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まいにちのなかの。

時代がうごめいているのはハッキリしているけど、不安げなものからも目をそらすことは難しい、この毎日。

だけど、同じくらいに、輝くカケラもあちこちに散りばめられている。

彼岸花と黄金色に変わる畑のコントラスト。見とれていたら、あの人の気配が立ち上る。痛みや迷いもひっくるめて、それでもまっすぐ伸びてる背中。

夜の帰り道でよく出会う。横断歩道の脇にあるオブジェに、テコテコやってくるビーグルとご婦人。ポコンとオブジェに飛び乗って、すとんと座ってシッポをフリフリ。ちょこっとオヤツをもらって、ほんとにいい笑顔。信号、変わるな、もう少し見ていたいから!

灼熱の陽射しと熱風に耐えた庭の花々。どんな日にも母の手がかけられた赤青黄色、白、橙。うす桃、むらさき、浅葱色。風にゆられて、香りが届く。

おはよう、おつかれ、これからか?気ぃつけ、おやすみ、また行くわー!庭先から声がかかれば、気持ちはほぐれる。はーい!と手を振り行き帰り、道々気づけば笑ってる。

海の向こうのIちゃんの猫。今日も元気に大活躍で、Iちゃん、んもーーー!と大掃除。それをクスクス読みながら、あのあったかい生き物と、Iちゃんが暮らすその街へ、私はトリップした気分。来年こそは、会えるかなぁ?

思いがけずに新刊でてた!虫の音さかりの夜の中、手元の明かりでページをめくる。ついつい夜更かし、もすこし先まで!言葉の海を漂って、呼吸は知らずと深くなる。

どうしているか?と思い浮かべていたら、ピコンと便りがやってきた。その人らしい詞の綴りに、みるみる景色が立ち上がる。何はともあれ、それぞれ生きてる。

とんがり帽子の赤い屋根、私の部屋から見えてる教会。まぁるい窓にオレンジの灯り。寒い夜にはいっそう冴えて、そのコントラストが美しい。それを思うと冬が楽しみ。

ゴロゴロ、カートを引く音と、ボソボソくすくす、笑い声。チャミィと妹、やってきて、我が家は途端に賑やかになる。おかえり、ただいま、迎えるごとに、背丈が伸びた?とハッとする。こどもの時間は目まぐるしくて、息をのむほど頼もしい。

一度もお目にはかかっていないのに、すっかり懐かしい人たちの顔。パソコン越しの学び時間は、心をかける場所と人、知らないことを知るチャンスを増やしてくれた。文明の進化が紡ぐ、あたらしい糸。

心の中へ狙いすまして投げられたように届くアンサーソング。なんでこのタイミングで聞くんだろう!しみじみキャッチし、耳を澄ませたら、理由のつかない涙が滲んだ。生きてあがいてその先で、あの人どうか、もいちど、笑えますように。

地味でもツヤツヤした色が、爪先でキラッと光ること。考えごとして手元をみても、何だか少し元気になれる。ネイルは小さなおまじない。

信号待ちつつ歩道をみてたら、老紳士が躓き転倒。あわてて車を寄せて降りたら、あちこちから人が集結。ある人は対岸から、ある人は家の中から、ある人は横断歩道を全力失踪で駆け抜けて。とにかく一旦座ってもらい、動けますか?病院いきましょか?口々に尋ねたら、奧さまが迎えにきてると老紳士。それらしき人、心配げに信号かわるのを待っている。駆け抜けてきたご婦人が付き添い、老紳士は対岸へ。振り向いて、ペコリとしてから手を振った。私たちも自然に微笑みあって、よかったよかった、大丈夫みたいね、じゃあ…ってペコリと散り散りに。いいな、と私は呟いた。世の中、まだまだ。

それから、老紳士がしっかり両手で握っていたお弁当。料理教室の帰りだと言ってた。あれは奧さまへのおみやげだろう。怪我は気の毒だったけど、おうちに帰ってそれを覗く2人を想像したら、胸のあたりがホワンとした。

あるものの数をかぞえると、充たされてる実感が満ちてくる。それがどんなに些細なことでも、どうせ数えるなら、小さなキラキラのカケラを数えたい。それはきっと、どうしようもない闇の夜に、じんわり効くものに変わるから。そうやって、たすけてくれるから。

まいにちのなかの、小さな鉱石たち。わずかな光は集まって、それでもやがて、心に光の柱をたてる。







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