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息子の部活動〜親が見た景色〜

唐突だが“投擲”とは=投げること
“投げる”という行為はもしかすると
赤ちゃんが歩くよりも先にすることかもしれない。
思い返せば、ボール、ダーツ、フリスビー、水切りなど子供の頃の遊びの中には沢山の投げるがあった。
遠くに投げたり、速く投げたり、正確に投げたり。
そんな投擲を競う技は、遡れば古代オリンピックから種目として存在していた。
それは“円盤投げ”。
この1年私が息子と“緊張と歓喜”を共有した競技である。まずは2年前から話を始めよう。

2021年春、中学生となり陸上部に入部した息子は100m走でその競技生活をスタートした。
と、格好よく振り返えろうと思ったが、当時はまだコロナ禍の真っ只中。練習も競技大会も父兄は観戦する事ができなかったので、実はほとんど思い入れがない。
記憶としてあるのは、高価なユニフォームにスパイクの購入。特にスパイクは練習用(土)と大会用(トラック)でピンの付け替えが必要なのだが、息子の手入れ不足でそれが出来なくなり僅か数ヶ月で再度購入する羽目に。道具を大切に!と叱咤激励をした程度。
まぁ競技に対して“楽しさ”を持って取り組んでくれていればそれでいいかな、と思うくらいで過度の干渉はしなかった。同じ中学生を持つ家庭ならば、大抵がそんな感じではないだろうか。
そして、年に数回ある競技大会や記録会が終わればタイムを聞いて「速くなったな!よかったな」と、どこにでもいる部活をする子と見守る親、という変哲もない一年目が過ぎていった。

2022年春、ある日の自由練習(自分の専門外の種目をやってみるという練習)でジャベリックスロー(ターボジャブという短くて軽い槍投げのようなイメージ)を試したところ思いのほか飛んだらしく、手応えと新たな楽しさに一念発起。息子はその日のうちに志願して“円盤投げ”に転向。そしてこれを機に競技生活が急変していく。

まずはトレーニング内容。当然ながら走力よりも筋力強化。器具を使ったり地道に繰り返す体幹運動。細身の息子は体格を大きくする為に食事量も増やした。
そして私は、暇があると国内外の高校生からオリンピック選手の動画を見てフォームの研究をするようになり、遂には、実際に動いて“投げる”事の理屈を体で覚えようと自分も始めてしまった笑。
頭で考えるより体で覚えろ”の実践だ。
休みの日に息子と一緒に、有名選手のトレーニングや大会での投擲動画を見て「すげ〜なぁ」なんて言い合うのが楽しかった。私も息子も円盤投げの虜になっていた。
そして思った。
プロアマ関係なく、その競技を最優先に生活している人は“アスリート”だなと。

そんなアスリート君の、円盤投げでは初めての大会が秋に行われた。この大会から入場が解禁されスタンド観戦に心躍った。ユニフォーム姿も初めて見たので、それだけで嬉しかった。ただ、遠くからでもライバル達と比べるとやはり華奢に見える息子の体格。
結果は散々たるものだった。
でも初めての公式な場での投擲。無事終えてくれて安堵した。と同時に、息子のレベルがはっきりとし目指すべき数字が具体化された。それは、当大会で優秀な成績を収めた同学年のライバル達との差“おおよそ15m”である。この数字、距離差はなかなかのものである。
故に半年後、息子が彼らと“切磋琢磨する仲間”になるとは、この時点では全く予想できなかった。

初めての大会を終えた息子は、どんな様子で帰宅するのだろうと思っていたが、意外なものだった。
開口一番「春にはあいつら全員ぶち抜いたる」と。
何事にも弱気な息子から、まさかの発言だった笑。
でも私も即座に「よっしゃいったれ!」と応えた。
やる気があるなら応援するのみ!
ただ、上を目指すなら今まで通りでは追いつけない。
素質ある者を上回る為の努力、春までの時間、練習の質と量、部内の環境と良き指導者に巡り会えるか等色んな要素が噛み合う必要がある。しかし、現場に口出しする立場ではないので、日々の練習での手応えや距離がどれだけ伸びているかの確認をして、あとはとにかく怪我なく本番に出場して欲しい、その一念でひと冬を越えていった。

2023年春 三年生は8月の総体で引退する。それまでに競技大会と記録会は全部で5回。しかも事前に“参加標準記録”を突破しないと出場できない大会も含まれている。
さて冬の成果はいかに…緊張の春が始まった
まずは記録会で自己ベスト更新
次の都道府県総体では僅かに更新ならず
続く市総体では自己ベスト更新優勝
破竹の勢い!とはこの事かのように記録を伸ばして春季3つの大会を終えてくれた。半年前は全く届かなかったライバル達にあと5mまで迫ってきていた。
そして、この春の記録で夏予定されている大会の“参加標準記録”も突破したので最後の総体出場も決定した。
これはもしかするとと思った私が「ライバル達の背中見えてきたな」と言ったら「いや、それより自己ベスト更新や」の返答。確かに半年前、あいつら全員ぶち抜いたる、と言ったが今は自己ベスト更新の延長にライバルの追い越しがあると思っている、と言うのだ。なるほど、勝負する相手は自分、己に勝てずして他人には勝てないと。知らん間に息子は精神も成長しているんだなと感心した。

