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2023年に読んだ本5選

昨年も色々な本に出会えた1年でした。その中から特に印象に残った本を5冊ピックアップしてみます。まずネタバレなしでさらっと感想を書いて、目次以降はネタバレありの感想です。

①レーエンデ国物語 多崎礼
現時点で3巻まで発売されています(全部で5巻になるらしい)。3冊分合わせて第1位です。久しぶりに続きが待ち遠しい小説に出会えました。予め欲しいタイトルが決まっている時はネットで予約しているのですが、3巻は少しでも早く読み始めたくて(具体的には仕事帰りの電車で読み始めたくて)本屋で予約をしました。予約票を書く作業、子供の時以来かも…って少しキュンとなりました。

物語は王道ファンタジーといった感じで、レーエンデという恐ろしくも美しい森から物語は始まります。まだ完結していないので今後印象が変わってくる可能性はありますが、現時点では私の中で100点。世界観もキャラクターもストーリーも私好みです。

大人向けと言うか、人の後ろ暗い部分もよく描かれているので、こっちの気持ちが安定してる時じゃないと持っていかれるので要注意かも。でもそれだけ引き込まれるストーリーとも言えます。

②コスメの王様 高殿円

クラブコスメチックスの創業者、中山太一さんをモデルにしたフィクション小説。レトロチックな表紙がかわいい。表紙に惹かれて購入したのですが(タイトルもポイント高かった)、読後感が本当に良くて「出会えてよかった!」と思いました。

サクセスストーリーとしてもラブストーリーとしても面白くて、どちらも紆余曲折はあるけどドロドロはしてない。主人公の利一とハナの性格がそうさせているのだと思う。こういう人の描き方好きだなあ…と思いました。

③きれいはこれでつくれます MEGUMI

これは小説ではないのでネタバレも何もないのですが、ざっくり短く感想を。

美容へのモチベーションが上がる本です。日々のスキンケアから美容医療まで幅広く紹介されていて、しかもその全てが実際にMEGUMIさんが試して良かったと感じたもの。MEGUMIさんの美しさはテレビや雑誌でも見ているし、こんなんモチベ上がるに決まってるやろーーってやつ。

④変な絵 雨穴

映画化される事もあって「変な家」の方が有名なのかもだけど、私はこちらの方が好きです。変な家も面白かったけど(最近発売した2巻も一気読みするほど面白かったです)。

家って建てるのにまとまったお金と時間が必要だから、それだけ変な間取りの家は大きな謎が隠されているのではって興味をそそられるのだけど、絵のような気軽なものに隠されている狂気の方がありそうな感じがして好きです。

⑤さみしい夜にはペンを持て 古賀史健

これはね、ぜひ紙の本で読んでほしい。ページをめくるのが楽しくなる本です。物語も素敵。書く事が好き、書く事に興味があるって人は気に入ると思う。自己満足で書く事にためらいを持っているのなら、ぜひこの本を読んで一歩踏み出して欲しいなと思いました。

以下、ネタバレありの感想です。


①レーエンデ国物語

まずは1巻。
ノートにも書いてますが、トリスタンがかっこいい。レーエンデは呪われた地と言われているのですが、その理由が銀呪病。段々と体が銀色に覆われていき、やがて死に至る不治の病気です。ただ伝染病ではなく、特定の日に外出しているとその呪いに侵される、というもの。なので対策さえきちんとしていればかかる事はない病気です。2巻以降はあまり銀呪病は脅威として描かれなくなります。

でも、子供の頃に母親からの仕打ちで防げるはずの病を患ってしまったトリスタンは、物語の中で(正確には後日に語られる歴史書?の中で)最期を迎えます。その最期がね、美しいのですよ。

ノートに引用した場面は追われるユリアとヘクトル(ユリアの父)を逃がすところ。ヘクトルを慕うトリスタンはその娘のユリアにも常にさん付けで敬語でした。でもここにきて「走れ、ユリア!」ですよ。こんなん感動するに決まってるやん。めっちゃ好物やん。そして後に記された書物によると、トリスタンは弓で追っ手達を足止めし、ユリア達を逃がし切ったと悟ると笑って消える。文字通り消える。銀呪病によって体が銀の塵となり森の中に溶けていく――ああ美しい。

