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ロシア経済(7月30日)

(6,931 文字)

7月30日:何でも発明できる

露国営経済紙ヴェドモスチ: ロスネフチ研究所長、コンスタンチン・ルディヤック
「私たちは必要なものは何でも発明できる(注:できたとは言ってない)」
輸入代替と石油業界の展望を語る

ロスネフチ:ロシア最大の国営石油会社

2022年2月に欧州諸国と米国が露に開始した制裁措置により、石油産業は輸入技術や設備から事実上切り離された
露の科学が輸入代替問題をどう解決するのか、なぜ人類はすぐに石油を手放せないのか、ロスネフチの共同研究開発センター責任者コンスタンチン・ルディアックがインタビューに答えた

-現在、露石油精製業界は、輸入技術にどの程度依存しているのでしょうか?
また、代替可能でしょうか?

-依存度は高いとは言えません
以前は、ほとんどの一次精製装置(石油から生じるガスの分離、石油の蒸留)を保有していました
二次精製装置(蒸留で得た石油産物を触媒作用を使って精製し、市場性のある品質にすること)はより複雑で、輸入された機器を使っていますが、簡単に代替することができます
ロスネフチの開発状況についていえば、自社で独自の新世代改質触媒の生産設備の立ち上げが予定されています
改質工程では、高オクタン価のガソリン、芳香族炭化水素、水素ガスが製造されます
改質触媒装置(改質は、石油の深層精製において、重質原料から高オクタン価ガソリン成分、軽油成分、不飽和脂肪酸ガスを製造する最も重要なプロセスの一つです)は、まだ輸入品が多いのですが、すでに自社製品の試作を行っています
これにより、近い将来、今使用している外国製改質触媒装置を国産触媒装置に置き換えることが可能になります
そして、我が社だけでなく、他社にも提供できるようにします(注:つまり、露内企業には無い)
そして、輸入品よりも良い改質触媒装置を作るようにしなければなりません

-できるのでしょうか?

-かなり可能性があります
例を挙げると、2018年には、同じ運転条件で3つの反応器で改質触媒装置をテストしました
ある反応器には当社の装置を、別の反応器にはアジア製を、そして3番目の反応器にはヨーロッパ製を設置しました
私たちの装置が、他のものより2倍長持ちしました

-御社の触媒装置は、すべて露製の部品で構成されているのでしょうか、それとも輸入部品が含まれるのでしょうか?

-まだ、輸入部品を使っているものもあります
重要な部品のうち、プーラルといくつかの種類のゼオライトを代替する必要があります
プーラルは触媒の原料の一つで、粉体です
ゼオライトは微結晶で、多くの改質処理プロセスや接触分解用の触媒の成分として使用されています 現在、ヨーロッパより品質は落ちますが、中国産の原材料を使用することを検討しています
独自に開発します
スピード感はありませんが、我々が何を得たいのか、どうすればできるのかは分かっています
露は資源に乏しい国ではないので、さまざまな原材料を見つけることができ、ほとんどのものを生産することができます
(注:千年前から同じ状況である)

- 制裁がもたらす問題は?

- 問題はありません、困難があるだけです
例えば、石油化学工業用の触媒 露国内の需要があまり高くないため、ソ連時代からほとんど輸入に頼りでした
石油化学工業用の触媒不足により、ポリエチレンやABS樹脂などの生産は困難になる可能性があります
しかし、その構造を知っており、製造方法は明確に理解しています(注:北朝鮮も同じだ…)

私たちは、必要なものは何でもデザインし、発明することができます
もうひとつは、その製品を作るための生産設備が作れるかどうか、設備があるかどうかということです
しかし、この問題も解決可能であるように思います

-2年前、ロスネフチは合成油製造装置を設計しました
テストは終わりましたか?今使われていますか?