そんな折、春の成績上位者に対して都道府県別の強化選手として合宿に参加しませんかとお誘いがきた。凄い!そんな誘いを受けるまでになったかと思っていたのだが顧問の先生から何故か不参加の連絡。息子に聞くと、合宿の日が学校のテスト前々日だから辞退したと言うのだ。
確かにテストも大事だが、今しかないチャンスを逃したのも事実。この判断を独断でしたことについては息子とよ〜く話をした。

さて話を戻し6月、この辺りから息子の平均飛距離が27m台で安定してきた。練習では30m出ることもちらほらと。しかしそこはフォームの限界か。27mではまだまだ足りない。実はこれまで“立ち投げ”でしか投げたことがなかったのだ。これまで以上の記録を出し、ライバル達に追いつき追い越す為には、ハーフターンもしくはフルターンにフォームチェンジしなければならない。しかし習得する為に残された時間は余りに短い1ヶ月。しかも指導者が春に異動し、今いる顧問の中に円盤投げ経験者はゼロ。だが泣き言は言ってられない。
我流でやろう。
初めの2週間はフォームが固まらず飛距離はだだ下がり。体を回転さすために今まで以上の体幹が必要となり、足や腕の運び軌道、壁を作るタイミングも変わった。全てが手探りで少しずつ修正を重ねていく。
そして3週間目、完成したフォームを先生に動画撮影してもらいそれを繰り返し見ては同じ動きを再現する。
最後の2戦、夏季大会の1週間前にハーフターン完成。

いざ大会へ 練習を2投させてくれるのだが、ファール連発。そして本番1投目!ファール。
記録を残す為に2投目3投目は立ち投げに戻す。
なんとか数字は出して決勝進出。
5投目に自己ベストを出し入賞で大会を終える。
本人は意地の表彰台だったのだろう。帰宅した息子は「どや!」と賞状を私の胸に押し当ててきた。
2人でハイタッチ!充実感に満ち溢れた
ただ一方で、やはりフォームを完全に習得は出来なかったという事実と、ライバル達も当然レベルアップしているので、追えど追えど追いつけない事実が突きつけられた。

最後の夏季総体まで中1週間。
賭けに出よう、が息子の結論。
フォームをフルターンに変えるという。
ならば私も付き合うのみ。休みの日は公園で動画撮影してフォームチェックしながら何度も回転する。しかし、完璧な手応えは得られないまま時は過ぎ、大会当日に。

定刻。スタンド下の控え室からトラックに出て来た息子の背中を見ながら思った。
競技を始めてまだ1年。この大会に出るだけでも凄いこと。大した奴だ。怪我なくよくここまで来てくれた。今日も怪我なく無事終えてくれ!そして自己ベスト更新を”と。
さて練習はどのフォームで投げるのか。一投目はフルターン。左のネットに直撃。2投目のフルターンもネットに。さあどうする?
本番の1投目もフルターンだがファール。もう後がない2投目は立ち投げに。ところが、体のバランスが崩れた状態では全く飛ばず。
後から息子にこの時の精神状態を聞くと、この失敗で気持ちが切れた自分に腹が立った、との事だった。立ち投げに戻せば、いつでも30mは飛ばせる自信があったらしいが、実際には無理だった。直前にフォームを変更した事が仇となり、“心と体のバランス”が崩れた。
そして、最後の3投目は自己ベストラインの遥か手前で落下。肩を落とし無念の思いが滲み出る息子の姿は、遠いスタンドから見てもよくわかった。

決勝に進めなかった息子は、観覧席に戻ってきた。
「お疲れさん。よくやったな。ありがとう」とだけ声を掛け、私は一足先に帰路についた。家までの道中、いや家に帰っても、その日寝るその時までも悔しさが頭から離れなかった。フォームを無理に変えなければ、合宿に参加していれば…たられば言っても仕方がないのだが、脳裏から暫く消えなかった。

帰宅した息子の顔をまじまじと見る。よく日焼けしている。アスリートとして2年と数ヶ月よく頑張った。
息子は言った。「今日はあかんかったけど、円盤投げ面白いし高校でも続けるよ」と。続けて「2年生から始めてここまで来るお前は凄いよって言われたわ。あいつらも皆んな高校でも続けるって。〇〇はハンマー投げもしてみたいって言うてたけど笑」。

きっと、その境地に辿り着いた者同士の関係性があるのだろう。本当の切磋琢磨とは、仲良しこよしではない。互いに高め合い敬い、相手が記録を出せば素直に称え合う、私の経験した事のない境地に息子は行ったんだな。

悔しさを超え次のステージに行ってもらおう!
少しでもレベルの高い環境で感度を上げてほしい

学校→区→市→都道府県→地区→全国→亜→世界
世の中は広い、強いやつはいくらでもいる。
こういう構図は自分が学生の時には想像もしなかった。
これを考えるレベルの選手ではなかったから。
でも、地区に手が掛かりかけた息子が次のレベルに行ってもらう為に、親としてサポートできる事は何か、二度とたらればがないようにこれからは考えていきたい。
息子よ!感動をありがとう!

このnoteを作り始めて数日経った。
そして“世界陸上2023”が始まった。
やっぱ陸上は面白いな、とテレビを見る息子
円盤投げも映してほしいよな、と私
誰が円盤投げに興味あんねん、と息子
俺や!、と私笑

そうこうしている間に、円盤投げは男女とも決勝が終了
やはりテレビでは映らなかったので、投稿してくれる方のTLで逐一確認。やはりカッコいい最高の夏だ






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