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【対談】純愛同好会×負けヒロイン研究会

※本記事は、純愛同好会と負けヒロイン研究会の会誌刊行を記念して、両会間で行われた座談会を書き起こし、加筆、再構成したものです。

ー10月、都内某所ー

あああ 本日はよろしくお願いします。「東大純愛同好会」会長のあああ(@iamsomepen )です。

ふとん 副会長のふとん(@always_in_often )です。

つむじ こちらこそ、本日はご参加いただきありがとうございます。「早稲田大学負けヒロイン研究会」主宰の舞風つむじ(@maikaze_tumuzi )です。よろしくお願いします。今回はコミックマーケット101に両研究会が出るということで、宣伝の一環として座談会を開催する運びとなりました。互いに10個ずつ質問を持ち寄って、それぞれの研究会を深堀りできればな、と思います。

 了解です。では、まずはこちらから質問していこうと思います。
まず一つ目の質問として伺いたいのですが、好きなアニメなどあったら教えてください(Q1)

 難しいですね……。ジャンルなどの指定はありますか?

 そうですね、ここはラブコメの中でお願いします。

 『やはり俺の青春ラブコメは間違っている。』が一番好きな作品として挙げられると思います。あとはアニメ化作品の中だと、『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』も結構好きです。他のジャンルでも好きな作品は沢山あって、例えば日常系なら『きんいろモザイク』も好きですし、『ラブライブ!』も好きです。結構いろいろなんでも好き、みたいな感じですかね。

 やっぱり『俺ガイル』は入ってきますよね。僕もいい意味でも悪い意味でも影響を受けた作品です。

 そうですよね。あの頃中高生だった人はみんなそう、みたいな印象があります(笑)。

 それに繋がる感じで「オタクになったきっかけ」みたいなものを聞きたいです(Q2)

 これは結構はっきり覚えてます。昔友人が『中二病でも倍返しだ!』っていう『中二病でも恋がしたい!』と『半沢直樹』のMAD作品を見せてきたことがあって。この二作品ってちょうど同じくらいの時期に放送されていたんですよね。それで、「このアニメ面白そうだな」と思って見始めたのがきっかけです。

 それっていつくらいか覚えてますか?

 確か僕が中学一年の終わりくらいなので、2013年末から2014年の最初にかけてだと思います。あとは、ボーカロイドの流行ですかね。『中二恋』に触れるより前にボーカロイドの曲は聴いていたので、そこから緩やかに繋がっている感じだと思います。

 アニメより先にボカロだったんですね。

 そうですね。「カゲロウプロジェクト」が盛り上がっていたころで、アニメより先にそっちに触れていました。

 僕は98年生まれで、「千本桜」と「カゲロウデイズ」がちょうど中学生の時に学校で流れていたみたいな世代でした。

 初めて見たアニメが『中二恋』だったということですね。

 いわゆる「深夜アニメ」ではそうですね。

 次に見た作品とか覚えてますか?

 正確には覚えてないですが、『とある科学の超電磁砲』だったような気がします。

 王道って感じでいいですね。

 ですね(笑)。最初はベタに「面白い作品」を一つずつ見ていったような記憶があります。

 なるほどです。次の質問なのですが、大学ではどういった内容の勉強をされているんですか(Q3)

 僕は文化構想学部にいて、コースが「文芸・ジャーナリズム論系」というところなのですが、特にこれといった専攻はまだしていないですね……。個人的にはメディア論とかを扱いたいなとなんとなく思っています。「フィクションと現実の境目」みたいなものに結構興味があって。多分、物理的に言えばそれって画面とか本とかのメディアなのかなという印象があって。それについて何か考えられればなという感じです。

 「境目」というと、僕は「2.5次元」や「VTuber」などが思い浮かぶのですがその辺りはどうでしょう?

 僕は「境目」というよりはどちらも混ざり合ってるような印象があります。「潮目」って言えばいいんですかね……。ただ、いま志望しているゼミの教授も、講義で「2.5次元」の話はなさっていたので「メディア」として捉えられるのかといった興味はもちろんあります。

 僕としてはつむじさんの言う「境目」のイメージがあまりうまく想像できないのですが、もう少し詳しく聞いてもいいですか?

 そもそもの話として、僕たちは「画面の中には入れない」という大前提があると感じていて。そういう意味での決定的な「壁」が画面の手前と向こうの間にあると思うんです。それがテレビやスマートフォンの画面だと考えると、やっぱり「メディア」っていうのは境目として考えられるんじゃないかな、と。もちろん、その境目の周辺にあるものとして「2.5次元」などは考えていかなければならないと思います。

 その「壁」に投影することによって初めて向こうの世界が見える、という感じですね。そこについて考えることは、結局どこに向かうと思いますか?

