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サッカーが持つ「責任」と「社会的意義」を考えた異国での日々

love.futbol japanの活動内容や、そこに関わる上での想いや奮闘をお送りするインタビュー。前回は、河内さんのlove.fútbolとの出会いや関わっていく中で変わった価値観などをお伝えしました。今回は、後編として日本から遠く離れた異国の地アルゼンチンに住むことで見えた日本社会との違いや、改めて感じたサッカーの魅力についてお聞きしてきました。


▼前編はこちら



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河内一馬(かわうち かずま)

1992年生まれ。サッカー指導者。アルゼンチン在住。アルゼンチンサッカー指導者協会名誉会長が校長を務める監督養成学校「Escuela Osvaldo Zubeldia」に在籍中。サッカーを非科学的な観点から思考する「芸術としてのサッカー論」筆者。love.futbol japanの理事を務める。



アルゼンチンが置かれている状況

** アルゼンチンに住まれているとの事で、様々な点で日本とは全く異なる国だと思うんですけど、アルゼンチンに住んでいて感じる独特の社会問題などはあったりしますか?**

やっぱり日本とは全然違くて、人のキャラクターも、国の状況も違うと思うんですけど、アルゼンチンは今、国の歴史から見ても経済的に良くない時期で。アルゼンチン人を見ればわかるんですけど、良い意味でも悪い意味でも、日本人からすると適当に思えることがすごく多いんです。それもあってか、経済がずっと安定しないんですよ。今はインフラで物価がすごく上がっていて1日でお金の価値が変わってしまいます。それこそ、自分が初めてアルゼンチンに来たときは今の物価とは全く違くて、日本円の価値が倍になってるんですよ。僕は日本円ベースで生活してるので、物価が上がる前は助かっていたんですけど、今は物価自体が上がっているので大変です。アルゼンチン人にとっては給料が同じなのに支出が多くなっているので、さらに大変な状況だと思います。

アルゼンチンは元々移民の国なので、いろんな外国人も住んでいて、お金持ちは沢山いると思うんですけど、ただやっぱり格差は物凄くあって。ちょっと外れたところに行くと、スラム街みたいな所ももちろんあります。


** 全体としては経済格差が広がっちゃってて、そこで苦しんでいる人が多いって感じなんですか?**

そうですね。一般の人たちも昔に比べて全然贅沢できなくなっていて、旅行に出かける人 とかも少なくなっているみたいです。あとは、サッカーをやっている子供とかでも、やっぱりお金の問題は必ずあって、例えばユニフォームを買うお金が無いだとか、クラブの備品を揃えられないとか。日本とは状況が違いますね。


国が違えば異なる「サッカー観」

** アルゼンチンではサッカーを見ることって、贅沢なレジャーっていう扱いになったりするんですか?**

いや、アルゼンチンのサッカーは比較的安いと思います。チケット代も去年に比べたら上がってるんですけど、ゴール裏とかは安く見れますね。なのでこっちの人にとって、サッカー観戦は何か高価な物とかっていう扱いではないとは思います。あとは、みんな基本クラブの会員になっている人も多いので、試合の度にお金は払ってない人もいます。年間でいくらっていう形。それもクラブとかによって全然違くて、有名なところでいうと、「ボカ」とか「リーべル」っていうクラブがあるんですけど、リーベルは比較的裕福な層が多くて、逆にボカは貧困な地域なので、サポーターとかのキャラクターに明らかに違いが出てくるんですよ。試合の雰囲気とか。そういうのはすごく面白いですね。

でも本当に貧乏で暮らしていくお金が無かったとしても、サッカーを見ることは辞めないと思いますね、あの人たちは。それこそ、日本でトヨタカップの決勝が行われた時は、リーベルのファンの中には車を売ってでも行くような人もいたそうです。サッカーへの情熱は凄いですね。

** もう優先順位が違うんですね。**

だから本当に、日本とはサッカーの捉え方が違います。前提が色々違うので。

** そうですね、日本だと週末の娯楽とかから入ってくる人とかはいますけど、娯楽とかいう次元じゃないんですね。**

そうですね。もちろん娯楽が日本より少ないっていうのは当然あるし。ただクラブのサポーターであることに対して、それはもう人生の1つのアイデンティティというか。みんなが持っている、みんなが愛を持っている。それが違いますよね。だいたい家族で、お父さんが好きなクラブを子供も好きになるみたいな感じですね。

** 日本みたいにグラスルーツの世代とかの育成システムってしっかりしてるんですか?**

日本とはやっぱり全然違くて、さっき言ったボカとかリーベルみたいな大きなクラブになるとお金もあると思うので、ヨーロッパみたいにしっかりと育成が行われていると思います。計画的に才能のある子どもを連れてきて、システマチックに選手を育てて。ただ他の街クラブみたいなところになると、どうしてもプロになる選手とかは出てこないと思います。

