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『アンパンマン』が誕生したのは、やなせたかしさんが50歳の年だが、すぐには認められなかった。今でこそ国民的な作品だが、当初は「顔を食べさせるなんて残酷」、「こんなみっともない主人公では売れない」など、編集部、批評家、幼稚園から酷評された。しかし、やなせさんは「正義とはかっこいいものじゃない」と譲らなかった。アンパンマンに込めた“本当の正義”とは、「お腹をすかせた人を救うこと」。彼は第二次世界大戦時、24歳で中国に出征。飢えに苦しみながらも日本の正義を信じて戦ったはずが、戦後「悪魔の軍隊」と呼ばれ、信じていた“正義”が一変した。自著『アンパンマンの遺書』では、「正義のための戦いなんてどこにもないのだ、正義はある日、突然反転する。逆転しない正義は献身と愛だ。目の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に、一片のパンを与えること」と綴っている。その思いを形にした前代未聞のヒーロー・アンパンマンは、大人たちの予想に反して子どもたちからの絶大な人気を博し、半世紀以上に渡って愛される大ヒット作品となった。やなせさんは、亡くなる前年に受けたNHKのインタビューで、次のように語っている。「(大人は)幼児の作品は、幼児用にグレードをうんと落とそうと考える。文章も非常に短くする。僕もそれを要求されたんですけどね、違うんですよ。全く違うんですよ。非常に不思議なことにね、幼児というのは、お話の本当の部分がね、なぜか分かってしまうの」彼の“正義”をいち早く理解したのは、紛れもなく子どもたちであった。

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