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2023年落語協会新作落語台本に応募して

私のライフワーク「落語協会新作落語台本コンテスト」応募。

今年も夢は夢のままでした。

2019年から応募を続けて5回目。
今年こそいけるんじゃないと思っていた私のなんとおめでたいことよ。
いとをかし。
so cute!
勘違いこそ生きる力。

めげない。
また来年!

根拠なき自信があった作品はこちらです。

坂上薫作『いとをかし』

さくら「あなたは突然パンツが破けたことがあるだろうか?
下着じゃなくてズボンのパンツだ。
私はある。つい、さっき、今しがた、パンツが破けた。
しかもそれがデート中だったら、どうする?どうする?ねえどうする?」

さくら「どうしよう。不幸中の幸いというか幸い中の不幸だけど、ここはトイレ。念のため脱いで確認したよ。
ほら破けてる。しかもお尻ってどうなの。
いつ?わからない。
なんで?私がかわいいから。
違うデブったからだ。
どうする?縫う?針も糸もなくて縫える?
ヌー?ノーだよ。猫八師匠も言ってる。
ヌーはノーって鳴くんだ。だからなに?
破けている後ろを前にして履く?うんそれいいね!
そうやってブラウスで隠せばOK!!じゃない……。このブラウス、丈が短すぎて破けたところが隠れない。
そもそも前が隠れるなら後ろも隠れる。
前後逆にしなくてもいい。
ああなんできょうこのブラウス着てきちゃったかな。
なんでなんでなんでこのブラウス。違う。
後悔するならブラウスじゃなくてパンツだ。

このまま行こうか。
まさかパンツが破けているって誰も思わないよね。
それ以前に私のことなんて誰も見ちゃいない。
そうよ自意識過剰だった。
大丈夫。ありのままで大丈夫。
堂々としていればなんとかなるって。
ほら誰だっけモデル的なインフルエンサー的な人がよく言ってるよね。
自信がだいじ、自信を持てばなんでもできるって。
持てない……。
だってパンツが破けてるんだよ。
自信なんて持てない。
自信よりミシンが欲しいです神様。

ほんとに破けてる?さっき見たのは幻かも。
もう1回よーく見たら破けてないかもしれな……わけなかった。破けてる。ちゃんと破けてる。
きれいに破けてる。
美しい。あ、今ちょっと引っ張ったから糸がどんどんほつれて、ぎええええ、待ってー、これ以上破けてはいけません。
これ以上♪もうこれ以上♪もうこれ以上♪破けてなんてほしくはないのよー♪
歌ってる場合じゃない。なんとかしなきゃ。

ハンカチで隠す?どうやって?
ウエストにハンカチを挟んでたらす。
ハンカチがひらひらひらってして、あら、しっぽですかそれは、素敵ですね。はいしっぽですよ。便利です。いろいろ役に立ちますから。
まねしてもいいですよ……なんの役にも立たない。

だめだ、あんまり長くトイレにいるとあやしまれる。
とりあえずLINEしておく?なんて?
パンツが脱げました、じゃない。パンツが破けました、直接的すぎる。
パンツが言うことを聞いてくれません、怖いよ。
パンツがピンチです、いいねおもしろい、おもしろいけど今じゃない。

微妙。いろいろ微妙。すべてが微妙。これが初めてのデートならあきらめてこのまま帰っちゃう。
もう付き合ってるなら正直に言っても笑い話になる。
きょうは3回目で付き合う?付き合わない?どっち?って時。
ひろ君の性格もまだよくわからない。デートでパンツが破けた時になんて言えばいいのか難問すぎる。
そもそも正解がわからない。
世の中だいじなことほど正解がわからないよね。
愛がだいじなのかお金がだいじなのか。
逢えない時間に愛は育つのか育たないのか。
落語は新作がいいのか古典がいいのか。
朝ご飯はパンがいいのかご飯がいいのかそれとも食べない方がいいのか。
デートにはスカートがいいのかパンツがいいのか。

やば、もう10分近く経ってる。待ってる10分ってすごく長いよね。
LINEしよっ。
『朝はパンですか?私はパンです。しかも2枚食べます』。
送るよ。送っていい?送る。
いやダメだ。なんでトイレからパンの話よ。
頭おかしいって思われる。いとをかしだ。
いっそ、いとをかしも書こう。
でも、をかしはおかしいって意味じゃないよ。興味があるとかかわいいとか……もちろん食べるお菓子じゃない……あー、どうでもいいよそんなことね。
おっと。スマホが落ちちゃう。
え、え、え、え、え、うそ、送信されちゃった。
落ち着け落ち着け私。
取り消し取り消し、削除じゃないよ送信取り消しだよ。
あーあ、既読になっちゃった。もうダメだ、終わった……。
デート中に彼女がトイレに行きました。なかなか帰ってきません。そこにLINEがきました。
『朝はパンですか?私はパンです。しかも2枚食べます。いとをかし』。
こんな彼女はさよならだ。

さくら「きたー…返信きたー…」
ひろ君のLINE「さくらちゃん大丈夫?」
さくら「大丈夫です。いえ大丈夫じゃありません。でも大丈夫だけど大丈夫じゃないこの状況。またきたー」
ひろ君のLINE「僕はコーヒーを飲み、パンを1枚食べます」
さくら「パン1枚かー。2枚は食べてほしかった。そこじゃない。どうする?パンとコーヒーより針と糸がほしいですって送る?
ピーンチ。人生最大のピーンチ。
パンツがピンチですを送る?
いやそれは違う意味にとられてもっとややこしくなる。
しっぽ作戦にする?
破けてないことにする?
正直に書く?
いっそこのまま堂々と出ていく?
どうする?どうする?ねえどうする?」
そして私は……LINEを送った。
さくらのLINE「大丈夫だけど大丈夫じゃない。いとをかし」

ひろ君「さくらちゃんって朝パン2枚食べるんだね」
さくら「うん、8枚切りだけどね」
ひろ君「パンは8枚切りがいいよね」
さくら「私は別に何枚切りでも、その日の気分で」
ひろ君「絶対8枚切りでしょ8枚」
さくら「あ、あ、あ、そうなの。じゃ8枚切りでいいよ。でも私明日からパンは1枚にする。またパンツ破けると困るから。ひろ君ほんとにありがとね」
ひろ君「お礼を言われるほどのことじゃないよ。たまたま針と糸を持ってたから、お店の人にトイレに届けてもらえたし。役に立ってよかった」
さくら「ひろ君の返信読んで、私泣いたよ」
ひろ君「泣くほど?」
さくら「うん、泣いた。めっちゃキュンとした。運命感じた」
ひろ君「運命?え、そう?」
さくら「そうって?え?このLINE」
ひろ君のLINE「赤い糸ならあります」
さくら「ってそういうことだよね?」
ひろ君「そういうことってどういうこと?いとをかしって書いてあったから赤い糸ならあるよって返しただけだよ」
さくら「え?そうなの?そういうことなの?そっかぁぁ……」
ひろ君「でも赤じゃダメだったよね。さくらちゃんのパンツ黒だから」
さくら「いいの。赤でいいの。赤がいいの。赤い糸じゃなきゃダメなの」
(終わり)

読んでいただき、ほんとうにありがとうございます。
いつか陽の目を見るその時まで。
がんばるんば!


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