2022年落語協会新作落語台本に応募して
私的老後を楽しむイベント「落語協会新作落語台本コンテスト」。
2022年の最終審査に残った作品がきょう発表になった。
2019年から応募を続けて4回目。
今年は自信があった。
最優秀賞は無理でも、最終選考には残るに違いない。
どう控えめに考えても二次選考には残るはず。
だってだって、すごく面白いものが書けたんだもの。
それがどうよ。
かすりもしなかった。
失礼しちゃう。笑
するってぇとなにかい?タイトルがひらがなだからダメだったのかい。
(そんなはずはない)
するってぇとなにかい?主人公の名前が審査員好みじゃなかったのかい。
(そんなわけない)
するってぇとなにかい?原稿用紙の線がグレーだからダメだったのかい。
(そんな決まりはない)
するってぇとなにかい?面白くなかったからなのかい。
どうやらそうらしい。
いいってことよ。
また来年があるってもんよ。
こちとら、ヒマっこでぇ。
いつだって書けるってもんさ。
最優秀賞をとるかもしれない、とったらどうしようと夢見てた作品はこちらです。
坂上薫作『ねたらさめたら』
院長「するってぇとなにかい?朝目が覚めたら大仏になってたってぇのかい?」
患者A「はい。うふ」
院長「大仏?」
患者A「ほらここ・眉間にできものがあるでしょ」
院長「あるね」
患者A「これ大仏のしるしですよね?」
院長「しるし、ああ、白毫(びゃくごう)のことか」
患者A「え、百個?いえ1個ですよ。目が覚めたらできてたの。昨日寝る時はなにもなかったのに。私、一晩で人間から大仏になったんですよね。うふ」
院長「カフカの変身か」
患者A「え?大化の改新?」
院長「カフカ。カフカの変身だよ」
患者A「ふかふかの天使?うふ」
院長「ふかふかじゃなくてカフカ。天使じゃなくて変身」
患者A「朝目が覚めたら虫になってた話ですか」
院長「知ってるんじゃないか」
患者A「そこだけ知ってます。うふ。あの…私、これからどうしたらいい?道で知らない人に拝まれたら、お賽銭もらってもいいかしら?」
院長「ああ、そんな人がいたらもらえばいいんじゃないかな。たくさんもらったら僕にも頂戴。うふ」
患者A「大仏ってご飯食べますか?お風呂入っていいですか?恋愛してもいいですか?」
院長「ご飯もお風呂も恋愛も好きにしていいよ。それよりお賽銭たくさんもらったら僕に…じゃなくて、皮膚科に行ってね」
患者A「カフカ?」
院長「皮膚科。ひどい湿疹のはじまりだと困るから。皮膚科に行ってね」
患者A「カフカ読むわ。うふ」
看護師・陽子「院長、今の人、大仏っていうより壇蜜ですね。うふって言う人初めて見ました」
院長「うふっ」
看護師・陽子「それセクハラですよ。それより、するてぇとなにかい?って言うのやめてください。そんな話し方するから、院長じゃなくて隠居って言われちゃうんですよ」
院長「隠居けっこう。隠居になりたい。朝目が覚めたら隠居になってないかな」
看護師・陽子「次の患者さん呼びます」
院長「するてぇとなにかい?朝目が覚めたら妊娠してたってぇのかい?」
患者B「たぶん。この気持ち悪さはつわりだと思います」
院長「あのね、君、男だよね。今のところ男は妊娠しないんだよ」
患者B「でも、ちょっとだけ妊娠ってことがあるかもしれません…」
院長「残念だけどないんだよ。ちょっとだけ死んでるってないでしょ?それと同じ。ちょっとだけ妊娠ってないの」
患者B「そうですか。つわりじゃないんですか」
院長「違うね。内科に行った方がいいね」
患者B「産婦人科じゃないんですか?」
院長「内科がいいと思うよ」
患者B「念のため産婦人科に行きます」
院長「いや内科が…」
患者B「妊娠じゃないか…」
院長「だから内科へ」
患者B「つわりじゃないか…
院長「どっちでもないか、なーんちゃって」
看護師・陽子「下手な漫才みたいのやめてください。内科にご案内します。次の患者さん呼びますね。するってぇとなにかい、やめてくださいよ」
院長「するてぇとなにかい?朝目が覚めたら、リサになってたってぇのかい?」
患者C「そうなんです、ママもパパもお姉ちゃんも私のことリサって呼ぶんです。私、リカなのに」
院長「うーん、カルテを見るとね…君は……リサだね」
患者C「えー、いつからですか?」
院長「いつからだろう。たぶん生まれた時からじゃないかな」
患者C「そんな…。私、リカなのに」
院長「それは困ったね」
患者C「先生なんとかしてください」
院長「明日になったら、リカになってるかもしれないよ。いやリサにか?リカか?リサ?リカ?とりあえずきょう寝て、明日目が覚めて、まだリカだったら、いやリサだったらまた来て」
患者C「わかりました」
院長「え、わかったのかい?すごいね。僕はよくわからない…」
看護師・陽子「院長、きょうは『目が覚めたら違う何かになってる記念日』ですか?」
院長「そうなの?」
看護師・陽子「私が聞いてるんです?」
院長「まあ、そういう日もあるよな。違う何かになりたい日も。なんていうか『ねたらさめたら症候群』になっちゃう日」
看護師・陽子「なんですか、そのうまいこと言っただろってどや顔。わからなくはないですけどね。私も寝ている間に何かが起こって、目が覚めたらドバイの超高層マンションのふかふかのベッドにいたら…」
