Sorround me Music, Feel Good#9

Hummingbird in Forest of the Space/吉井和哉

【THE YELLOW MONKEY】、【吉井ロビンソン】を経て、ソロ名義でリリースされたアルバムの4作目。

全体的にダークな世界観で、退廃的な印象がありながら、悟っていて隔世の趣というよりは、むしろ人間臭さこそが本質にあるところが吉井さんらしい。アメリカで海外ミュージシャンたちとレコーディングされていても、そこはきちんと雰囲気が残ってると思う。

イントロから「Do The Flipping」は、典型的なギター&ベースリフ、ドラムというロックのフォーマットながら、コーラスやシンセのアレンジと奥行きが美しく、リズミカルなディスコ「Biri」以降も同様に、トータルバランスにこそ美意識を感じる。

「シュレッダー」「ルーザー」「Pain」においてもパワフルなギターとは相対的に、エレアコの響きが美しかったり、メロよりサビの方が落ち着いていたり。

これらには、たとえば【NIRVANA】のようなグランジもあるし、【THEE MICHELLE GUN ELEPHANT】、【NUMBER GIRL】などにも通じるような、海外のものでありながら日本でも普遍性を見出だせるものや、日本のものでありながら、ルーツは海の向こう側にあるといった背景を感じてます。

「ワセドン3」は特に好きで、歌い出しから『みんなに死んだらいいなと思われる』と絶望の淵に腰かけて弾き語る一方、終わりへと向かうコーラスのリフレインは悲哀に満ちていながら、とても美しい。そして、アルバム後半では、相対的に温もりの要素も高まっていきます。

また、曲単体ごと以上に、一つのアルバムとしてとても好きです。


3020/SuiseiNoboAz

1000年先に想いを馳せてつけられたアルバムタイトル。

ところどころにニューウェーブの様式感が溶けていて、でも単に過去の語法が使われてるというより、新しい時代に向けて、推進力を生み出す役割を担ってる。

アルバムタイトルでもある「3020」からは、HIP-HOP/ラップ的なヴォーカルで新しい音楽の始まりを告げ、1000年後だろうと存在し、聴かれるであろうことを確信。インスト部分も豊かな音色と音形が散りばめられ、立体感も含め、現代的なサウンドメイキング。未来に向けて「今」をパッケージしてる。

その中でも、強い歌(歌詞)/語りの要素は、現代の詩でもあり、未来への手紙としての音源だと強く感じる要素。

また、M4、M6では好きなバンドTAMTAMからKUROがコーラスとしてサポート参加しているが、TAMTAMでのフロントマンとしての側面や、個人名義から一線引いたサポートワークとしての参加というより、むしろ、もともとのキャリアから地続きな作家性を感じる。メインに寄り添いつつ、個性も宿った好サポート。

「SUPER BLOOM」が特に良く、メッセージとして、フィクションだから理想を描くことも大事だと思う一方で、フィクションだからこそ、真実みのあることをきちんと言っていくことも必要だと思う。

『誰もがいつか』


都市計画(Urban Planning)/Okada Takuro+Duenn

筆者は院までの大学生時代と、会社員としての8年間は建築関係を専行・専門としていました。アルバム/トラックタイトルからして興味。

落ち着いた、いわゆる環境音楽やサウンドスケープと評される傾向の作風にあるインストアルバム。

都市的/都会的なサウンドと言うこともできますが、自然の中にいるようでもあり、構造物、ビルディング、あるいは街や、フォータフロントのような意図的に作られた環境の視点場は、人間的な認知の上で「人工物」と呼ばれるに過ぎず、もはや現代において、都市(計画)は「自然」でもあると言えるのではないでしょうか。

Applause/Applause

フランスのバンド。配信サービスのレコメンドで挙がってきて聴いてみてたらけっこう気に入ったので。

おそらく同名のアルバム、Applouse/ストレイテナーからタイトル関連という直接的なフィルタリングの結果だと思うけれど、ポール・ドレイパー(Mansun)のようなセンスに似たものも感じる。ダークな世界観とは相反して、むしろポップな語法が多い。そして、明るくはないものの、フランス的な色彩感を感じる。

J.S.BACH 無伴奏ヴァイオリンパルティータ全曲集/神尾真由子

今年の東京・春・音楽祭2021では、玉井菜採さんが、無伴奏ヴァイオリン・パルティータから第1番、第2番を演奏されるプログラムがあり、そのライヴ配信を聴く前に予習として聴きはじめたのがきっかけ。(玉井さんの演奏も尊くて、素晴らしかったです!)

