三年前の人

三年前に付き合っていた人がいた。なんとなく言葉にすると、ちょっと美しい。でも、美しいような付き合いなどではなかった。醜いわけでもなかった。たった一か月半ほどの、付き合いだった。彼には悪いことをした。悪いことをした、といって、謝るつもりではなくて、ただ事実として、客観的に見て、悪いことをしたのだった。それぐらい、ばかな私にも、わかるのだった。

「男は、たとえば、別れた後でも、どんな形であれ、思い出されるのは嬉しい。それだけ、彼女の中にいられるということだから」

いつだか、彼はそんなことを言っていた。彼はよく男としていろいろなことを代弁した。じゃあ、私が、こうしてたまに、ふと、思い出すことは彼には嬉しいのか。私は男でもないし彼でもないので推し量れない。私だったら、私のような女だったら、女はきっと、思い出されるのは嬉しくない。でも、私は彼を思い出す。そうして、悪いことをしたと再確認して、愛だの恋だのを謳う小説や漫画やドラマを遠ざける。私が好きなのは、頭のおかしい人がでてくる小説だし、男だけが恋愛している漫画だし、人が殺されるドラマが好きだ。

彼の好みは、知らないままだ。そしてきっとそのうち、十年前に付き合っていた人、になってしまうんだろう。何にも知らないまま。