院長「それは誘拐だな」
看護師・陽子「例えばですよ。例えば、目が覚めたら部屋の隅に札束がいっぱい積んであったらとか」
院長「強盗だな」
看護師・陽子「例えば、目が覚めたら綾瀬はるかになってたとか」
院長「整形だな」
看護師・陽子「ああ、もういいです。次の患者さん呼びます。するってぇとなにかい、やめてくださいね」
院長「するってぇとなにかい?朝目が覚めたら、財布が透明になってたってぇのかい?」
患者D「はい、寝る時は黒だったんです。でも目が覚めたら透明で見えなくなって」
院長「それは透明になったんじゃなくて…」
患者D「何色になったんですか?」
院長「色の問題じゃないな」
患者D「黒に戻せないですか?カラーリングして」
院長「カラーリング?」
患者D「できますよね?」
院長「それは難しいね。美容院じゃないからな」
患者D「病院と美容院、似たようなものじゃないですか」
院長「まあね、似てるっちゃ似てるけど。ここは『よくなる総合病院院心の相談室』だからね」
患者D「ちゃちゃっと黒に」
院長「そう言われてもな」
患者D「ならいいです。先生のケチ」
看護師・陽子「院長、あの患者さん、財布になりたいんですか?」
院長「お金から解放されたいんじゃないのかな。誰かにケチってののしられたのかもしれないね」
看護師・陽子「たまにはまともなこと言いますね院長。次の患者さん呼びます。するってぇとなにかい…」
院長「言うよ、言わせてよ。なんか元気がでるんだよね。僕の前世は隠居だな絶対」
院長「するってぇとなにかい?朝目が覚めたら服にパンダの毛が付いてたってぇのかい?」
患者E「そうなんです。この服です」
院長「なんでパンダってわかるの?いやそこじゃないな。毛?ついてる?陽子ちゃん見て、この服にパンダの毛ついてる?」
看護師・陽子「私パンダの毛なんてわかりません。近くで見たことないですもん。でも毛はついてないですね」
患者E「二人とも見えないんですか?この白と黒のパンダの毛が。ほらここ」
院長「気のせいじゃないかな」
患者E「木の精?木の精がついてるんですか?それ取れますか」
院長「気のせいは取れないよ。気のせいだからな」
患者E「木の精、クリーニングに出したら取れますか?」
院長「取れないと思うな」
患者E「クリーニングに持っていきます!ありがとうございました」
院長「僕の言うこと全然聞いてない」
看護師・陽子「院長、パンダはちょっといいかも。動物界のアイドルですもん」
院長「でもモノトーンで地味だぞ。笹しか食べられないし。ビールも飲めない」
看護師・陽子「するってぇとなにかいも言えませんしね」
院長「するってぇとなにかい。朝目が覚めたスパイになってたってぇのかい?」
患者F「そんな大きな声で言ったらダメっす。誰か聞いているかもしれないっす」
院長「ああごめん。(小声で)で、なんでスパイってわかったの?」
患者F「使命感がみなぎってるんす」
院長「使命感ね。そりゃ素晴らしい」
患者F「信じてないっすね」
院長「いや信じてる。信じてるよ。すごいなあって思ってる。僕もなりたいくらいだ」
患者F「二人だけの秘密っす」
院長「わかった」
患者F「じゃあ僕はトレーニングと練習と訓練があるのでこれで」
院長「ああ、しっかりな」
看護師・陽子「院長、トレーニングと訓練と練習って違うんですか?」
院長「同じっす」
看護師・陽子「スパイはありがちでつまんないですね」
院長「患者さんの心の中をそんなふうに言っちゃいけないよ。心が弱っていると、見えなくてもいいものが見えたり、信じられないことを信じたり、違う何かになりたくなったりすることがあるんだよ。僕たちだって明日目が覚めたら、大仏になってたり、つわりがしたり、リサになってたりするかもしれない」
看護師・陽子「そうですね、すみませんでした。大仏になっても、つわりがしても、リサになっても、私、仕事は休みません」
院長「いや、休んでくれていんだよ」
看護師・陽子「財布とパンダとスパイだったら休みます。???大仏、つわり、リサ、財布……ひゃー、院長、これしりとりになってますよ!」
院長「しりとり?大仏、つわり、リサ、財布、パンダ、スパイ。惜しい。財布→パンダ→スパイがダメだ」
看護師・陽子「なりますって。財布→服にパンダの毛が付いてるんです→スパイ。ねっ」
院長「それ、ずるだよ」
看護師・陽子「ずるって人聞き悪い。よく考えたって言ってくださいよ。あ、スパイ→院長って続きます。そうだ、院長じゃなくて隠居にすれば、隠居→陽子ちゃんって続く!」
院長「それじゃ終わちゃうよ」
看護師・陽子「じゃあ、陽子『さま』にしましょ」
院長「いや『陽子ちゃんでありんす』がいいな」
看護師「なんでですか?」
院長「そうすれば『するってぇとなにかい』ではじめられるからな」
(終わり)
最後まで読んでくださった方、なんていい人!
幸せなことがありますように。
めげずにへこたれずに、また来年も応募するってぇとなにかい?
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