-私たちは技術をさらに発展させてきました
この装置は、気候条件の厳しい北部で設計・製造される予定です
(注:つまり、テストは終わっていない)
私たちは、石油から生じるガスから合成油を生産することを目標に掲げています
油田プラントは比較的容積が小さいので、コンパクトな装置が必要です
そういう設計になります
一方、世界各地で巨大なガス田から産出されるガスを処理するプラントは設計されています
そのようなシステムが、例えば中東の同業者ではすでに稼働していますが、もっと高価で、金属を多用し、複雑な機械を多数搭載した設備です
実際にパラフィンが生産されたとき、有用な液体を手に入れることができます
私たちがやっていることは、輸入代替ではありません、根本的な革新です
(注:つまり、未知の領域に挑戦しています!)

これらの合成油は、環境要求上好ましくない硫黄化合物や窒素化合物を実質的に含んでおらず、合成軽油を使用した場合の排ガス組成は、人体や環境に有害な成分が少なくなります
私たちの装置は、メタン、エタン、プロパンガスの処理が可能で、原料の組成にあまり影響を受けません
プラントにこの装置を組み込んで、ガスをディーゼル燃料に加工できるようにし、将来的にはヘリコプター用のジェット燃料に加工できるようにしたいと考えています
さらに、合成油は硫黄や芳香族を含まないため、井戸の掘削に使用される掘削泥水にも適しています

-御社の研究所は、頑丈なポリマーでできたオイルケーシングを製造する技術を開発しました
なぜ、金属製パイプからプラスチック製パイプに交換する必要があったのですか?

-金属パイプに比べて耐久性が高く、錆びないのが特徴です
また、軽量でありながら、動的な負荷によく耐えることができます
生産量1トンあたりの単価では、プラスチックパイプと金属パイプはほぼ同じです
このパイプを石油生産に使うのはまだ先で、今年2月に研究所の全テストを終えたところです
現在、ユガンスクの井戸に4kmのパイプを設置し、工業試験を実施しています
このパイプの製造に必要な高品質のポリペンタジエンポリマー製造の触媒装置の特許を独自取得しており、外部サプライヤーからの独立を実現しています

-このポリマーは、ケーシング以外にも使えるのですか?

-2月24日に特別軍事作戦を開始し、欧米諸国から制裁を受けるより以前から、自動車メーカーから「デザインを提供するので、外装部品の一部を生産してほしい」という依頼を受けていました
パンデミックで、一部構造部品の製造コストが上昇したため、各社は代替材料を探し始めていたのです
私たちのサンプルを分析した結果、日本のものよりも優れているという結論に達しました

-では、これらの自動車メーカーとは、すでに契約を結んでいるのでしょうか?

-まだですが、夏の半ばまでに検討を終えテスト用パーツを工業的に生産することで合意しています
要は、私たちは素材の作り方を理解し、彼らがそれをどう使うかを理解するだけのことです

注:ロシアの自動車メーカーの惨状については下記の記事を参照ください

-貴社では、他にどのような有望な開発に取り組んでいますか?(注:有望=露に無い)

-発電所の運転に使われる難燃性オイルを開発しています
興味深いのは、そのようなオイルは1970年代にソ連邦時代には、ドンバスで生産され作られていたのに、今世紀初めには生産が途絶えていたことです
現在は、独自のライセンス技術で生産しているオランダや米国などの外国から購入しています
失われた生産量の回復を目標に掲げ、自社製と国産原料を使用し、輸入品に勝る油となるよう技術改良を進めています
現在、テスト中です

-世界は気候変動に対する中立性を目指しており、一部の国では代替エネルギーへの切り替えプログラムを策定しています
この新しい世界に、石油の居場所はあるのでしょうか?

-石油を手放すのは得策ではありません
昨年、ヨーロッパは風力発電に賭けたが、その不安定な稼動により、各国は記録的な高値で化石燃料を購入しなければならなくなりました
燃料としての石油の使用は時とともに減少していくが、完全に無くなることはないでしょう
バランスが取れてくるでしょう
すでに、鉄道はほぼ全線が電化されており、いずれは都市交通もほぼ全線が電化されます
しかし、他地域への長距離移動や貨物輸送には、今後も自動車燃料を使用した方が効率的です

-石油から生産するのは、ガソリンだけではありません
他の製品作りへの方向転換はあるのでしょうか?

