「性」事断片(0002)

「「性」事断片」の「0001」で、田中香涯の著書『増補三訂 医事断片』(1902)に収録されている「精神病者としてのルーソー」を取り上げすこしコメントしてみた。

その時、「精神病者としてのルーソー」というテキストのポイントを4点あげた。①森鷗外の論考「ルーソーガ少時ノ病ヲ診ス」を先行研究と位置づけ引用している、②「色情狂」概念を使用し、その概念をルソーに適用している、③「異常の情慾」という概念も使用している(ただし「性欲」「性慾」概念は不在)、④性的倒錯(田中はこの概念は使っていない)の2形態、「露呈症」と「被打症」への言及がある、という4点である。

わからないことは、この「精神病者としてのルーソー」の初出、あるいは、いつ書かれたのか、ということである。どういう媒体に発表されたのか、また、いつ発表されたのか、ということである。本当は、できれば、実際に原稿として書かれたのはいつか、もわかると、例えば「色情狂」概念の広がり問題の事例として、より大事なものとなるはずである。

先ほど「国立国会図書館デジタルコレクション」を利用する、という手段を思いついた。善は急げですぐ実行してみた。

「精神病者としてのルーソー」を検索語として検索すると、6件の書籍がヒットした。煩雑ではあるが、画面上に並んだ書籍の情報を以下に抜き出し挙げておく。

①平出謙吉『東西医学変遷史稿』半田屋医籍、明34.12(1901)
②佐藤勤也編『實用産科學 前編 新訂12版』 半田屋醫籍商店、1901(明治34)
③田中祐吉『医事断片 増補2版』半田屋医籍、明34.9(1901)
④田中裕吉 著[他] 半田屋医籍, 明35.8(1902)(「祐吉」が正しい)
⑤川原汎 編訳『衛生学綱目 増訂4版』半田屋医籍、明35.1(1902)
⑥井上豊太郎述『眼科学手術篇』半田屋医籍、明35.3(1902)

このうち①②⑤⑥の4点は、③の広告が、巻末に載っており、その内容として「○精神病者としてのルーソーを論ず」という記載があったためにヒットしたものである。③と④は、「精神病者としてのルーソー」のテキストを含み目次にも載っているためにヒットしたものである。

『医事断片』の「増補2版」、実際には「増補再版」と記述されている、を見ると重要な事柄がわかった。
130頁でいったん「終」と表示され、131頁から「医事断片 再版追補」が205頁まで続き、そこで再び「医事断片 終」となっているのだ。「精神病者としてのルーソー」は、「再版追補」に含まれている。初版に入っていたテキスト部分は、130頁までで、131頁からは、再版になって追加された田中の論考である、ということになる。

奥付を確かめると、『医事断片』の初版は、1900年(明治33年)3月22日発行である。これに対して、『医事断片 増補再版』は、1901年(明治34年)9月24日発行である。
とすれば、再版(第2版)に追加された「再版追補」の諸論考は、「精神病者としてのルーソー」も含めて、1900年3月から、1901年9月までに書かれたものである、と判断する合理性があるように思う。

『医事断片 増補2版』『医事断片 増補再版』には、1901年8月と記された、佐多愛彦(1871‐1950)の「序」があるので、「精神病者としてのルーソー」が書かれた可能性は、1901年7月まで、とになるのではないか。

つまり、初出雑誌は不明のままであり、原稿執筆についての時期も不明であるが、どこかに発表印刷されたものが再録されたとすれば、1900年3月から1901年7月までに間のものであろう、ととりあえずが判定しておくことができる。

したがって、「色情狂」概念ということであれば、1900年または1901年に田中香涯(田中祐吉)により使用された/使用されている、と考えることができる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?