っていうのもアルゼンチンの場合、日本以上にスカウトマンが至る所にいるんですよ。だから街クラブで才能のある子がいたらどっちみち引っ張って行かれるんですよね。大きいクラブとかに。だからアマチュアでやってる子達とかは、あ、もう自分はプロにはならないんだなって思ってやってると思います。そこは日本とは全然違って面白いですね。基本的に18歳までに才能がなければプロはスパッと諦めるって感じで、日本みたいに大学でサッカーやりながらプロ目指してますみたいな人はいないと思います。

僕も今、街クラブにいるんですけど、そこには子供が300人以上います。アルゼンチンの場合、生まれ年によって各カテゴリーに分けられてその上に日本でいうサテライトがあって、その上にトップチームがあって、でその上にシニアっていう40歳ぐらいのおじさんたちが週末に本当に戦争みたいなサッカーをしてるんだけど (笑) コーチも各カテゴリーに3人ぐらいいて大量にいるんですよ。

** 凄いですね。**

もっと凄いのは、みんなお金を1円ももらっていなくてボランティアなんですよね 。トップチームの選手はもちろん貰ってないし、トップチームのスタッフも貰ってない。そういう状況でコーチは足りてるし、日本でいうフィジカルコーチみたいな人も必ず各カテゴリーにいる。僕は今13歳のチームと18歳のチームを見てるんだけど、13歳のチームでも基本的にフィジカルコーチが試合に帯同して、ウォーミングアップしてっていうのは、お金をもらってないのにみんな凄いです。

** そういうケースはアルゼンチンでは珍しくない?**

そうですね。それが育成年代まででは普通みたいです。


純粋にサッカーを楽しむ子どもたちと現実

** そんなにたくさんの子どもたちがいて、インフラ的な面では足りているんですか?**

どうなんですかね。僕がいるクラブは田舎の方で、土地があるから施設がしっかりしてて、芝生のグラウンドが4面とか5面とかありますね。全然芝生は良くないんだけど。こっちは天然芝が多くて、人工芝を持ってるチームは田舎にはほとんどない。お金持ちのチー ムぐらい。なのでこっちは意外と雨が降っちゃうと練習が中止になるんですよ。芝生がグッチャグチャになって。そういうので嘆いている人はいますね。僕がいるクラブはボールとかも少ないし。
なんかアルゼンチン人って気にしないんですよね。ペチョペチョのボールでも気にしない。僕なんて小学校超えてから人工芝でしかやってこなかった人間なので、そういうところだとボールをうまく扱えなくて。もうボールはバンバン弾むし、半分くらいペチョペチョだし。それでもみんな気にしないんですよね。日本みたいにペチョペチョだからプレー止めるみたいな概念がないんです。クラブによって違うと思うんですけど、そういうチームも多いと思います。


** ブラジルとかで、プロになることが貧困から抜け出す1つの方法っていうのをよく聞いたりするんですけど、そういうハングリーな子供は多いんですか?**

中にはもちろんそういう人もいると思います。僕のチームにはそういう子はあんまりいないですかね。プロにならないと食っていけないっていう子は、上のクラブにいくし、あんまりそういうハングリーな子は僕のクラブにいないですね。それこそ、アグエロは昔はすごくお金がなくて。彼はインディぺンデンテっていうクラブの出身なんですけど、この前クラブの人と話す機会があって。彼はちっちゃい時に賭博サッカーっていうストリートサッカーをしてお金を稼ぐ事をずっとやっていて。昔はあったみたいですね。今はあるか分かんないですが。そういうのをやってお金を稼いでたんですけど、一回クラブの人にサッカーでお金をかけるっていうのは良くないから辞めろって言われたんです。ただ、コーチに生きてくためにはコレをやるしか無いんだって言ってずっと辞めなかったっていうストーリーもあるぐらいで。漫画みたいな話ですけど、そういうケースもあるみたいですね。


新たに見えたサッカーの「価値」

話をLFに戻したいと思います。一生LFに関わり続けるって前に仰ってたんですけど、そう思わせる魅力っていうのはどういうものを感じてるんですか?

難しいなぁ(笑) でも本当に加藤さんの人柄っていうところはあるし、今よりも組織が小さい時ときから知ってるので、今大学生のインターンが入ってたりしてるのを見るとやっぱり思い入れはあります。LFで出会った人たちもいっぱいいるし、そういう意味では強い思いがありますよね。それはなかなか捨てがたいというか。

まぁ本当に加藤さんは天使みたいな人で。人の幸せを感じるのが好きというか。 加藤さんの周りにいる人に悪い人はいないので。


LFのおかげで勝ち負けだけとか以外の視点で見ることが出来るようになったってことだったんですけど、具体的にどう感じたか教えて頂けますでしょうか?