J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ/パルティータといえば、たとえばシェンリク・ヘリングの録音のような、名盤として位置づけられているものは既にあるけれど、それでもやはり、現役の演奏家によって、今日にライヴ演奏や音源が録音される意味はあるなと改めて。

現代/現役の演奏家の中でも、メジャーなクラシック分野の演奏家というのは、凄まじくレベルの高い演奏ができるけれど、追及してるのは人外未知であるとか、神の領域というより、むしろ極めて共感性の高い、自然で聴きやすいものでもある。というか、そもそも他者へ、押し付けでない、丁寧に作り上げた音楽を聴いてもらうことへの高い意識があると感じる。

終楽章「シャコンヌ」へと至る荘厳な建築たる第2番はもちろん、最近は1番や3番も当たり前に完成度高く良い曲だなと思います。「クラシック(古典)音楽」と呼ばれるものの、そういった曲に対する社会や業界、個人の認識が更新されていくことに並走し、新しい価値を創造してながら、今を生きてる演奏家も素晴らしい。


C.PE.BACH:The Complete Work for Piano Solo/Ana-Marija Markovina

バロック音楽といえば、まず間違いなくJ.S.BACH(1685-1750)の名前が先行するわけだけど、その息子にあたるC.PE.BACH(1714-1788)の作品集。(とはいえ、J.S.BACHの名声を越えていた時期もあり、ハイドンやベートーヴェン、モーツァルトからも高く評価されていたようですが...。)

アルバム26枚分に及ぶとても大きな取り組みであり、演奏家個人の作品というところを越えて、きっと音楽界におけるアーカイブスとしても価値のあるものであると思われます。

便宜的に大別されるバロック音楽の時代から、古典派音楽の時代へと流行/思想が移っていく過渡期の時代を生きた音楽家の作品であり、また、父J.S.BACHだけでなく、弟にあたるJ.C.BACHの活動とも意図的に違うものを創作していたらしく、その開拓精神と試行錯誤の成果は、後々の後期ロマン派くらいにまで通じるかのようにすら感じる。

一方で、現代から見て「バロック音楽」「古典派音楽」という史感やジャンル認識は、(当時もそう認識されていた場合もあるにせよ)時々バイアスでもあるなと思う。

C.PE.BACHの音楽を~時代、~様式とか、バッハの息子とかという前情報から一旦離れて、全体を見渡すようにして音源で片っ端から聴いてみることができるのが良い。どうやら研究機関の後援により、ほとんど扱われていない作品/一般的には初公開/演奏のものも取り上げられているらしく、2014年にリリースされてしばらく経ったとはいえ、まだまだ今後この音源の評価・意義は高まっていくのではないでしょうか。

演奏者としてのAna-Marija Malcovinaにしても、自分は無知で知らない方だったけど、そもそも実績がきちんとある方ですし、単純に聴いてみた率直な印象としても、とても良い演奏だと思う。


巴里に帰りて/竹内竜次・暁子

パリに縁があり、第2の故郷/原風景としてのパリが在る二者の共演。

ギターソロでは、R.ディアンスのフレンチ・シャンソン集から数曲が取り上げられ、まさにパリの情景のごとく、アルバム全体にレイアウトされている。

ドビュッシーなどからその作風が由来するバルトークや、フランスの作曲家であるラヴェルの生粋のフレンチもありつつ、南米からパリを訪れたピアソラの作品では、その野心的な音楽に、やはりフランスのものが見出だせます。

オープニングのギターソロから、明快にして、ライン状の各声部がそれぞれ歌う様は、現代のギター演奏のレベルが高まっていることを実感させる。特にA.タンスマンの組曲「スクリャービンの主題による変奏曲」は、おそらく難曲であることにも由来して、頻繁にコンサートや録音で取り上げられない作品であるものの、収録された演奏は見事で滅多に聴くことはできないであろうクオリティ。

近年、ギター伴奏による他楽器とのデュオやアンサンブルは、その機会も曲の内容も注目されつつはあるものの、そもそも「ギター伴奏がオリジナル」の曲というものは実際には限られている(現代の仕様に直通したクラシックギターを想定して書かれた曲はいわゆる「後期ロマン派」以後である)ため、目下、拡大中であるとも言えます。(収録曲では、ピアソラの「タンゴの歴史」はオリジナルにあたる。)

しかし、そのようなことを鑑みた上でも、フルートとのデュオ曲での演奏はまったく違和感のあるものでないどころか、むしろ調和性が高く、これからより普及していくであろう予感がします。演奏者2人の奏でる音楽の説得力は、やはりパリ時代に経由したエスプリとアカデミズムを含めた響きなのでしょう。

そして、一足先にパリ留学を経験し、竹内氏の師匠にあたるギタリスト故・稲垣稔氏に由来した『カヴァティーナ』に至るまでに、かつて経験したパリや、師弟関係というバックグラウンドが、思い出や心象風景に留まらず、技術や音楽としても継承され、現世でも再現・更新されていることが実感できるような作品。

この音源は、「フォレストヒルレコーズ」という、いわばインディーズレーベルからリリースされているため、取り扱いの店舗は限定的であり、Amazonのような大手や、配信フォーマットでの購入はできない音源となっていますが、演奏者の高度な音楽だけでなく、録音物としての完成度も高く、とてもリアリティーがある音や空間性で収録されていると思います。




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