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恋の終わり(『I Promised You the Moon』感想)

率直に言って前作『I Told Sunset About You』とは別物でした。
主役は同じ人物だけれど、それ以外がまったく違う。見心地が違う。
ITSAYを期待して見たら戸惑いしかないと思います。けれど、意図して別物にしたのだなとも感じたので、違う作品としておもしろく見ました。

移りゆくもの

同じ1時間×5話構成でITSAYが推薦入試から一般入試までの短い時間を切り取ったのに対し、IPYTMは1話で1年を描き、飛ぶように時間が過ぎていきます。当然テーマも見どころもまったく異なります。

今作では、はっきりと、これ以上ないくらい残酷に、時の流れとともに変わっていく気持ちや関係性が描かれていました。
閉じたコミュニティで育った二人がバンコクへ出てきて、取り巻く環境は当然変わるし、あれほど好きだったものへの気持ちも薄れる。「変わらないものなんてない」という事実を、これでもかと突き付けられます。

……ただ、「Yドラマでくらい変わらないものを見たい」という気持ちも尊重されてよいのではと思うんです。永遠に変わらない愛が見たい。
なので、「私のテーとオーエウはITSAYがすべて。あれで終わり!」という見方も間違っていないのではないでしょうか。

演劇は人を変えるか

個人的にとても興味深かったのが、演劇や才能、夢を追うとは?といったテーマがど真ん中に据えられていたことです。

ITSAYの1話で設定自体はありました。
運命みたいに演劇を好きになってその気持ちが揺るがないテーと、飽きるわけにはいかないと努力し続けるオーエウと。
才能の有無や天才対凡人の話になっていくのかな?とワクワクしたことを覚えていますが、ITSAYではそれ以上は描かれませんでした。

そして……演劇って怖いものだなあと改めて思います。
あの濃密な世界は、人と人とを奇妙に近づけてしまう。

演劇や演じることについて作中でここまで突き詰めて語るということは、そこに製作陣の演劇への思いが明確に込められていると思います。その事実もとても重いです。
演劇には人と人との関係を変える魔力があるし、テーのように演じることに引っ張られ、同じ夢を語り同じ視点で物を見られる人間が特別になってしまうこともあるのだ――というメッセージを受け取りました。

……ですが一視聴者としては、テーの過ちを何か美しいもののように「俳優だから仕方ない」という言葉で流したくはありません。4話の地獄のような展開で、オーエウの苦しみや絶望が本当に胸に迫ったからこそ。
「演劇」という共通言語を失った途端に魂で繋がれる相手ではなくなり、それが二人の障害になるだなんて思ってもみませんでした。

正直、4話の展開は記憶から抹消したいですが、演劇を好きで居続けられるところがテーの魅力の一つだとも思うので、本当にやるせないです。好きなものを好きでいる純粋さは、2話のキム先輩とのくだりでも表れていて、そこもとても好きでした。

……これからも、きっと二人には様々な問題が起こるのだと思います。
テーは場数を踏むことで自分と演劇とをもう少し切り離せるようになるかもしれませんが、それがいつになるかはわかりません。(エリーを本気で好きだったというのがもう…🤦)
ITSAYで感じた「オーエウは苦労しそうだな」という不安は現実になってしまいました。

終わりと、始まり

ITSAYで描かれたあの恋は、終わってしまったのだと思います。
そしてもう一つ衝撃的だったことに――チャイ先輩との関係すらも、一つの恋の終わりとしてはっきり表現されていました。

恋が二つ、終わったわけですが、でも最後、テーとオーエウは一時の恋で終わらせないことを選んだのだから、泥臭くやっていくしかないんですよね。(結婚して家族になってしまうのは大正解では!?と思いました。)

ITSAYのあの二人はもういなくて、それに寂しさも感じるけれど、あの輝いていた日々は消えないし、新たな二人がここから始まる――そういうラストでした。

余談:細部の見どころ

演劇を志す話だったのでタイ沼と重ねて見てしまう部分も多く、そこもおもしろかったです。
大学生兼人気俳優の生活やオーディションのくだり、イマジナリーカップルで本当に付き合ってみたり、SNSのカップル写真を削除させられたり…。

芸能界が扱われているドラマを他にもいくつか見ましたが、不思議とそのどれよりもリアルに見えました。「Yドラマの舞台裏」ではなく、「演劇」「俳優」という視点で描かれていたからかもしれません。

俳優って、自分の素や核を晒し続けなければならない過酷な職業ですね。
そしてその上で、容姿を含む自分自身を「役に合わない」という理由でバッサリと否定されてしまう。思わず、日頃見ているタイ俳優さんたちに思いを馳せてしまいました。

その他にも、広告系学生の雰囲気やタトゥーのくだりなど、ディテールも興味深く見ました。
感情はあちこち振り回されましたが、総じて、とてもおもしろく見応えのある作品でした。


★2022年1月視聴
★画像 cr. @NadaoBangkok(Twitter)

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