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悲劇の天才 BES①

はじめてBESのラップに触れたのはSEEDA「GREEN」の1曲、「Path」であった。「結局money,pain,切れないチェーン 煙の向こう終わらないgame 」粘性のある独特なフローと色気のあるけだるい声質に、「この人、本当に日本人なのか!?」と一聴して驚かされたものだ。

ただ、その時はフローがイケてるラッパーとしか認識してなかった。しかし、BESの凄さは、フローだけに留まらない。それを決定づけたのがI-DeAのアルバムに収録された1曲「One Day」だ。

「あれはone day 午前0時前のnews
眺めるTV smoke, ぬるくなったジュース
ニュースキャスター 淡々と読み上げたname 
焦り二度見画面上のname
罪状殺人 加害者 血縁者 住〇会 大◯一家 某組の長
昔かたぎ叩き上げの893 俺には指のない足長のおじさん
住宅街 事務所でpang 五人をkill 響くgun shot
内輪もめこじれ方針の違い 相手から仕掛けた鉛のgame
意地の通し合い 意味無い輪廻 
押し合いへし合い また殺し合い 殺したほう 殺されたほう 
感情交差してく とどめはPOW
検事は闇で殺人鬼呼ばわり 何が殺しあえばいいだよfuck
おらお前らに何がわかんだよfuck 
しかし突きつけられたジャッジはtrue
極刑は死刑 未だ覆らない 相手には当然 こちら側騒然
身内は控訴 何度も挑戦 愛娘号泣 切れかけた生命線
いくら世間から文句言われたって 手紙 裁判 傍聴人 面会
差し伸べる周りの手は温かい 何があっても何も変わらない
実際笑えねぇよgangsta movie 興味本位で暴走 ガキに舌打ち
死ぬ気で引き金引いたとしても 
引くに引けずに犯した罪だとしても
おじさん塀の中で何思う あこがれて持ち上げる奴らにも問う
ろくでもない自分自身にも問う 
一瞬ですべて変える弾丸を喰らう」

もうこのリリックだけで、BESが、そんじょそこらのラッパーと視点、表現力、そして生き様がまるで違うことが分かる。後々、SEEDAも、この曲にバースを吹き込むはずだったが、BESのラップが出色の出来だったので、アウトロに言葉を添える程度になったという。そして、更にBESの名声を高めることになったのが次の曲だ。

「生きたいように生きるいつも What's da deal?
道端24/7 All day
スムースにムーブ バビロンcity
聞こえるか? Where u are? Homie Homie
生きたいように生きる神奈川・東京
道端24/7 All day
スムースにムーブ バビロンcity
聞こえるか? Where u are? Homie Homie」

フックのBESのフローは、日本人ラッパーで最高峰のものだと断言できる。そして、バースの出来栄えも抜群に良い。

「今日の友も明日は敵 または明日の友も今日は敵 俺には無理
プラスとマイナスだけの街なか 見つけるプラスとマイナスの無い仲間
hustlin'止めろと言うわりには ライン渡りたがり上がり割りに合わん
キレイ事は内ポケにON 所詮 戯言さ Don't look'in back. Oh
馴れ合いと わかち合いの違い うたかたのGAME
ポーと追いかけっこ 空は晴れても霧ががかる
視点 Wから“C”“C”からW
はなから信用無いの承知 鼻からたしなみ 焦がすローチ
day by day case by caseだろ?なぁHomie Homie」

東京の路上で、違法薬物を捌き、生計を立ててきた男の、危険と隣り合わせの日々が、まざまざと浮かび上がってくる。しかし、ここにある「ライン渡りたがり」というラインが、皮肉にも、その後のBESの過酷な運命を示唆しているように思う。

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