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日記2(姉は昔、多分別の何かと入れ替わった)

 昼前に起きた僕は、LED照明のように部屋を照らす障子から目を逸らした。ゆっくりと体を起こし、電子ピアノ用のスツールに置かれているメガネをかけ、昨夜に小説を読み進め過ぎたことを反省した。布団を畳んだ後、寝巻きの上からセーターを被り、洗顔、歯磨きを行う。台所に行き、サラダ用のブロッコリーとアスパラガスを取り出しマヨネーズをつけて食べた。電気ケトルに水を入れた頃に時計は11時30分を指していた。少しすると、2階から階段を下る足音が聞こえてきた。
 我が家では父と姉が二階の住人だが、足音を聞けば誰が降りてくるのは必ずわかった。父の足音は途中まで鈍く低い音が静かに連続するが、最後の段を踏まずに飛び降りるのでドスンとその移動を締めくくるような大きな音がする。床が心配ではあるが、好きな物音の一つだ。一方で姉の足音は軽快で鋭い、切迫したような音で、僕は不吉だと感じている。階段を降りる音だけでなく姉が立てる音は特徴的で、大抵分かる。僕は鍵を忘れた姉がインターフォンを押した時も絶対に分かる。その時はインターフォンが伝える音にいらつきのようなものが含まれているからだ。
 今回聞こえてきたのは不吉な足音の方だった。白湯を入れたマグカップを持って自室に退散しようとしたが、呼び止められた。

 色々言われた気がするけど、ほとんど記憶に残らなかった。姉に対して、何もしないのが吉だと思っているため、関わり合いになりそうになった瞬間、心を閉ざし、嵐が過ぎ去るのを待つようにしている。姉に対して無気力になるのが癖になりつつあり、それなら一切関わり合いたくないと思ってしまう。

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