 難しいですね……。雑な話になってしまいますけど、例えば画面がなくてもフィクションは成立するのかどうかとか、「フィクション」そのものの持つ意味みたいなものを考える前提にはなるような気がします。あとはこれは「アニメ」や「ライトノベル」に限った話になってしまうとは思いますが、こうしたコンテンツの作品ってそこまで写実的ではないじゃないですか。一方で僕たちはあれを人間的なキャラクターとして捉えているはずで、そこの理屈はどうなっているのかみたいなことも関心があります。

ふ 一つ気になったんですが、つむじさんは「2.5次元」のコンテンツ……例えばミュージカルやライブだと思いますが、二次元のキャラクターのライブを声優が三次元でやるような場で感動したことってありますか?

 先ほど少し話しましたが、僕は『ラブライブ!』がかなり好きなので結構そういうライブには行きます。例えばAqoursの3rdライブとかすごく好きですね。

 そういう原体験があって今の関心につながっている感じですか?

 僕は元々アニメがすごく好きで、そこからライブに行くようになったのですが、そこでも「キャラクター」と「声優」の境目がどこにあるのかみたいなことは結構考えていました。ただ、今はもう少し「キャラクター」について考えたいなと思っているので、どちらかと言うと、少し昔の関心に戻ったのかなという印象があります。

 少し本題と外れてしまいますが、『ラブライブ!』で一番好きなシリーズってどれですか(Q4)

 一応『ラブライブ!サンシャイン‼︎』ということにしておきます(笑)。『ラブライブ!』も好きで正直言ってどっちがというのはあまりないのですが、僕が『ラブライブ!』を知った頃は2期と同じくらいだったので、かけていた熱量という目で見れば『サンシャイン‼︎』だと思います。

 時系列的には『ラブライブ!』の一期、二期、劇場版を見てから『サンシャイン‼︎』を見始めた感じですか?

 そうですね。2014年くらいから見ているので、そこからはリアタイで見てます。

 僕はμ'sで燃え尽きてしまって、『サンシャイン‼︎』は1話見てやめてしまいましたね……。

 僕も自分はμ'sで燃え尽きた側の人間だと思っていたのですが(笑)、見ているうちに案外面白いな……と思って。ちゃんと『ラブライブ!』の文脈に沿っていて気づけば、という感じでした。

 次の質問に行きたいと思います。好きな風景や場所とかってありますか(Q5)

 難しいですね……。

 まぁ、言ってしまえば感傷マゾ的な「田舎と白ワンピ」とか「歌舞伎町と地雷系」が好きですか?みたいな質問だと思ってもらえれば(笑)

 なるほど。そもそも僕は綺麗な場所が結構好きなので、すごく大雑把に言ってしまえば海とか、車窓から眺める山とか好きですね。

 いいですね〜。

 それ以外で言うと廃墟とか、崩れている建物とかは結構好きです。街中で解体されてるビルがあると少し嬉しくなりますね(笑)。瓦礫があって、中の鉄筋が見えてるみたいな風景があるといいな……と思います。

こういうやつです(撮影:舞風つむじ)

 『シン・ヱヴァンゲリヲン』でレイがいなくなるところの建物とかですかね。

 あー、まさにそうですね。

 あれも第3新東京市が壊れた後で、廃墟ですよね。
次はサークルについて聞きたいなと思います。まずサークルを作ったきっかけを聞いてもいいですか(Q6)

 そもそも「ゼロ年代研究会」が東京でやっていた例会に何度かお邪魔していたんですが、一度ぼくとちろきしんさん(ゼロ年代研究会主催者の一人)しかいなかったことがあって。その時に「負けヒロイン研究会」って話題になりそうじゃない?という話が何かのタイミングで出たんですが、「そういえば僕って負けヒロインのこと好きだよな……」とふと思って(笑)。ちょうどそのころサークルも入ってなくて、「ライトノベル研究会」でも作ろうかなーと考えていたところでちょうどいいな、となったのが始まりですかね。

 (笑)。奇しくも話題になるという読みは当たっていましたね。

 そうですね(笑)。まさかこんなことになるとは正直思ってませんでした。

 そのころから「感傷マゾ」という概念は知っていたんですか?

 いえ、そういうわけではないんです。それこそ、「負けヒロイン研究会」を立ち上げるまで知りませんでした。ゼロ年代研究会さんから「今「大阪大学感傷マゾ研究会」っていうサークルがあって……」という話を伺って初めて知ったという感じですね。

 では、完全にゼロからサークルを作った感じですか?