こんな感じで悲しくも美しい物語という印象を残してくれたレーエンデ国物語。

続く2巻。
今度はレーエンデという世界より、そこで暮らす人間にスポットライトをあてた物語になっていました。物語の主人公は名家の少年ルチアーノと、レーエンデの村娘テッサ。冒頭で何者かに屋敷を襲撃され、両親を殺されたルチアーノはレーエンデの森へと逃げ込みます。そこをテッサに助けられ、ルーチェと名乗りレーエンデで暮らす事を決意するのです。

世界観の美しさが目立った1巻と違い、2巻は人間の美しさが際立っていました。裕福な暮らしではないけど温かい村の人達。裕福だったけど人の温かさを知らずに育ったルーチェには村での生活が何よりの宝物だったはず。

なので(誰かが手を挙げなきゃいけなかったとはいえ)この宝物を捨てて戦場に向かうテッサが許せなかったし、許せないくらい好きだったし、好きだけど許せなかったし……で、僕を置いていかないでよと心の中で叫んでいたルーチェの心情には私も胸が締め付けられた。

ルーチェもテッサもお互いを愛していたし、レーエンデを愛していた。結ばれる事なくそれぞれの道に進んだ2人の決定的な違いは、愛し続けたか愛を憎しみに変えたか。愛し続けられたのはテッサで、憎んでしまったのはルーチェ。ルーチェの気持ちも分かる。テッサがどれだけレーエンデのために動いてきたかを知っているからこそ、目先の利益に惑わされて結果的にテッサを死に追いやったレーエンデの民が許せなかったのだと思う。その気持ちはすごく分かる。

ルーチェとテッサの違いは多分、本当の愛をしっているかじゃないかなーと。ルーチェは経済的には恵まれた境遇に生まれたけど、両親は権力に屈した形で兄を犠牲にした。両親がルーチェや彼のお兄さんを愛してなかったわけではないと思うけど、何がこの子にとって一番幸せなのか、何がこの子を不幸にしてしまうのか、というところから目を逸らしてしまった部分があったと思う。そういう世界にいた人達だから仕方ない部分はあるけど。

一方テッサは、経済的には恵まれているとは言えなかったけど、温かい家庭の中で育っていた。怪力という生まれ持った特技をコンプレックスに思い悩むところはあったけど、根本的なところの愛情を受け取る事はできていた。

家族の愛情ってね、ありがたいんだよ。どんな時も無条件に味方してくれる人がいるってね、本当にありがたいし、心強い事なんだよ。それを知っていたテッサと、知らなかったルーチェ。そこが本人達が出した結論の違いに繋がったのだと思います。

とは言っても、テッサの最期を考えると彼女が幸せだった、これで良かった……とは言い切れないのだけど。

で、3巻。
異世界の美しさに魅せられた1巻、良くも悪くも人による歴史が描かれた2巻。3巻はだいぶ時代が進み文明も発達した世界が舞台です。2巻がまさに【激動】という感じだっただけに、3巻はレーエンデの神秘的な自然も手に汗握るような戦いもありません。主人公は武器を持たない双子の兄弟。天才と称される脚本家の兄リーアンと小さな劇場(兼売春宿)で働く弟アーロウです。

基本的には弟の視点で物語が進みます。アーロウには兄のような才能はなく、子供の頃から体を売る事で生計をたてていました。生まれ持った才能を持ち、それを武器に生きていけるリーアンを誇りに思う一方、コンプレックスにも思っていました。この辺り、人間っぽくて好きです。

2巻でテッサ達が起こした革命は、後の世代にはほとんど伝えられませんでした。自分達の安全のため、レーエンデ人はテッサの存在を封印してしまったからです。真実はごく一部の人達にのみ伝えられました。

その封印された真実を知るために旅をする、というのが3巻の見どころ。私達読者は2巻を読んでいるから事実を知っているけど、双子の兄弟は何も知りません。旅をする中で少しずつ明らかになっていく本当の歴史が、ゲームの伏線回収みたいでわくわくしました。

