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【Dロー】ひとりじゃない夜【うちよそ】
いつだって別れを思って、ロータスは過ごしている。
![](https://assets.st-note.com/img/1698227583034-kTZ3hw7DDs.png?width=800)
記憶をなくしていた間支えてくれていた
あの人もあの人もあの人もいなくなったから。
苦しくて悲しくて眠れなくて
ロータスの夜の生活は荒れた。
記憶を取り戻して
大切な義弟が生きてるとわかったとき、
やっと生きる理由を取り戻して、
少しだけ、息ができた。
そうして義弟との再会を喜びつつ
住宅街の片隅で職人仕事に集中してる頃に
彼と出会った。
![](https://assets.st-note.com/img/1698228438332-ZICLNJNZkl.png?width=800)
気難しいさまが義弟と重なって
放っておけなかったので
影に日向に彼を助けた。
小さい頃の義弟を思い出して
近づきすぎず、構いすぎず、穏やかに微笑む。
義弟に似てる、理由はそれだけだったのに、
ゆっくりと、
距離が縮まるのを感じていた。
手負いの獣のような彼から警戒されなくなったのはたぶん、
余りと言ってクッキーを渡した後から。
孤児院に納品するものを多めに作って
簡単に袋詰めして
ロータスはいつもと変わらぬ微笑みを向け
クッキーを差し出した。
最初はボトル売りの水しか
受け取らなかったのになあ
と、ロータスはなんだか微笑ましくて、
少しずつ彼への差し入れを増やした。
その内ロータスの彫金作業を見学したり
帰る前にお茶を飲むようになって、
新しいお菓子に目を輝かせている様子を
隣で見守ることが多くなった。
出会って数ヶ月後。
穏やかな空気の中でお茶するようになった。
もうそろそろ帰る頃だと思って、
隣に座る彼を見た。
![](https://assets.st-note.com/img/1698312868212-1jXKDNVEnZ.png?width=800)
口下手なのは理解していたけれど、
流石に驚いて、ロータスは涙が滲んだ。
「どうして、したんですか?」
気の迷いだと言われたくて、聞いた。
ロータスはもう大切な人を側に置きたくなかった。
義弟だって常に側に置かないようにしている。
こんなに近づくつもりじゃなかったのに。
そして、義弟よりも年下の彼は、ぶっきらぼうに言った。
「あんたを好きだと思ったから、した」
聞きたくない(何よりも聞きたかった)ひとこと。
色んなことがロータスの頭の中をぐるぐるしていた。
涙がぽろりと零れて、目の前の彼は恐らく慌てた。
「泣くほど嫌だったのか、済まない」
顔に出ないけれど、しょんぼりとした様子に
ロータスは小さく首を振った。
「そりゃ、何か言う前に、合意なしには、
吃驚しましたけど、でも、」
喜んでしまった。
嬉しいと思ってしまったと。
ロータスは己の身勝手さに涙して、言葉を詰まらせた。
「聞かせてくれ、俺がこうしたことは、あんたを好きだと思ったことは、嫌だったか?」
ずるい聞き方だとロータスは思ったけれど、
やはり小さく首を振って、囁くように答えた。
「嫌じゃない、です」
「……そうか」
腕が伸びてきて、ロータスを捕まえる。
安堵してしまう己に嫌気が差した。
それでも、高い体温に包まれて、ほっと、小さく息をついたのだった。
ロータスがひとりじゃなくなった夜の話。
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