変身

気持ちがどんどんいびつに曲がっていく気がして、それは自分が自分であるからだというよくわからない理論が働き、そうしたら鏡に映る自分が本当に醜いもののように思えてきたので、髪の毛を切りに行った。ついでに染めた。

仕事帰りに寄った美容室は私以外客はなく、店長とアシスタントのお姉さんだけの空間で、三人で好き勝手言い合ってああだこうだと笑った。実はまだ、その美容院に行ったのは二回目だったのに、随分うちとけたように馬鹿みたいにして笑った。愛想もあったと思うけれど、苦にならない愛想だった。
もう何年も染めていなかった髪の毛を染め、なかった前髪を作った。ちょっと雰囲気が変わったなあ、と思うと、少し自分が好きになった。こうして強制的にでも何かをリセットしていかないと、立ち行かなくなることがたまにあるな、と、改めて思った。

車に乗り込み、好きなバンドのアルバムを聞いていたら帰り道を間違えて家を通り過ぎてしまった。このまま走り去ってしまいたい、と、思うけれど、明日に響くからそれはしない。いつだって私は優等生なのだ。優等生でも、自分をどこかに脱ぎ捨ててこのままずっとずっと走り、走り、走り、走り去っていきたい。でも、やっぱり、優等生だからそれはしない。

そしてふと、今日、あのとき、きっとあの先輩を傷つけただろうな、と思い出す。ふとした瞬間に、自分でも思いがけない言葉で誰かを傷つけることがある。言葉は無防備で悪くはない。使う人によるのだと思う。わかってるつもりで、でも、「つもり」だからわかってない。だから誰かを傷つける。傷つけるということ自体が自意識過剰かもしれない。でも、じゃあ、傷つくのはそっちの勝手なんだからって、言っていいことばかりじゃないのに。息をするように微笑むように、誰かを傷つける。そういう自分が、嫌になる。

自分が自分であることは紛うことなき事実で、そんな自分をうちやることもできなくて、だからせめて髪の毛を染めて、切ってやった。ざまあみろ、と、誰かに言う。誰だかは、知らない。髪の毛が茶色くなった私は、せめて明日だけでも、誰かを傷つけないでいられるだろうか。

誰も歯牙にもかけないような私の小さな変身。私にあてつける、私のための、変身。