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「スタローンになりたいな」第2話

2年前(と言ってもAUMの成長は人間とは速度が違うので見た目としては第1話から実質10年近く前)

カナ「アハハ、バッファのそれ、変なの」

カナ・ロールはバッファ・林の様子を見て屈託なく笑った

粗末な造りの薄暗い小屋、汚れたベッドの上でバッファは四肢をヒモで結ばれ身動きの取れない状態にされていた
この頃の彼の見た目はまだ幼い少年と言った所で手足はまだ細く、身長体重も現在と比べて随分と小さい

バッファ「カナ、うるさい。それよりもメシをくれ。腹がへった」

無表情なバッファの顔を覗き込んでいるカナもまだ無垢な少女のような年頃
彼女はバッファにニコリとしまりのない笑顔を返す

カナ「はいはい、今ほどいてあげるからね」

広大な牧草地を見下ろす丘の上、木陰の下に並んで座りパンをかじるバッファとカナ
その隣にはパンの山が積まれている

カナ「ねえ、バッファ。どうしてまたベットに縛られてたの?おじさんに悪さでもしたの」

バッファ「してない」

カナ「じゃあ、何で縛られたの?」

バッファ「オレは痛みを感じないから…」

カナ「うん、知ってるよ。でも痛みを感じないからって、それだけじゃ理由にならないよ」

バッファ「オレは痛みを感じないから、ただ普通に動くだけでケガしてるらしい。どこかに身体をぶつけたり、関節が変な方向に曲がってたり」

カナ「だから勝手に動かないようにああやってベットに縛りつけられてるの」

バッファ「ああ、ケガが治るまでの間な。オレにはよく分からないけど寝返りもダメだって言われた」

カナ「ふーん、痛くないのって便利そうに思ってたのに意外と大変なんだね」

新しいパンを隣の山から手に取るバッファ

バッファ「どうでもいいよ。オレは腹がふくれて眠りさえ出来ればそれで十分だ」

カナ「…ンフフ」

バッファ「何かおかしいか?」

カナ「いや、おじさんって実は優しいのかなって思って。あんな怖い見た目してるのにバッファの身体のことよく考えてるんだなって」

バッファ「おじさんは怖いよ。オレをサンドバックにしてる…」

おじさん「お前らこんな所にいたのか」

2人が振り返るとおじさんと呼ばれる汚い身なりをした中年の男が立っていた

おじさん「バッファ、いつもの場所に行くぞ。カナは…」

おじさんは目の端でカナの太ももを見る

おじさん「カナ、お前は小屋の方へ戻ってなさい。オレも後で行く」

カナ「…はい」

森の中、走って逃げるバッファの後ろをおじさんが追いかける

おじさん「ほらバッファ、動かす筋肉の使い方を脚の先まで意識しろ。足裏がしっかりと地面をとらえているのを感じるんだ」

ハアハアと息を切らし必死で木立の間を抜けて行くバッファ

おじさん「枝にぶつかるな、しっかり視覚で障害物を確認しろ」

しかし石につまずいて地面に転んでしまうバッファ
後ろからおじさんが追いつき首根っこをつかまれる

おじさん「だから何度も言っているだろ、お前には痛覚が無い。それをその他五感をフルに使うことで補うんだ」

そう言うとおじさんはいきなりバッファのみぞおちを思い切り殴った

バッファ「ゴホッ!?」

咳き込んでその場にうずくまるバッファ

おじさん「苦しいか、息が出来ないだろう。お前は痛みを感じないのかもしれないが、今の内蔵へのダメージで肺が萎縮しているんだ」

バッファは必死で息を吸い込もうとするが身体が言う事を聞いてくれない

おじさん「こんな風にな、痛みを感じないお前を苦しめる方法はいくらでもある。相手と戦う時はそのことにも留意しろ」

何度も咳き込んでから何とか立ち上がるバッファ

バッファ「…はい、おじさん。分かったよ」

数日後、前と同じ丘の上に並んで座るバッファとカナ
バッファが数日前の様子を話して聞かせる

