『コミケの時代の終わり―BLも、ニッチな本も消えていく―』お詫びと訂正

文責:箱部ルリ

自分の書いた記事『コミケの時代の終わり―BLも、ニッチな本も消えていく―』について、至らない点が多数ございました。
本記事で、頂いたさまざまなご指摘にお答えさせていただきたく思います。
全てのご指摘にお応えできているわけではありませんが、何卒ご理解いただけますと幸いです。


お詫び

イナゴ・同人ゴロという呼称を用いるべきではなかった

同人誌を使って収益を上げるクリエイターがいることは、ジャンルの活気の一つの現れだと考えています。
しかし、その事実を強調しようとして「同人ゴロ」や「イナゴ」という言葉を使ってしまったことは、多くのクリエイターの活動実態にそぐわない表現であったと反省しています
売上を強調したいのであれば、「人気作家」という言葉を用いるべきでした。
この文脈で、実在の作家である伊東ライフ氏の名前を挙げたことは非常に不適切であり、彼の実際の活動とは異なる印象を与えてしまったことを深く反省しています。伊東ライフ氏とその作品に対し、心からお詫び申し上げます。
その他の作家の方々に対しても、不適切な印象を与えてしまったことについて、心より謝罪いたします

男性向けジャンルのオンリーも存在する

その通りであり、コミケにおける男性向けジャンルの趨勢のみから同人誌全体の衰退を結論付けることはできないと考えております。その点、誤解を招くような書き方をしてしまったことは深く反省しております

一方で、コミケという場が同人誌を頒布するうえで第一の選択肢ではなくなったことは事実であり、そのことは同人文化にとって必ずしも良い効果ばかりではないと考えています。

従来のコミックマーケットは、盆と年末の数日を空けておけばすべてのジャンルの同人誌を一度に探すことが出来る場でした
一方で現在はオンリーイベントが活動の中心になっているサークルも多く、弊研究会も文学フリマを中心に同人誌を頒布しています。
必ずコミケに行かなくてもよくなったことで、より多くの方が同人イベントに参加できるようになったのは良いことですが、自分の好きなジャンル以外のイベントに行く機会が減ったと考えています

もちろん、インターネットを通じてオンライン上で同人誌を探すことは可能ですが、同人イベントという場で同人誌を探すことの意義は少なくないのではないでしょうか。

そのため、男性向けジャンルのオンリーイベントがコミケに比して盛況であるのだとしたら、それは同人文化の分節化を意味しており、負の影響も少なくないのではないかと考えております。

ただし、議論の展開が粗雑だったことは否定しがたい事実です。
記事中でコミケの衰退こそが同人文化の終わりだと短絡的に結論付けてしまったことは全て私の責任であり、この誤りについて深くお詫び申し上げます

合同誌・クロスオーバー誌のみに着目するのは適切ではなかった

また、そもそもコミックマーケットの衰退という結論を急ぎすぎてしまったことへのご指摘も多数頂きました。
そのなかでも特に多かったのが、合同誌・クロスオーバー誌に焦点を当てたことに対する指摘です。

あくまで合同誌・クロスオーバー誌の数と内容は1つの指標でしかなく、もっと多角的な視点を持つべきでした。
合同誌・クロスオーバー誌に注目したのは、数が比較的少ないことも理由の一つですが、私自身の個人的な思い入れも大きかったことを認めます。この点、自分の思い出を懐古しているだけだという批判は正当なご指摘だと受け止めております
分析方法としては、例えばジャンル内の頒布物(イラスト本・漫画・小説・同人CDなど)の比率を調べるなど、より幅広いアプローチが必要でした。
合同誌・クロスオーバー誌の動向のみをもって「コミケが終わった」と断じるのは、誤りだったと深く反省しています

また、新しく登場したジャンルのニッチな同人誌が少ないことについて、「流行り始めてからの年数がまだ少ないため」という意見も多数いただきました。
その可能性もあったかもしれないと考えると、私の分析が早急だったことを認めざるを得ません

コロナ禍・オリンピックによる影響と同人文化の衰退を混同している

コロナ禍やオリンピックの影響は確かに存在します
C101までのデータを調査したのは、初版が2023年5月時点であったためですが、現在の状況については再検討が必要であり、その点でサンプル選定に偏りがあったとのご指摘は理解しております
具体的には、コロナ禍の影響で中止されたC98や、最新のC103など、より多くのデータを考慮に入れるべきだったと考えております。
ただし、同人ジャンルの細分化と1つのコンテンツに対する情報量の増大は、コロナ禍やオリンピックの以前から進行していたことも明記しておきたいと思います。

「終わった」という表現を使うべきではなかった

繰り返しますが、合同誌とクロスオーバー誌は一つの指標に過ぎません。また、当該記事が主張しているニッチな本の減少はあくまで傾向に過ぎず、現在のコミケで頒布されているすべての本が凡庸であると断言することはもちろんできません。
「コミケが終わった」と断言したのはやや先走りすぎたと感じています。


また、「コミケが終わった」という論は以前から存在しました。カタログがWeb上で閲覧可能である近年のデータのみを扱ったのですが、もっと長期的な視点が必要だったと思います。そして、そのような過激なタイトルを使用し、注目を集める手法に関しては、不適切であったと深く反省しています

2010年代に同人文化、特にコミケへの注目度が高まった一方で、コミケ自体が同人文化の中心ではなくなったことは、オタク文化や時代の変化を象徴していると筆者は考えていますが、その結論に至る過程で速断したことは、今となっては考え直すべきだったと感じております
コミケに携わる方々の多くに不快な思いをさせてしまったことを、心からお詫びいたします

記事の論旨について

改めて本記事の論旨について補足いたします。
まず、女性のサークル参加者がコミケから減少している現状が、同人誌の多様性を損なう可能性があるという点を指摘しました。
次に、コミケに残る男性向け二次創作のうち、ジャンルコードが独立しているものについて、ジャンルの細分化が進んでいることと、合同誌・クロスオーバー誌をニッチさの指標としたうえで、①有名なキャラクターやコンテンツに限ってニッチな同人誌が作られがちであること②新参のジャンルにおいては、ニッチな同人誌があまり流通していないことを紹介しました。
この現象の理由としては、新しく独立したジャンルに女性ファンが多いこと、1つのコンテンツに対する情報量の増加、そしてコミケ以外で同人誌を頒布する環境が整備されたことが挙げられます。
以上の理由から、コミケの重要性が低下していると結論付け、これがオタク文化の分節化を象徴していると考えました。
さらに、この現象はオタク文化に留まらず、趣味を基盤とした緩やかなコミュニティが社会全体で消滅している可能性にも通じるというのが、本記事の主張です。
もともと、この記事は負けヒロイン研究会の会誌第3号である10年代特集に掲載された記事を改稿したものであり、焦点を当てたかったのは同人文化全体の変化ではなく、2010年代終盤以降にコミケの役割と影響力が縮小している現象が広範な文化的変化を反映しているのではないかという仮説でした
しかしながら、結論を急ぐあまりデータの選択や分析に妥当ではない部分があったり、煽情的な言葉を使用してしまったことで、多くの方にご迷惑をおかけしました。この点について深くお詫び申し上げます

さいごに

この度は、私の不適切な行動と発言により多大なるご迷惑をおかけしたことを、心から深くお詫び申し上げます。
私の軽率な行いが皆様に与えた影響の大きさを痛感しており、このような言葉だけでは十分ではないことを承知しております。
今後このようなことが起こらないよう、精進してまいります。



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