンナをその気にさせる曲①
YouTubeで『タモリのジャズ特選 女性といるとき何を聞くか』という番組を見つけた。【カセットテープ音源チャンネル】というところでアップロードしている。カセットに録り溜めした(たぶん)80年代前後のFM放送を公開しているようだ。
概要欄には、「アップロードしようとすると、10分ほどかけてAIが判断し、”著作権で保護されているコンテンツが見つかりました。この動画は誰も視聴できなくなります。”と表示され公開できなくなります」とある。
どうやらかつての人気番組がターゲットにされるようで、たまたま特番だったから生き残っているのかもしれない。
バレるといずれ、この音源も消されてしまうのだろうか。
しかしタモリという人、イイ耳もってるんだなぁと今さらながら感心してしまう。なんて書くといかにも上から目線だが、どうやら正月三が日特番らしい元旦の1曲目に、Billie Holiday『Don’t Explain』をもってくるのはやはりすごいセンスだと思う。今回は2日目の放送分を俎上に載せるため、その回には深入りしない。
番組中流れた5曲(オープニングを入れると6曲)を肴にするだけで、note数回分のネタに出来そうだ。
せっかくなので曲ごとを、ときに当時の自分と重ね合わせながら、考察してみたい。
この放送回は「オンナといるとき、どんな音楽を聴いたら目的を達成できるか」がテーマで、番組のオープニングナンバーはコルトレーンの『マイ・フェイバリット・シングス( 1960年スタジオ録音)』である。
原曲はミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』(1959年)の劇中歌「私のお気に入り」。
リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞。
映画では、雷を怖がる子供達がマリア先生(ジュリー・アンドリュース)の部屋にやってくる場面で歌われる。
1960年3月、マイルス・デイヴィスはヨーロッパをツアー中、同行するコルトレーンのためにソプラノサックスを購入した。この楽器はジャズの黎明期には使われていたが(特にシドニー・ベシェ)、1950年代にはスティーブ・レイシーを除いて珍しいものになっていた。
その性能に興味をそそられたコルトレーンは、夏のクラブの演奏でこの楽器を演奏し始める。
1960年夏、コルトレーンはマイルス・デイビスのもとを離れ独自のカルテットを結成し、モード演奏、より自由な方向性、そしてインドの影響の拡大を追求していく。
彼らは『サウンド・オブ・ミュージック』の陽気な大衆歌「私のお気に入り」を、催眠術的なダルヴィーシュ(イスラム神秘主義の修道僧)ダンス『My Favorite Things』に作り変えた。
この録音はヒットし、コルトレーンの最もリクエストの多い曲となり、広く一般に受け入れられるきっかけとなる。
メロディーは全体を通して何度も繰り返されるが、書かれたコード進行に合わせてソロを演奏する代わりに、マッコイ・タイナー(ピアノ)とコルトレーンの両者は2つのトニックコード、ホ短調とホ長調のヴァンプに合わせて長いソロを演奏し、 ワルツの拍子で演奏している。そう、この曲は意外にもワルツなのだ。
コルトレーンの専売特許シーツ・オブ・サウンド(無数の音を連続して敷き詰めたような演奏スタイル)には、聴き手の感覚を麻痺させる効果があり、呪術的であるといえる。
タモリが「目的を達成」するためにこの曲を選んだとすれば(たぶんディレクターの選曲だろうけど)、その目論見は失敗に終わるのではないか。これはオンナよりも、若くてモテないオトコこそがのめり込む音楽である。
10代終わり、実体験を伴ってそう断言してしまう。一種のマントラみたいに、毎日この曲ばかり聴いていた。タモリが嘲笑する、暗い青春真っ盛りだったのだ、僕は。
意中のオンナを自分の部屋に招いて最初に伝えなければならないのは、「自分には下心がない」「自分が暮らしているところを知ってもらいたかった」という自分の(ホンネじゃない)気持ちである。
部屋は適度にかたずけ(キレイすぎると神経質だと疑われるので)、インテリを気取って本棚には吉本隆明や栗本慎一郎、間違っても宇能鴻一郎や川上宗薫は避けるようにとのアドバイスである。
なんか、時代だなぁ。今なら後者でも、十分インテリっぽい気がするが。(明日に続く)
イラスト Atelier hanami@はなのす
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