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夜間走行

私の尊敬する作家の1人に世界で大ベストセラー『星の王子さま』を産み出したサン=テグジュペリがいます。

彼の著書に『夜間飛行』『南方郵便機』『人間の土地』があります。どれも、本人の自伝的作品です。
まだ、飛行機による郵便輸送の草創期に命がけで空を飛び回った男たちの物語です。
当のサン=テグジュペリも郵便飛行をしていて、第二次大戦末期にナチスの偵察機により撃墜されて散ります。

そんな危険な仕事をしながら、文学をしていたことに憧れたのです。

サン=テグジュペリの話をしましたが、本題の『夜間走行』は私のトラックでの夜間、長距離輸送についての話です。
若干の共通性を感じたのです。

何故、長距離輸送を夜間にするかは、時短です。昼間は交通量が多くて距離を縮めることができません。

だから可能な限り夜に走って距離を縮めるのです。
時間と空間は密接な関係で、速度に応じて到着時間が早まるのはご存知の通りです。
100キロを時速100キロで走れば1時間で到着です。 50キロで走れば2時間かかります。
基本的に一般道は高速の倍の時間がかかります。そのため、私たちは短縮している時間をお金を出して買っているのです。

仮に夜間走っているトラックが全て一般道を走った場合は、皆さんのご存知の通りです。

事故や大雨、大雪で高速が何区間も通行止めになると一般道に全ての乗用車、トラックが雪崩れ込んで、大渋滞を巻き起こします。
道路交通ネットワークは、人体の血流のようなもので、血管に不純物があるとそこで急激に流れが悪くなったり、完全ストップしたりします。
交通事情は血流の拡大図のようなものです。

そんな道路を毎日、夜間走行しています。
長距離運転手は、それは昔は女性にもてたそうです。今から30年~40年前の話ですが、『佐川急便の荷物で走ると月に100万は稼げる』という話をどこの県に行っても聞きました。

今はその半分稼げる運転手を探すのに苦労するほどに下がっています。
私は大手運送会社のため、勤務時間に制限があるため、月に40万も最近では貰ったことがありません。

しかし、現代の賃金は30年前からどの業種もあまり変化がないと、言われていますから運送業だけが上がるはずがありません。
製造業、小売業が儲からないと、それらと連動している運送業が上がらないのは当然の仕組みです。

話がそれて給料の話になってしまいましたが、夜間を大型トラックで走っている人のほとんどが、最初は給料にひかれて長距離を走るようになったはずです。
近距離の地場輸送だと30万稼ぐのに苦労します。

それに走りやすさを考えると、渋滞する昼間より夜間の方が快適に走れるのです。
しかし、一般ドライバーの立場から想像すると『夜は眠くて、事故をしないですか?』という質問を何回もされたことがあります。

その点はご心配ありません。昼、仕事をしている人は夜寝ますけど、夜の仕事の人は昼に寝ます。昼と夜が逆転した生活をしているのです。

しかし、やはり人間は昼に活動して、夜は寝るものです。しかも、昼は物音がするから、目覚めてしまって連続5時間寝ればいい方です。

私の経験上導き出した夜間走行のために必要な睡眠時間は、最低3時間30分です。
3時間の睡眠を切ると、幻影が見えることがあります。高速道路で目の前にあるはずがない壁が見えて急ブレーキを踏んだことがあります。他にも、前にいるはずがない車がいたので、追い越し車線に入ろうとしてクラクションを鳴らされたことがあります。

現代はこのようなことはありません。
2024年問題はもう来月の4月なのです。大幅に勤務時間が制限されます。

しかし、現場で働く私たち運転手はお上に従うしかないのです。

今、私が仕事上意識しているのは、如何に積み込み時間とおろし時間を短縮できるかです。
運転時間の短縮は物理的に不可能です。大型車の速度はどんなにアクセルを踏んでも90キロでリミッターがかかるからです。

だから作業の時間短縮です。
能力の定義は同じことを短い時間で他の人よりこなすことです。

このことを同業の友人Yさん52歳に話したところ、『長距離運転手は如何に目が強いか』だと言われました。

Yさんは日本中どこにでも走っているベテランです。
彼の凄いところは、体調がいい時は30時間も連続で走れる目の強さを持っていることです。

私には到底不可能です。眠くて事故を起こします。

Yさんのように昔ながらの運転手は、夜間走行に誇りとロマンを感じて日々お客様のお荷物を運んでいる人もいます。

おそらくサン=テグジュペリもYさんのような忍耐強さとロマンをもって大空を飛んでいたのだろうと思います。

2024年問題に幸あれです。




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