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ご遺体の空輸搬送

突然ですが、もし海外で邦人が亡くなった場合、どのようにして日本へ戻ってくるかご存知ですか?


外務省の調査によると、平成29年10月1日時点で海外在留邦人数が過去最高の135万1970人。
在留届を出していない日本人も含めると相当数の日本人が海外に居住しています。
また、日本人出国数は2019年で2008万600人に上ります(コロナ前)。

もし、海外で邦人が不慮の事故死や病死などして日本へ戻る場合は、ほぼ空輸で飛行機で搬送します。

ただ空輸と言っても「ご遺体」になりますので「貨物扱い」です。
スーツケースやほかの貨物と同様に、飛行機のお腹の部分にある貨物室への搭載になります。

貨物だからといってもご遺体です。ただ棺に納めて運べば良いというものではありません。
そこにはいくつもの複雑な手続きと、プロの手によって様々な処置がほどこされます。
その存在はあまり知られていませんが、ご遺体の海外搬送(日本から海外・海外から日本)を専門に取り扱う会社が存在します。

*遺体を空輸する前にすること*
まずご遺体を空輸するにあたって「エンバーミング(防腐処理)処置」が必ず必要になります。亡くなった方の体の動脈に管を入れ防腐剤を流し込み腐敗を防ぎます。またこのエンバーミング処置は遺族が対面した時の感染予防にもなります。

アメリカはこのエンバーミング先進国で、ご遺体はいつもきれいな状態だそうです。
しかし、国によっては高額な金額を請求しておいて、杜撰な処置で腐敗が進み、体液が漏れ出し酷い状態で日本へ搬送されるご遺体もあるようです。「死人に口なし」をいいことに、日本でも海外でも悪徳業者の遺体ビジネスというものが存在します。また飛行機の気圧の関係で、搬送されるご遺体の90パーセントは体液漏れを起こすそうです。空港に着いてご遺族の元へ戻る前に、ご遺体を綺麗に復元するのも「国際霊柩送還士」の方々のお仕事です。

詳しくは佐々涼子さんの著書「エンジェルフライト」を是非読んでみてください。ノンフィクションのとても考えさせられる本です。

*遺体を運ぶ手順*
また棺を飛行機に搭載する際には、丸々一つコンテナを棺のために使います。他のスーツケースや貨物と一緒に同じコンテナを使うことはさすがにありません。また検疫や感染防止の観点から空輸専用の亜鉛版の施された棺収納ケースに納めてからの搭載になります。

棺に納める際には、密輸防止の観点から国によっては大使館職員などが同伴で棺を納めるのを見届けてから蜜蝋で封をする国もあるそうです。また爆弾検査や今ではコロナのPCR検査も必要になり、現地警察や大使館、行政などとの調整、書類作成、感染症証明書など膨大な書類の手続きなど、空輸に際しての費用は嵩みます。これも全て国際霊柩送還士の方々のお仕事です。国や地域によって変動しますが、ご遺体搬送にかかる費用は70~130万円ほどとある空港霊柩の会社のHPには記載されています。

そして様々な手続きを終え、飛行機に搭載された場合は、機長に貨物搭載スタッフが書類を手渡しサインをもらいます。貨物に何か危険物など特別な物が搭載された場合は、NOTOC(ノトック=Notice to Captain)という書類に搭載品名や搭載場所、危険物などは万が一漏れ出した場合の対処方法などが記載されます。

ご遺体が搭載された場合、「Dead Body」と記載され、手や足などご遺体の一部ですと「Body Parts」と表記されます。

通常であれば私たち客室乗務員には貨物の搭載内容は知らされません。ですので知らずに乗務している場合もあります。海外で邦人が不慮の事件や事故で亡くなり遺族がそのフライトに同乗する場合など、インフォがある場合もあります。ちなみに、サイズにはよりますが遺骨ですと機内に持ち込むことは可能です。

海外に永住していたとしても、亡くなったら日本の土に埋めてほしいという方も多いと思います。
一度、知識として、このような遺体搬送の方法があると知っておいてもいいかななんて思います。

次回は、遺骨の機内持ち込みについてご紹介します。



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