 ほとんどそうですね。高校からの友人数人に編集協力などお願いしていますが、今サークルを一緒にやってくださっているのはみんな立ち上げてから初めて知りあった方ばかりです。

 なるほどです。次に会誌の内容についても聞きたいのですが、確かあそこでは「10年代のラブコメ」とそれ以降のラブコメについて触れられていたと思うんですよね。僕も世代的に「10年代のラブコメ」に接しているのもあってそれにはすごく共感できるのですが、もう少し詳しく伺いたいな、と(Q7)

 僕は「ラブコメ」っていうジャンルの中にすごく大雑把に分けて二つの潮流があるんじゃないかということを考えています。一つが僕たちが「ラブコメ」と呼んでいる「三角関係」を中心にしたもので、もう一つが美少女ゲームなどに多い「1対1関係」を中心に描かれるものです。後者は「ゼロ年代批評」でも取り上げられることが多く、文学的な想像力に富んだものだったんじゃないかな、となんとなく思っているんですが明確な答えはまだ出せていません。この二つの潮流は時代によってゼロ年代では「1対1関係」の潮流、10年代では「三角関係」の潮流……みたいに勢力図を変えながらいまに至っている……ということを考えています。

 ゼロ年代にあった「キモさ」がなくなってしまった感じはありますよね。

 もしかしたら「オタク」が増えたみたいな言説とも関連があるのかもしれませんね。ちゃんと計量的に分析してみないとなんとも言えないような気はしますが。最近の作品だと『カッコウの許嫁』が個人的に結構好きな作品だったのですが、OPにsumikaを起用したりしていて、客層はどこなんだろう……と不思議に思ったことを思い出しました。

 「オタク」の定義的な問題はありそうですね。話は少し逸れてしまいますが『チェンソーマン』も似たような印象を受けますね。EDが毎週変更になっていましたが、僕的にはそのラインナップと『チェンソーマン』という作品に少しズレがあるような印象を受けました。

 なるほどです。僕は原作を追ってないので詳しくはわからないのですが、もしかしたら「アングラっぽさ」がそれぞれのアーティストにあって、その最大公約数的なものとして『チェンソーマン』があるのかもしれませんね。

 そうとも取れますね。最近のラブコメに関してはやはり脱色されているというか、諧謔性が無くなってしまっている気がします。

 あとは、あまり「オタクがどうこう」といった話は出てこなくなりつつありますよね。いわゆる「陰キャ」の象徴としては「オタク」ではなくて「勉強ができる」といった設定が使われている印象があります。さっき挙げた『カッコウの許嫁』や、あとは『五等分の花嫁』なんかはそうでしたが主人公がすごく勉強できるんですよね。

 確かに、言われてみると多いですね。あれなんなんだろう……。

 僕もそう思います(笑)。ライトノベルでも学校の設定が「進学校」とされていたりとかあって、何故なんだろうな……とはしばしば思いますね。この辺りは詳しく調べると面白いのかもしれません。

 正直ラブコメを見ている層が「陰キャ」みたいなイメージもあまり湧かなくて。それこそパチンコになったりするわけですし。

 そうですね。「趣味」による階層化という考えはもう失効している気がしますよね。

 どちらかというとコミュニケーションがどれくらい得意かによって階層ができている印象はありますね。それがあらかじめ内包されている世界で過ごしている印象があります。その影響で「アニメ」というものが逃げ道ではなくなってしまったようにも感じますが……。

 わかる気がします。それこそ今期(2022年秋クール)なんかは『チェンソーマン』や『SPY×FAMILY』といった有名作も多くて「大豊作だ!」と言われますが、個人的には夏クールの方が好きな作品は多かったかな、という印象です。

 つむじさんはやってるアニメはとりあえず全部見る、という感じですか?

 いえ、それほどではないです。夏クールは興味がある作品が多くて少し多くなりましたが、半分見ているかどうかくらいだと思います。

 前期(2022年夏クール)はどの作品が好きでしたか?

 『Engage Kiss』ですかね……。

 いいですね。僕と他のサークルメンバー二人で毎週座談会やってました。どのヒロインが好きでしたか(Q8)

 キサラでしたね。

キサラさん 可愛いですね

 僕達の座談会では「キサラの記憶を失い、それでもシュウに加勢するところまではいいんだけど、そのあと簡単に惹かれてしまうのは安易なのでは?」という感想が出ましたね。

 難しいですね……。でも13話のラストシーン見たらなんでも許してしまうような気はします(笑)。

 最近では珍しく誰も選ばずに全員に詰め寄られて終わり、というオチでしたね。

 むしろ最近はああいうオチの作品が少なすぎでしたよね。なのでちゃんそういうオチをやってくれるのは「1クールのラブコメ作品」としてすごく良かったです。

 座談会では妹ちゃんとアヤノさんが人気でした。僕はシャロンさんが一番好きでしたが……。線を引いて一歩後ろから考えている感じがよかったです。

 僕の周りでもアヤノさんは人気ですね。けなげな所が良いんだと思います。

 僕は『Engage Kiss』を見ていないのですが、いわゆる「ハーレムもの」という感じですか?