バッファ「だから言っただろう、おじさんは怖いって」

カナ「ふーん、やっぱり見た目通りの人なのかな…」

バッファ「多分オレをサンドバック代わりと思ってるんだ。ここにはオレとカナとおじさん以外誰も住んでいない田舎の牧場だからすることが無い」

バッファの話をうつむいて聞いているカナ
その隣、無表情で淡々と語るバッファ

バッファ「まあ、それでもここでオレにメシをくれるのはおじさんだけって知ってるから、どんな扱いでも何も思わないけどさ」

カナ「本当にそうかなあ…」

バッファ「…?」

カナ「この間いつも牧場までパンを届けてくれるおばさんに聞いたんだ。おじさんはね、今はこの牧場でわたし達の世話係をしてるけど、昔はもっと町の方でトレーナーをしてたんだって」

バッファ「どういうことだ?」

カナ「トレーナーは何か理由があって辞めちゃったらしいけど。おじさんはバッファにいじわるしてるんじゃなくて、バッファが強くなれるようにトレーニングしてくれてるんじゃないかな本当は」

顔を上げるカナ、少し虚ろな目でバッファに笑いかける

カナ「きっとバッファのことを思ってるから厳しく相手をしてくれてるんだよ。いつかAUMの試合でチャンピオンになれるように」

開けた牧草地、バッファはおじさんと組手をしている
バッファはおじさんに向かってパンチを繰り出すが軽くいなされる

おじさん「伸び切った筋肉ほど脆くて役に立たないものは無い。出した拳は素早く戻せ」

バッファ「ハァ、ハァ」

腹部を護るような姿勢のバッファをおじさんが拳で打つ

おじさん「痛みが無くてもガードは大事だ。しかし、お前みたいな甘いガードだと、こうだっ」

おじさんのの掌底は的確にバッファの顎を打ち抜く
脳を揺らされたバッファは視界がブラックアウトしてその場に仰向けで倒れる

おじさん「今日はここまでだな。オレは先に帰る」

倒れたまま空を見上げているバッファ

数日後、丘の上で仰向けになり空を見上げていたバッファ
どこからか飛んできたのか蜂が彼の手の甲にとまる
バッファはそれをもう片方の手で捕まえるとそのまま手の甲の上でハチを握りつぶそうとする

カナ「止めてっ、ハチがかわいそうでしょ」

気がつくと彼の後ろにカナがやって来ていた

バッファが手を開いて蜂は逃げ飛んでいく

バッファ「どうしてかわいそうなんだ?」

カナ「どうしてって…、生きてるんだから当然でしょ」

バッファは無表情のままカナの目を覗き込む
しかし彼女は目をそらしてしまう

バッファ「何か変だな、カナ」

カナ「…全然、そんなことない。あっ、バッファの手、刺されてる」

見るとバッファの手の甲は先程の蜂に刺され痛々しく腫れていた

バッファ「大丈夫、これくらいならどうってこと…」

それを見てカナはとっさに彼の手の甲に顔を近づける
そして毒を吸い出そうと患部に口をつけたのをバッファは何も言えず黙って見ているしかなかった

その夜、ベットに横になっていたバッファだが
昼間カナの口が手に触れられた感触を思い出して寝付けないでいた
仕方なく小屋から出ると薄闇の中から奇妙な音が聞こえてくる
その音の方へ彼が近づいて行くとその音はカナが寝ているはずの小屋の中から聞こえていた
少し躊躇したバッファだったが昼間のこともあり
入口のすき間からそっと中を覗くとそこで信じられない光景を目撃した

小屋の中では服を脱がされたカナの上に下半身を露出したおじさんが覆いかぶさって激しく腰を打ち付けていた

薄明かりに見えるカナの表情は全てを諦めたように何の感情も持ち合わせていないのに
その上で上下する黒い塊となったおじさんは興奮で呼吸が激しく乱れている

そしてそれをすき間から覗き見ているバッファの下半身は頭ではその光景の意味を全く理解していないはずなのにどうしようもなく熱を持ち始めていた

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