里太郎 #空があるだけ。

吐く息白く。
俺の背を少し越えて消えた。

街頭に群がる虫達が、奇妙な音を出してぶつかり合う。

寂れて傾いた波打ち板の建物は
昔栄えた食堂だった。

誰かの歩幅は俺よりも広く、遠くに続いている。

あぁ、きっとこの人は急いでどこかへ向かったのだろう。

街を見渡せる橋の上から、あの時代のこの街を見ていたかった。

道端で話し込む人や、酔っ払い寄り添い歩く人。

何もかも揃いすぎたせいで、失ったものもボタンひとつでどうにかしてしまう。

真っ直ぐ窮屈に並んだドミノのように、
早くゴールまで辿り着いてしまう。

それが果たして正しいものなのか、
今は答える事も難しい。

曲がりくねっていても、
ここには繋がりがたくさんあった。
それをこの街が伝えている。

手を繋いで歩いた。
片方の手で端の草を触った。

家に着き、明かりをつけて眩しかった。
靴下には沢山のひっつき虫。

ストーブを付けて、部屋が灯油臭くなり
あったかくなるまでの時間は、今日あった事を沢山話してたらいい。

キラキラした街があるらしいと聞けば
それに憧れたが、遠く。

今のこの生活を、
ただ、ただ噛み締めているその耳に
トントントンと台所で野菜を切る音が聞こえる。

ガラガラと玄関を開けて、
背が伸びてしまえばあの子の家の屋根まで見えそうだ。

ただ俺の上には青い空があるだけ。

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