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「私の世界のすべてだったお前」完全無音朗読(加藤拓也/作,藤原季節/読み)少々ネタバレ。

配信開始前、YouTubeのサムネール。
それだけが拠り所。
佇まいが少しいつもと違う。
長くなった髪を耳にかけている。
白いシャツに濃い色の上着。
少し儚げに微笑んでいる。  

無音での朗読とは…どういうことなんだろう。
ここのところ朗読をYouTubeにアップしている季節くんだから
どんな風に読んでくれるのかと最初は思ったんだけれど…
ちょっと待って、無音、なんだよね。
とりあえず配信2時間前、ダウンロードした台本を読む。  

これは!!!
やられた!!!
素晴らしい短編小説だった。
「誰にも知られず死ぬ朝」で初めて体験した
加藤拓也さんらしい、時間と場所を行き来しながら
パズルのようにひとつひとつはまっていき大きな流れとなる。
え?え?と
用意された仕掛けに驚くと同時に
あまりにも全てが納得で笑うほど嬉しい。
そうなのだ。
そうなのだ。
これは無音でなければいけない
季節くんは優しいけれど特徴ある声
やはり季節くんそのものになるはずだ。
(それはそれで聞きたい気はするけど…)
鮮やかな(ある意味)裏切りの効果は薄れるだろう。
そしていつもより優しげなビジュアルはもちろん中性的なイメージを意識したもの。  

カウントダウンの後。
部屋で自撮りの画面。
本当に無音。
意味ないんだけどイヤホンをして。
アーカイブがないということだったので
絶対に途中で邪魔されたくないし集中したい。
いつもはネットとかはリビングで見てるけど
寝室にMacBook持ち込み篭る。
周りの音は聞こえないが
自分の呼吸の音が感じられて不思議な感覚。
静かに語り始める(と思う)季節くんの口元を凝視しつつ
手元の台本をチラ見しながら。
この作業がうまくいくかどうか不安だっだけど
事前に読んでいたからポイントポイントで
ああここ喋ってるっていうのがわかって。
うん、その程度でいいと思った。
ただ季節くんの表情の変化、喋りのスピードの変化を見ていればいいんだ。  

「僕」が同僚の女の子の家に鍋を食べにいくという日常から
「僕」が感じる違和感、身体に感じるぬるさ。
その正体がわかるのはずっと後。
うーん、と唸らされたところ。
加藤さん…すごいよ…
途中で飲み物を口にするのもカメラが倒れる(?)のも演出なんだろうか。
たまに現実に引き戻して…ハッとさせる技。
圧巻なのは後半。
上着を脱ぐ。
過去の出来事を語る。
「私」として語る。
静かなのに熱を帯びてくる眼差し。
目の周りは赤くなり
流れる涙を手のひらで拭う。何度も。
本当に何も聞こえてないのかしら
そう思うくらい心揺さぶられ、引き込まれた。
物語がそこにあった。
美しく悲しい物語が。  

終わってみればもちろんワンカメラで
台本に目を落とすことはほとんどなく
(進行がわかりやすいようにページをめくるのは映るようにした)
ブラックアウト、ぴったり30分。  

アーカイブは残さないということでしたが1時間くらいは残していたようで
終わってもう一度、見ることができました。
今度はもっと画面に集中して。
もうなんというか、あまりにすごすぎて
しばらくこれ以外は頭に入れたくないという境地。
私、どうして季節くんに惹かれてしまったのか
全部これを見るためだったのかもと
そこまで考えた。
いや、もちろんもっといろんなの見たいんだけどね(笑)  

そして…
去年hisを撮影して、今年の初めの公開において
LGBTについてたくさん喋っていろんなことを考えたと思う季節くんが
この作品でこの役をやる(読む)ということに意味がありました。
あれをやった後とやらないでいたのでは
絶対に違ったはずだと。
それを思って私は涙したんです。
全ては繋がってるって。
全ては蓄積されていき
素晴らしい俳優に、素晴らしい人間になる。
時折…
あまりに繊細すぎて
一生懸命すぎて
心配になるけど…
でもきっと大丈夫だろう。
世界は全部ウソだけど
存在している。
信じるのをやめない限り存在しているから。  

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