見出し画像

人規十七則

十七、人を治める

一、民衆の共通性として、定収入のあるものは恒心、すなわち落ち着いた善心を持っているが、定収入がないと、恒心がなくなる。もし恒心がなければ、勝手なこと不正なこと、何でもするようになる。そしてそのために罪に陥るや、待っていたとばかり刑に処する。これでは前もって網を張っておいて、かかるのを待っているようなものである。仁者が君主の地位にあるならば、このような政治はできるはずがない。

二、教えることと罰することの二者は、どちらも捨てることのできないものである。まず教える。教えるにあたっては、丁寧親切にすることが大切である。その後で、教えに従わない場合には罰する。この両者は、互いに助け合って効果があがるものである。教えることを主体とし、教えてもどうにもならない時、初めて、罰をもってその補助とする。罰は、極端を除くための一時の手段であり、教えは、始めであり終わりであり、一貫の道である。

三、聡明と深い叡智を発揮して、民衆をうまく治める。おおらかで温かいものやわらかさで、人々を豊かに包容する。積極的な強さで剛直果断でいて、信念をしっかり守る。慎み深く荘重でかたよりのない中正の立場にいて、人々の尊敬を集める。美しい文彩と条理が身に備わり細密にゆきとどいた明敏でいて、物事を区別する。

四、いにしえの桀王や紂王が天下を失ったのは、民を失ったからであり、民を失ったのは、民の心を失ったからである。天下を得るには道があり、民を得ればすなわち天下を得る。民を得るには道があり、心を得ればすなわち民を得る。心を得るには道があり、民の欲し望むものは与え、集め、憎み嫌うことは行わないようにする。

五、君子には「挈矩の道」つまり身近な一定の規準をとって広い世界を推しはかるという方法がある。民衆の好むことは君主も好み、民衆の憎むことは君主も憎む。このように民衆の心を推しはかっていくことのできる人を民の父母という。国を治めるものは、挈矩の道によらないで自分の好みや憎しみで偏ったことをしていたら、やがて国を滅ぼし身は殺され天下の大恥辱をこうむることになる。挈矩の道によって、民の父母と慕われることができれば、国家を保持していける。

六、物事には、天の時すなわち天候・時日その他しかるべき時機と、地の利すなわち地形の利害と、人の和すなわち人心の一致という三要素があるが、その天の時も地の利に及ばず、地の利も人の和には及ばない。

七、民に対する教と養との二面が備わり、寿・富・安・逸も成し遂げることができたならば、「心を得」、心をつかみ、「民を得」、民をつかみ、「天下を得」、天下を手に入れることができる。これは民を教え養った結果として、自然に遂げられた効果である。得るとは、自分のものとし、これが自分の自由になるという心持ちである。天下を得たなら、天下は自分のもので、自分の自由になるのである。民を得る、心を得るというのは、民の心が、君主の思う通りになることである。君主が望めば、民の心もまた同じようにしようと思う。このように、上下の心が常に一体一致であることが得るということてあって、君主の思うところと、民の心との間に、くいちがうところがあるならば、得るということができない。

八、天下を得るには民心をつかまなければならず、そのためには、民の望むものは民のために集めてやり、民の嫌うことは行わないようにすることを心がける。人情というものは、寿・富・安・逸を欲するものである。民をしてその風俗が美しく、行いが修まり、刑罰から遠ざかるようにさせたならば、それは民を寿、すなわち命長からしめることである。民をして貧しいもの苦しいものが恵みあい、病気のものが同情しあい、孤独な老人や頼るもののない孤児までも生活の道を得させたならば、それは民を富ませることである。そしてすでに富みかつ命長ければ、民を安、安らかならしめるというものである。逸、自由ならしめるというものである。

九、賢者を尊び、有能の士を使い、優れた人達がしかるべき地位にあって政治が行われれば、天下の人材はみな喜んでその朝廷に仕えたいと願う。市場では貨物を保管するが課税せず、貨物が売れないような場合には市場の法によって保管貨物を引き取るようにすれば、天下の商人はみな喜んでその市場に商品を貯蔵しようと思う。関所では人や物の取締りをするだけで通行税や関税を取らないなら、天下の旅行者はみな喜んでその道路を通りたいと願う。農耕者には公田耕作による収穫のみを納めさせ、私田には課税しないならば、天下の農民はみな喜んでその田野で耕したいと願う。住居に附加税がなければ、天下の人民はみな喜んでその国への移住民となりたいと願う。

十、君主は一人の心であるのに、この一人の心に向かって攻め寄せて来るものは多い。勇力、弁口、おべっか、偽り、好物で攻めて来たり、四方八方から自分を売り込もうとするので、少しでも油断してその一つを受けてしまうと、国家の危険や滅亡が、それを追いかけてついてくるようになる。超然として惑わされることのない、剛毅賢明な人柄とならなければならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?