Beautiful World
泣きすぎて起きた朝、髪の毛のキューティクルが綺麗だった。
むくんだまぶたの奥の瞳は、自分が思うよりも茶色だった。
わずかに湿気を含んだ風は冷たく、足をなでるスカートの生地が心地よかった。
背の高い後輩の後姿、背中に集まるシャツの皺が美しかった。
ふと見た窓の外、屋根にのった名も知らぬ小鳥がかわいかった。
フロントガラスに集まった雨粒は丸くなり、音もなく滑り落ちる。前の車のテールライトの赤を集めて、はじけて、消えた。
夕飯のテーブルに並んだトマトのたまご炒めの色が、好もしかった。
誰がどこで悩もうが泣こうが死のうが、世界はきっと美しい。
誰かがどうでもいいと思うことを、誰かは美しいと感じる。
そんなことを毎日毎日忘れては思い出して、思い出しては忘れる。
そのたびに、世界はきっと生まれ変わる。
だから、あなたの世界を、もっと聞かせてください。