ラストで一番泣いたのは3巻でした。1巻も結構泣けたけど、トリスタンが死んでしまうのは銀呪病が明かされた時点で察してたし、2巻のテッサは、もう楽になっていいんだよという思いの方が強かった。

3巻は……。あれだけ処刑される事を恐れていたリーアンが、(表向きは)陽気に歌いながら処刑場所へ向かう事ができたのは、最後の最後に自分が弟から愛されてる事を、そして自分が弟を愛している事を知ったから。そしてそんな弟を生かす事ができた自分を誇りに思っていたからだと思う。

4巻が楽しみです♪


②コスメの王様

クラブコスメチックスって、すっぴんシリーズを出しているメーカーだったんですね。知らなかった。創業者がモデルにはなっているけど、フィクションに位置付けられているのでストーリー部分は創作のようです。

物語は利一とハナの2人を軸に展開していきます。利一は家族を支えるために進学を諦めて神戸にやってきました。ハナは牛より安い値段で売られて神戸にやってきました。2人とも恵まれた境遇ではなかったのだけど、それを嘆く事なくとても前向き。そして早い段階でお互いに惹かれ合っているのが文章から分かります。

が、結ばれない。利一はビジネスの才能を発揮し、ハナは芸者としての才能を開花させる。どちらもそれぞれの道で成功を収めているのだけど、いや、だからこそ結ばれない。住む世界が違うから。

物語の中で、ハナが利一のために別れを告げる場面があります。これはハナの身内がお金目当てに利一の商売の邪魔をするようになったから。ハナが利一と繋がっている事に目をつけたんですな。ハナは何も悪くない、利一だって悪くない。なのに離れなきゃいけない。これって書き方によってはかなりの悲劇になるのだと思うけど、そうは描かれないのがこの本の魅力。

なんてったって、ハナは渡米しますから。

ここ、めっちゃ好き。渡米ですよ渡米。今とは時代が違うのによ。自分の身に降りかかった悲劇を、新しい生活へのきっかけにしてしまうハナのポジティブさ、私も見習わなくては。

そう、人生にはやむを得ない選択を迫られる時がいくつもある。私は悪くないのに、って理不尽さを感じる事もいくつもある。だけどそれを嘆いていても始まらない。どうせ選ばなきゃいけないのなら、それを自分の糧にしようってね。

日本に残った利一はハナを想いながら他の女性と結婚し、愛人との間に子供が生まれ(この時代ではよくある話だったのか…?)、仕事の繁栄と挫折を味わいながら年を取る。

仕事も引退して体力も衰え、自分にはもう何も残っていない。

その時、目の前に現れたのは――ハナ。

2人はようやく同じ時間を過ごす事を許されるようになった。ああもう愛おしい。本当に愛する人って、地位やお金は関係なく、今持っているものを全て失っても、それでもこの人と一緒にいたいって思える人の事なんだろうなって思いました。


③きれいはこれでつくれます

ありがとうMEGUMIさん。思わずスタンディングオベーション。何にって、フェイスパックの話題に。朝晩のフェイスパックを習慣にしていると明言して下さってありがとうございます。私も続けます。ええ続けますとも。

フェイスパックについてはこちらでも語っていますが、新作を見ると取り合えず買ってしまうくらい好きなアイテムなので、続ける明確な理由が作れた事がとても嬉しいのです。この本に出会わなくても続けるつもりだったけど、「あのMEGUMIさんも推奨しているのだから!」と思えるのは安心材料のひとつ。

こういう本でよくついてしまうレビューに「この人は元々美人だから」や「セレブだから」というのがあるのだけど、大切なのはできない言い訳をするのではなく、できる事を探していく事だと思います。美容医療は無理だけど毎日の頭皮マッサージはできる。効果な美容器具は買えないけど毎日のフェイスパックはできる、とかね。

私がこの本を好きなのは、自分に自信を失くし人と会うのが嫌になったところから這い上がったMEGUMIさんの強さを感じられるからです。肌が荒れると心も荒れるし、鏡を見るのが嫌になると人と会うのも嫌になる。結局、最後はメンタルに行き着くのだ。


