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瀬戸「ワンタン」 日暮れ「天丼」

今から52年前。1972年4月に発表された『瀬戸の花嫁』は、小柳ルミ子4枚目のシングルである。僕が小学3年生に進級した月のヒット曲だ。
クラスで流行っていたのは替え歌の方で、みんなが歌うもんだからオリジナルよりこっちで覚えた。

瀬戸「ワンタン」 日暮れ「天丼」 夕波こな「味噌ラーメン」
あなたの島「エビフライ」 お嫁にゆく「海苔巻き」
若い「とんかつ」 誰も「がんもどき」 心配するけれ「ドーナツ」
愛があるか「らっきょう」 大丈夫な「ノリ玉」

ひょっとして、YouTubeにないだろうか。検索すると、ちゃんと上げてくれている人がいるじゃないか。記憶通りの歌詞で、ちょっと嬉しくなる。

しかしこの詞、誰が考えたんだろう。テレビやラジオで聴いた記憶がないんだよなぁ。いくら検索しても不明のままである。
これはユングさん言うところのシンクロニシティ(共時性)というやつだろうか。だとすると、ネタは食い物と実に即物的でありながら、スピリチュアルな替え歌ということになる。
謎だ。ご存じの方がいれば、ぜひ教えてください。

なんで『瀬戸の花嫁』かといえば、最近耳にする機会が何度かあったためだ。もちろん替え歌じゃなくご本家の歌詞で、地元で同じ人が歌う場に立ち会ったのである。

僕は(町というよりいまだ村のイメージが強い)地元広報紙に関わっている。月1回の編集会議でネタになる記事がなかなかなく、老人会での歌謡ショーを思いついた。
正式には、S型デイサービス(地域ミニデイサービス)という社会福祉協議会主導の催しになる。
体が不自由、一人暮らし、家に閉じこもりがちなお年寄りの生きがいづくりや、社会的孤立感の解消、健康な体づくりなどを目的とした活動だ。月に2回と、意外にも頻繁に行われている。

つどうのは文字通りの「お年寄り」で、平均年齢で90歳に近いんじゃなかろうか。お世話するボランティアの方も70代が中心で、我が「村」に珍しく30名前後の人が集まる。そして全員が、女性だ。
別に男を拒否しているわけじゃなく、仕事をリタイアしたお父さんは総じてこういう場が苦手らしい。一人暮らしの世帯など、いくら声をかけても出てこないんだとか。
ま、自分がその年齢になった時を想像しても、いまの会じゃ参加したいとは思わんだろうな。気恥ずかしさも多少はあるかもしれないが、やっぱり興味が湧かないもん。地域でささやかな事業でもやろうぜとかだったら、ぜひ関わりたくなるだろうが。

「清水いはらフェス」や「清水いはらマルシェ」にいつも参加してくれるYさんに声をかけ、S型デイサービスで懐かしの歌謡曲を歌ってもらうことにした。ギターのデュオで、30分強のステージになる。

『街のあかり』『愛燦燦さんさん』『北国の春』『夢芝居』『星降る街角』など、どちらかというと聴いているお年寄りより僕ら世代の歌が中心なのは、Yさんも同じ60代前半だからだ。
今後はぜひ、『ここに幸あり』『別れの一本杉』あたりもレパートリーに加えてもらいたいもんである。『東京だョおっ母さん』など聴かせたら、きっとお年寄りはウルウルだぞ。
つーか、いまYouTubeみてたら、ワシがウルウルになっとった。最後に靖國の桜のカットなんて、NHKにも昔は、まともな人がいたんだな。

話を戻せば、この日の1曲目が『瀬戸の花嫁』だった。
おだやかな瀬戸内の海。
大小3000もある島の一つ。小舟に乗った花嫁が、花婿の待つ島に今まさに漕ぎ出そうとする情景が、まざまざと浮かびあがってくる。
平尾昌晃まさあき作曲の、情感あふれるメロディ。現実に行ったことがなくとも、聴いた誰もが深い旅情に誘われる名曲である。
(明日に続く)

イラスト hanami🛸|ω・)و

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