僕もずっとサッカーを競技として18歳までやってたんですけど、その時は本当に勝ちと負けを決めることっていう意識しかなくて。それ以外のカルチャーがあったりとか、 社会問題に対してサッカーが用いられてるってことを全然知らなくて。 少しずつ大人になっていって、そういうサッカーの側面に気づくようになってから、LFを知ることができました。

例えば、僕が日本にいた時なんかは、イベントに呼ばれてLFでブースを出したりとかいう経験もあったんですけど、そこには当然勝ち負けなんかないし、サッカーというツールを通じて人が集まってきていろんな人と話ができたりとか。サッカーが無ければ、その人たちと話す機会もなかったと思うし、試合の時とかだけでなく、サッカーがあることで人が集まってっていう、こういう魅力もあるんだなって当時は思いました。LFの活動に関しても、サッカーのグランドを作るだけでなく、サッカーのグラウンドを作ることでその地域の社会問題を解決できるんですよね。
学校の周りとか、もしくは貧困地域にグラウンドを1つ作ることによって、子供たちの居場所を作ってあげると、やることが1つ増えますよね。子供達の中には、学校終わってからする事がないがために、ギャングの人たちとつるんでしまったりする子もいます。お母さんもそういうグラウンドがある事で、安全にサッカーをしてるって事がわかるから、安心感が全然違うっていうのも、加藤さんから聞いた事があります。

サッカーをするだけで、そういう悪い事をする子供が減るっていうことは、やっぱり日本ではなかなか想像できないことなんだけど。こっちに来て思うのは、貧乏であればあるほど子どもはやる事がないんだよね。日本だったら家に帰ると、テレビゲームがあったり、友達同士で家に行ったり、習い事に行ったり、色々とやることがあるんだと思うけど。他にやることがないと、薬に手を出したりとか、盗みをしたりしてしまうんですよね。 時間を使える居場所を作ってあげるだけでも、犯罪などが減るっていうのはなるほどなって思った記憶がありますね。本当にそういうのは、どう考えても勝ち負け以外のサッカーの力であって。例えば野球とか、道具がいっぱい必要なスポーツだったら難しいと思うし、サッカーの場合ボールとゴールがあれば出来ちゃうのでし、そこはやっぱりサッカーの大きな価値ですかね。


加藤さんが以前に言った言葉で、「たかがサッカー、されどサッカーなんだよ ね」っていうのがあって。すごくなるほどなって思ったんですけど。サッカーってピッチ内で見れば、11人対11人でボールを追っかけ回すっていう、ある意味娯楽っていう側面があると思うんですけど、それを社会の中にどういう存在として居続けるかっていうところで、サッカーの果たせる力ってものすごく大きいなってプロジェクトを知って思いましたね。

それこそ、僕の父の世代は野球が中心だったと思うんですけど、僕の世代はすでに野球の世代じゃなくなっていたので、みんな周りはサッカーやってて。もうJリーグも出来ていたし、なんなら日本ではサッカーが中心なんだっていうくらいの感覚だったんだけど 。だけどやっぱり海外に行ってみると、サッカーが持ってる大きさとか、価値とか意味とかが、全然違くて。それはやっぱり来ないと分からないことかもしれないですね。 ものすごく大きいし、その分責任もあると思うし、社会的な課題を解決する1つのツールとしてサッカーはすごく有効だと思うから。それこそ、今の女子のワールドカップとかで女性の活動が活発になっている中で、女子サッカーワールドカップをうまく利用して問題を解決しようという人はすごく多い。サッカーの存在の大きさは、外国に行くと、より感じるかもしれないですね。まだまだ日本はこれからですね。


以上、河内さんによるインタビューの後半でした。ここまで読んで頂きありがとうございます。


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編集後記

岸野拓真
「日本とは違うカルチャーを持つサッカーを体感することや、ピッチ外のサッカーへの関わりを増やすことで、自分のサッカーへの関わり方を客観的に見ることができると感じました。それが自分のサッカー人生をより豊かで深いものにしていくし、河内さんはその最たる例かと思いました。」
伊佐治慎梧
「今回インタビューという形で、遠く離れたアルゼンチンという国の事について触れることができました。僕自身、東南アジアをはじめ7ヶ国に訪れたことがあるのですが、整備されていない場所でもスポーツを無邪気に楽しむ子どもたちを見てスポーツの力のような物を感じたことがあります。しかし、そんな子たちの多くも思いっきりスポーツを楽しむ場所は求めているはずで。そんな子たちの為に出来ることをこれからの人生で考えていきたいし、この記事きっかけでLFのHPを見てみるなどといった小さくても一歩を踏み出してくれる人が増やせたならとても嬉しいです。」


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