④変な絵

変な家、変な絵と続けて読んで、動画も見てすっかり雨穴ワールドの虜になりました。幽霊とかホラー系は苦手なのですが、雨穴さんの作品は「一番怖いのは人間」という結論が多いので大丈夫。一気に読んで(見て)しまうのはその結論にたどり着くためでもあります(だって怖いじゃん)。

物語は、七篠レンという人が書いたブログの

あなたが犯してしまった罪がどれほどのものなのか、
僕にはわかりません。
あなたを許すことはできません。
それでも、僕はあなたを愛し続けます。

という一文の謎を追って展開していきます。途中、無関係に見える別人物の話も出てきますが、最終的にはこのブログに行きつきます。元々ブログは、レンという男性が書く日記でした。レンと奥さんのユキちゃん、そして生まれてくる子供。幸せいっぱいの日常を綴っているはずなのに、どこか不気味。元イラストレーターのユキちゃんが描くイラストも、単体で見るとごく普通のイラストなのに、いくつか見比べるとやっぱり不気味。そしてバラバラのイラストを組み合わせたら……。これ、かなりゾクっときました。

そして先述の投稿に至り、ブログの更新は途絶えます。

私が、「変な家」ではなくこの「変な絵」の方をベスト5に入れたのは、全ての出来事の元凶となった犯人の動機(真相)でした。「変な家」の真相もゾクっときたけど、非日常と言うか、歴史上の出来事を読んでいると言うか、どこか他人事みたいな感じでした。変な絵の真相も非日常ではあるんだけど、「でももしかしたらあり得るかもしれない…」と思わせるところが余計に怖かった。

そして今回は特にミスリードが巧み。裕太の保護者は母親ではなく祖母。ブログの【あなた】はユキちゃんではなくレンの母親。レンとユキの間に生まれた子供が優太。最後の最後まで【あなた】をユキちゃんだと思っていた私は、必死になって行間からユキちゃんの罪を探してしまっていたよ。ごめん。


⑤さみしい夜にはペンを持て

小説形式のエッセイと言うか自己啓発本と言うか。本屋のポップに「中学生に読んでもらいたい」と書いてあったので子供向けかなーと躊躇したのですが、読んでみたかったので購入。普通に大人向けの本では?という感想でした。中学生が読んでもいいと思うけど、大人こそ読みたい本だと思うなあ。多感な思春期によくある居場所のなさが描かれているけど、大人だって居場所のなさを感じる事あるもんねえ。

むしろ大人の方が特に、居なきゃいけない場所(職場とか)が生活の大部分を占めているから、素の自分に戻れる場所、ここに居たいと思える場所を見失ってしまう事も多いと思います。そんな時、書く事で自分の居場所を確保していけるのではないかなーと。

少なくとも私は、嬉しい事があった時はもちろん、辛い事があった時も書く事を大事にしてきました。辛い時は書く事で救われてきました。書く内容はなんでもよくて、特に辛い時なんかはあえてその事は書かなかったりします。ただ書く事で気が紛れたり、冷静になれたりするのが良いのです。「喜びは2倍に、悲しみは半分に」って言葉を子供向け作品とかで見かけるけど、まさにそんな感じ。

この本の主人公のタコジロー君も、書く事で成長していきました。そのきっかけをくれたヤドカリおじさんがとても素晴らしい。寂しそうな子供に声をかけるおじさん……って書くと怪しさ全開なのだけど、おじさんの言葉は、悪意がある、ないに関わらず誰かからの心ない言葉に傷ついた事のある人(その経験がない、って方が珍しいと思うけど)、傷ついた事を表に出せなかった人には刺さるものがあるんじゃないかなー。

ノートにも書き留めておいたけど、

なにかを継続させようとするとき、ぼくたちの心を支えてくれるのは「成長している実感」じゃないのかって

この言葉、好きです。本当にその通りだと思います。逆に言えば、成長している実感さえ持てれば継続できるという事。つまり、何かを継続させるためにはどうやって成長を実感していくかが鍵になる。今年の目標設定には、「何をもって成長とするか」も考えていく必要がありそうです。