-問題は、露の石油化学は石油精製ほど発達していないことです
現在、石油化学原料で、石油から生産できているのは5〜7%程度です
しかし、この数値を50%まで大幅に上げようとする意味はありません
なぜなら、現状ではそれを使用可能な材料に変換する方法がないからです
石油化学原料からいろいろなものがつくられます
建築材料、衣料品、金属の代替、さまざまなプラスチックの製造......

別の話だが、石油を原料とする製品が、他の材料を原料とする製品よりも必ずしも安価で、消費者特性も優れているとは限りません
石油化学製品の種類は非常に多いが、経済的に成立するようなユニークな製品を石油から作る方法はまだ見つかっていません
(注:つまり、露において石油化学分野が発展する見込みは皆無)

7月30日:「今こそロシアの発展に目を向ける時」

露国立石油ガス大学石油精製技術学科長ウラジーミル・カプースチン
「今こそロシアの発展に目を向けるべきとき」露内石油精製の発展について

ロシア国立石油ガス大学:日本で言えば東京工業大学のようなもの。

欧州と同じレベル
露で石油精製の深化が本格的に始まったのは、2010年、露政府が「ユーロ5」環境基準の高品質な自動車燃料の生産に段階的に移行する方針を打ち出してからだ
その翌年、石油会社、FAS、Rostekhnadzor、Rosstandartは、石油製品を生産する製油所を新環境基準に適合するための4者間協定に調印した
その結果、2016年7月1日から硫黄含有量を減らした「クラス5」燃料の生産を開始し、欧州と対等の立場で活動できるようになった
現在、露が生産するディーゼル燃料の半分は、主にEUに輸出されている
連邦税関によると、2021年に1億4400万トンの石油製品を輸出し、そのうち自動車用ガソリンは440万トン、ディーゼル燃料は4440万トンにのぼる

露の精製深度は、グリーン燃料の生産量に比べると欧州にやや劣る
2010年は6割にとどまった
一方、米国では95%、欧州連合(EU)では90%に達している
軽油製品(石油を蒸留して得られる透明な製品:ガソリン、パラフィン、ディーゼル燃料など)の生産量で遅れをとっているのが目立つ

当時は主に重油を輸出し、欧州はこれを深層精製施設の原料として熱心に買い求めていた
露企業は、これだけで大きな利益を得たので、自社のプラント建設への投資を急がなくなった
コストがかかるからなおさらだ
例えば、真空ガス油分解装置(高沸点油フラクションの処理装置 )の建設には20〜30億ドルかかるのだという

その結果、露石油会社は、精製装置にあまりお金をかけずに、ガソリン、パラフィン、軽油を露国内市場に供給する役目だけを果たした
2017年、燃料油の輸出に100%の関税を課しても状況は根本的に変わらなかった
もっと精力的な露政府の取り組みが必要だった

昨年春、露政府は国営石油会社および独立系製油所と、30基の二次精製装置をアップグレードする契約を締結した
これらの計画への投資を逆輸出税で補償するために、合計1兆ルーブルが割り当てられた
石油会社はすでに機器の購入を始めている

輸入品か代用品か?
環境により優しい燃料への移行と製油所の近代化計画は、世界的な気候変動問題と密接に関係していた
そのせいか、2014年に行われた部門別制裁では、石油精製には及ばなかった
長い間、この分野には規制の影響はないだろうという共通認識があった
そのため、石油会社は、たとえ露製の同等品があったとしても、輸入された機器や技術を優先的に購入した

輸入代替プログラムが開始され、露国内開発が進んでいたが、外国企業の実績は、国内企業よりもはるかに多く、露メーカーでは入札手続きに参加すら許されないことがあった
露内のサプライヤーを採用するほどの厳しい要求はなかったのだ
数年前に、露のサプライヤーに対して、もっと積極的な規制当局のサポートが必要だったのかもしれない
その結果、第二石油精製所の設備更新のために購入した機器の8割は輸入品となっている

カウンターパートを求めて
2022年、欧州の制裁は初めて石油精製に直接影響を与えた
前払いした輸入機器の納品すらも凍結された(契約金額の70%に達する前払いの契約もあった)
そして、それが最終的に、いつ、露の顧客の手に渡るのかは、もう誰にもわからない
一部の製油所では、輸入した設備と触媒で何とか工場を建てている
しかし、それをどうやって維持するのか、どこから部品を調達するというのか

