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ス、スキです

セイタカアワダチソウという植物がある。
環境省が、生態系被害防止外来種リストに載せている植物だ。
種子と地下茎の両方で増え、在来の植物とは比べ物にならない旺盛な繁殖力を持っている。
根と地下茎からは、アレロパシー物質(種子発芽や成長を妨げる物質)を出して他の植物が生育することを妨げ、自身は地下茎からどんどんと芽を出して増えていく。
繁殖を始めた場所では日本の在来植物の姿はほとんど見えなくなり、何年もしないうちに、セイタカアワダチソウの王国が築かれていく。

戦後、このセイタカアワダチソウが本格的に我が国に侵食を始めると、その強い生命力から空き地や河川敷などに一気に広がり、繁殖する。
在来種は駆逐くちくされ、セイタカアワダチソウの独り勝ちとなった。

セイタカアワダチソウ

ススキは日本を中心に生息するイネ科の多年草。草丈1~2mほどまで成長する。
高原や道花などで見られ、昔から秋の到来が感じさせる植物だ。中秋の名月には、ススキとお団子を飾ってお月見するのが習わしになっている。
セイタカアワダチソウと競合するススキもまた、大きな影響を受けた。一時期は「絶滅するのでは」とまで、危ぶまれもした。
それから数10年間、生き残りをかけた激しい闘いが繰り広げられたのだ。

ススキ

セイタカアワダチソウは、「アレロパシー」という毒素を含んだ化学物質を土の中に放出する。この物質は発芽を妨げる働きがあり、他の植物を寄せつけずに栄養を蓄えていく。
セイタカアワダチソウの強い繁殖力の要因はそこにあるのだが、皮肉なことに自らが放つアレロパシーで、自らの成長も抑制してしまう。自分で首を締める宿命から、代を重ねるごと、かつての勢いが失われていくのだ。

この自家中毒に加え、やがて耐性を獲得したススキは逆にセイタカアワダチソウを駆逐してしまう勢いになってきた。いつしか形勢が、逆転したのだ。
毒に免疫を持ったススキはゆっくりと生息地を取り戻しながら、土壌の生物たちにも住みやすい環境を整えていく。

植物の世界の話と言え、なんだかススキが誇らしく思えてくるのだ。
外来のきわめて毒性高い(あの国とかあの国とかの)勢力が我が国を侵食し、いっときは絶滅の淵まで追い込まれようと、耐えに耐えた最後は見事これら外敵を駆逐くちくする筋書きである。

やっぱ、『昭和枯れすすき』より『唐獅子牡丹からじしぼたん』だねぇ。池部良と敵地に乗り込み、「死んでもらいます」と刀を抜く(高倉)健さんのカッコよさだよねぇ。
昭和に枯れたススキも息を吹き返す、令和の未来が見たいじゃないか。

さらにススキは、セイタカアワダチソウの本来の生息地である北米にまで進出し、現地では「侵略的外来種」に指定され、忌み嫌われる駆除対象となっているそうだ。
北米の皆さん、ススキは「侵略的外来種」ではありませんよ。共存共栄こそが、日本植物の精神なのですから。

ちなみに、忌み嫌われるセイタカアワダチソウであるが、葉には炎症を緩和するフラボノイドが含まれている。
ヨーロッパではこの葉を潰して、虫刺され治療や怪我の止血、洗浄液として用いられてきた。
アメリカではネイティブアメリカンの重要な薬草とされ、整腸剤や風邪、怪我に民間薬として用いられてきた歴史がある。
漢方薬としては、一枝黄花いっしこうかという呼び名もあるのだ。

風呂の入浴剤としても使われ、つぼみの時に日干ししたものをお風呂に入れて入ると良いとされる。
デトックス作用があり、アトピーにも効果がある。ポリフェノールも含まれ皮膚に良いうえ、(乾燥させた)ツボミに含まれる酵素は、身体の中の毒も出してくれるそうだ。
開花直前に摘んだ花をオリーブオイルに浸してオリジナルのオイルを作ったり、ティーバックにいれてハーブティにする人もいるんだとか。
アレルギーを引き起こさず、風で花粉も飛ばない。虫が受粉を手伝わないといけない花なので、花粉症の原因にもならない。

なんだ。けっこうキミって、いい奴なんじゃないか。

イラスト hanami🛸|ω・)و

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