 『デート・ア・ライブ』みたいな、「”あの頃”MF文庫Jでいっぱい出ていた作品」の親戚だと思ってもらえれば……。

 キャラデザも『デート・ア・ライブ』と同じ方ですしね。

 なるほど。機会があったら見てみたいと思います。質問もいよいよ終盤になりますが、これも会誌「Blue Lose」に関する内容です。確か、あそこでは「萌えキャラ」に対する届かなさ、つむじさんは「不在」といいますよね、について「痛みを感じる」ということを書いているように思います。ただ、僕としてはむしろ逆だと思っていて、いないからこそ「痛み」というものはないんじゃないかとも思うのですが、その辺りについて伺ってもいいですか(Q9)?「いない」ということは、逆に言えば何をやっていても当人からの拒絶を受けないからこそ、「痛み」というのは感じられないのではないかと個人的には思います。

 この話の根本には、宇野常寛さんの「ゼロ年代の想像力」での批判を回避したい、という目標があるんですよね。あの本で宇野さんは「「安全に痛い」自己反省」という言葉を用いてプレイヤーが『AIR』で感じる「父」になれないながら少女を「所有」し続けることに対して批判を展開するわけですが、ひとまずそれを乗り越えられる可能性としてそもそも「所有」というのは原理的に不可能である、という話があるのかなという。
ただ、それはそれとしてヒロインから返答が何にも来ないという構造は個人的にはすごく辛いな、痛いな、と思う気持ちもどこかにはありますね。「コミュニケーション」の話になってしまいますけれど、基本的に世界では誰かに喋りかければ返答はあるわけで。それが根本的に不可能、というのは少し悲しい気がします。

 僕の見方になってしまいますが、むしろ「萌え」系のアニメを観るときというのは、「返答がないこと」の辛さというよりは「現実で誰かと関わること」の痛みを回避した結果として考えられることが多いように思います。

 言いたいことはよくわかります。ただ、「アニメを観る」という行為は「現実で誰かと関わること」を回避する一方で、「誰かと繋がること」にも開かれている行為だと思うんですよね。「コミュニケーションを回避している人たち」によるアジールができる、というか。

 現状の「コミュニケーションができていない人たち」のコミュニケーションツールになり得るということですか?

 それが近いです。僕の問題意識の一番底にあるのってやっぱり「無敵の人」みたいなもので。つまり誰ともコミュニケーションが取れなくて、結果的に誰も気づかなかった、みたいなことが最近すごく多いと思うんですよね。それをどう乗り越えていくんだろうと考えた時に、やっぱり誰でも観ていれば会話ができるものの一例としてアニメがあってもいいのかな、と思っています。今の世界では「不快なもの」に対して過剰に攻撃を加えることが多いと個人的には感じているのですが、そうした「快/不快」にとらわれないものに「アニメ」や、「虚構のもの」がなってくれたらな、と。
例えば「エモい」という言葉にそれができるのかな、と考えると、僕は「エモい」という言葉の中に「快/不快」や「美しい/醜い」といった二項対立が隠蔽されたままだと思っているのでそれは難しいのかな、と感じます。なのでとりあえずみんな可愛い「萌えアニメ」から始めとくか、みたいな(笑)。

 なるほど、そうなると「感傷マゾ研究会」とは立場が逆なのですね。

 そうですね、中身は真逆です。いつも仲が良いので、主張が違うことに気づかれないこともしばしばあるのですが(笑)。

 言われてみると、「感傷マゾ研究会」さんはあまり「オタク」という感じではない気もしますね。

 その辺りも「オタク」とは何か……みたいな問いにぶつかってしまって難しいですよね。「萌えアニメ」ばっかりみているいわゆる「オタク」とは一風変わったタイプではあると思いますが、それ以外を「オタクではない」と言ったところであまり意味はないような気がすごくします。言葉で区切ったところで大した意味はないというか。……難しいですね(笑)。

 つむじさんの中では「オタク」を分析するといった方向よりは「コミュニケーション」の問題が結構大きいということですね。

 ですね。問題意識としてそこは大きいと思います。

 最後に、「負けヒロイン研究会」の今後の展望を聞いてもいいですか(Q10)

 とりあえず、会誌の第二号が出せるように頑張ります……(笑)。一応卒業までは続けるつもりなので、頑張っていきたいと思います。あ、あと新入生を今年は頑張って勧誘したいと思います。

 (笑)。ありがとうございました。

 こちらこそ、ありがとうございました!

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