今こそ、露の独自技術に目を向けるべき時だ
もっと積極的に活用し、あらゆるところで外国の技術を露の技術に置き換えていこう
そう、その多くは、どうしても「成長痛」を感じるだろう
しかし、承認と洗練がなければ、露国内の開発を国際的なレベルにまで引き上げることはできない
そして、それは可能であり、やらなければならないことなのです
自国の石油精製を維持するための問題です
機器の棚卸しをして、何を何と代替できるかを把握するのです

エネルギー省は石油会社と一緒に、代替となる供給先を探している
各社とも、露の機械工場とスペアパーツの生産契約を結んだり、カザフスタンや韓国のサプライヤーと交渉したりと、輸入品に代わる選択肢を準備しているようだ
多くの未完成施設の建設は停止している

主な「犠牲者」は、軽質油を深層精製する主要装置である、コークス化装置の遅れである
米国メーカーは機器やスペアパーツの納入を無期限で停止している
すでに、これらの製品の販売時期が後日にずれ込むことは明らかです
新たな販売日は不明だ
現在でもまだ、露では複数の遅延コークス装置が稼動しています
(複数の平行通路を持つ炉で、残油原料を熱分解温度まで加熱する装置)
Nizhnekamsk、Ufa、Novokuibyshevsk、Volgograd、Omskにあるもので、ソ連と露の技術が使われているものです
Nizhnekamskの2工場とUfaの1工場では、露の新技術が採用されています

露メーカーにもチャンス
輸入代替の時代、露企業は、塔、反応器、タンクなどの大型精製装置の製造方法を学んでいる
今日のアキレス腱は、ポンプ、コンプレッサー、自動化されたプロセス制御システム(PCS)である
これらの分野では、かなり深刻な遅れがある
米国のハネウェル社や日本の横河などの海外の有力メーカーには遠く及ばない
露のPCSは、国際的な設備の優遇もあり、長い間影に隠れ、目立った成果を上げることができなかった
しかし、いくつかの小規模な工場でテストされ、非常にうまく動作している
また、露製のポンプやコンプレッサーが輸入品と置き換わった例もある
残念ながら、輸入品よりも失敗が多いのは、まだ「成長痛」をすべて乗り越えていないからだ
露メーカーに機器を生産し、修理し、ノウハウを向上させる機会を与えなければならない

一時的な解決策
一時的な解決策として、露国内向けに(注:基準の緩い)ユーロ4燃料の製造に戻す可能性も否定はできない
かつてEuro-5に切り替えさせられたとき、輸入した技術や添加剤、触媒の基準を超えるように、より厳しい条件を作り出した
Euro-5燃料の製造には、より高度な設備が必要だった
しかし、Euro-4燃料であっても、環境に配慮して硫黄の含有量は少なくなっています
また、露の建物は、欧州の都市と違って少量の硫黄化合物で破壊される細かい粘土は建築に使われていません

Euro-4への切り替えが実現すれば、あらゆる機器やスペアパーツの要求が下がり、触媒も完全に国産に切り替わります
実績は十分です
例えば、ロスネフチの科学者は、独自の改質処理触媒を開発しました
国産の改質触媒(低硫黄燃料留出油製造用)の開発課題は解決されています
ロスネフチの研究所の科学者たちは、その作成に非常に近づいているが、商業生産にこぎつけるには、時間がかかるでしょう

市場を求めて
露の石油精製の将来は、露国内産業の能力だけでなく、市場にも依存します
制裁で、露の石油製品の物流、支払い、供給に問題があります
製油所はすでに稼働率が低下しており、多くの下流部門が閉鎖される可能性があります
これは機器自体に悪影響を及ぼす可能性があります
アイドル状態の機器は非常に腐食しやすいのです
石油製品の消費者を一刻も早く見つけることが重要です
欧州市場が最終的に閉鎖された場合、アジア・アフリカ市場に振り向けることも選択肢の一つです

石油を売る方が簡単だが、石油製品を売って精製インフラを維持・発展させた方が良いのは確かだ
少なくとも今後数十年間は、石油と石油製品には未来があります

(つづく)

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