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【イタリア滞在記Ⅳ】⑥2024月1月第1週

Inter arma silent leges.
「ちょっと黙っててもらおうか」


2024年1月

1日(月)【大きな地震】

午後3時。眠くて死にそうだ。しかし、まだ眠るわけにはいかない。

Quello che si fa il primo dell'anno si fa tutto l'anno.

僕はこの格言を昔アンドレアに教えてもらって以来固く信じ、元日は "一年間継続したいこと" 全てに手を着けるようにしているのだ。

あとは日記と短歌(本当は11音節詩を書きたいが、このコンディションではどう考えても無理だ)をnoteに載せるだけ... それが終われば夕飯まで寝れる...

昨日 12/31(日) 夕方。アンドレア、ルイージ、僕の3人で、カザルボルセッティに住むグイードを訪ね、彼の家で cenone。その後、年越しのカウントダウンと、新年を祝って乾杯し、花火を上げに外へ出た。

フォルクスワーゲンの陰に隠れて見たフォンターナ
打ち上げ花火が打ちあがる瞬間。この直後、走って遠くへ逃げたので、夜空で花開く様子は残念ながら撮影することができなかった。

カザルボルセッティを出て家に着いたのが午前3時。床についたのはその一時間後だった。
そして、午前5時半に起床。その後、"今年一年間継続したい諸々" をこなしていき、午前7時半にアンドレアと二人で朝食がてら初日の出[↓]を見に出かけた。


Gran terremoto,
tsunami, poi botti
e armi da fuoco.
 
Senza sake in gotti.
Festeggiamenti rotti.

大きな地震に
津波、そして花火に
ピストル。

ジョッキに酒はない。
祝い事は台無し。

作/訳: ローリス M.
元日昼のトップニュースは、年越しの花火・祝砲の犠牲者について、その次が日本の地震と津波についてだった。

Tanka alba '24

Una nuvola ☁
Per un'alba chimica
Ohhh ma eccola

Come brilla la scia
Ma che fa? Già va via...

短歌 2024年の夜明け

一筋の雲 ☁
化学汚染の夜明けに
ああ ほら

たなびきがこんなにも輝いている
一体なにをしているのだろう? もう消えてしまう...

作: 新年早々 環境問題に心を痛めるアンドレア M.
訳: そんなことはどうでもいいローリス M.

帰宅後、アンドレアは仮眠をとるため寝室へ行き、僕は再び "今年一年間継続したい諸々" に取りかかった。
そして、午前9時。テッラ・デル・ソーレ(Terra del Sole)へ車で散歩(?)に行き、ミサに少しだけ参加したり、博物館を見学したり、プレゼーペを見たりした。

教会前の広場では薪が焚かれていた。火の前に立つと暖かくてすげぇ気持ちいい。思わず眠りそうになった次の瞬間、アンドレアにすごい力で両腕を支えられ、秒で目が覚めた。

...よし。短歌も詠んだし、日記も書いた。

本当はチェスと歌が残っているけれど、対戦相手かつ伴奏者は、今 女の子のところへ出かけている。
とりあえず夕飯まで寝て、残りは夜にやろう。

240101

5日(金)【エピファニア】

2日(火)

新年早々ベファーナが来た。

リビングにある背の高いシェルフの上に置かれていた靴下。ベファーナは国際協力に意欲的なようだ。

椅子に登って靴下を回収し、さっそく開封して食おうとしたら、アンドレアが、
「もう気付いたのか?! 土曜日まで開けたらダメだ! 俺は見ていなかったけど、それはベファーナが置いていったものなんだから! 6日より前に靴下を開けたことに彼女が気付いたら、夜中にほうきに乗ってうちへ来て、家中のぬいぐるみを幽霊にして君を恐怖のどん底に突き落とすんだ。君は怒ったベファーナを見たことがないから気をつけたほうがいい」と、早口で言った。

240103

3日(水)

チェゼーナのレストランにて、先日 "Gratta e vinci!スクラッチ宝くじ" で当てた金の一部を使って昼飯を食った。
普段、僕もアンドレアも、食事前は "Buon appetito!" と言うだけで、祈りを捧げたりはしないのだが、この日はやつに食前の祈り(「主よ、あなたの慈悲に感謝し、この食事をいただきます。また "Gratta e vinci!" をよろしくお願いします。アーメン」みたいな文言だった)を強要された。しかも、やつ自身はプリーモを食べる前にも、セコンドを食べる前にも長々と祈っていた。

僕が注文したのは...

プリーモは「トマトとバジルのフジッリ」
セコンドは「焼鮭」
付け合わせは「ニンジンとタマネギ」

...全て赤っぽい色をしている。

4日(木)

またベファーナが来た。

今度は経済観念がしっかりしたベファーナが来た。僕は子供のころ、『ファインディング・ニモ』のドリーが好きだった。なぜかそれを知っていて、今でもそうだと思っているようだ。

値札シールを剥がそうとしているアンドレアとリビングで鉢合わせになると、彼は、
「ベファーナが値札を剥がし忘れたから... 彼女らしくないな...」と口ごもる。
僕はやつにシールを剥がすのをやめさせ、写真を撮ったのち靴下をシェルフの上へ投げた。

240104

5日(金)

エピファニア
誕生日より
クリスマス・

パスクワよりも
往時偲ばる

明日はエピファニア。あいつ、今年もオリジナルのやつ、作ってくれるかな...

240105

6日(土)【月のよう】

アンドレアが突然いなくなった。

毎朝、僕は5時半に起き、アンドレアは7時ごろに起きる。しかし、今朝、やつは8時になっても起きてこなかった。
突然死しているといけないと思い、安否確認のため、許可なく入ることを禁じられている彼の部屋に入ると、もぬけの殻だった。

出かけたのか...? いつの間に? 昨日の夜か、今朝か... 僕に何も言わずに...?
もしかして、家出...? 昨日、サラミとヨーグルトをあいつの分も僕が食べたから怒ってるのか...?

...などと考えを巡らせていると、スマホがメッセージの着信を告げた。やつだと確信しつつ、テレグラムを開く。

"Buongiorno principe!  何も言わなくてごめん、急用で出かけたんだ。ところで、ベファーナは来た?"

これを見た瞬間、あぁ、今年のエピファニアは劇場型なんだ、と悟った。

"数日前に2回来ただろ" と返すと、今度はボイスメッセージが届く。
「昨夜も来たはずだけど。何軒もの家を訪ねたって聞いたんだ。俺が君だったら家の中を確認してみるけどな...」

どこかに第三の靴下を隠したらしいが、すぐに見つけてしまっては一生懸命サプライズを考えた36歳児がかわいそうなので、家宅捜索はせず、少し時間を置いてから、
"何もないよ"
と返す。すると、
「もっとよく探してごらん。俺は知らないけど、かわいそうに、昨晩 雨のなか家々を回っていたらしいから...」とのこと。

そこで、僕の見えづらい所なんてたかが知れている...と思い、背の高い家具の上を見て回ったが、何も見つからなかった。
その旨をアンドレアに伝え、送られてきたボイスメッセージを再生すると、やつの嬉しそうな声が響く。
「聞いてよ、道の突き当りに、ずぶ濡れになって靴下を届けているベファーナがいる! 待って、今、彼女に車を横付けしたから、ちょっと聞いてみるね... ねぇベファーナ、昨日の夜、ローリスに靴下を届けた? 家の中を探したけど、何も見つからないらしいんだ...」

その後、少し間が空き、老婆を演じようという努力は伝わってくるものの不自然に高い声で、
「こんにちは!もちろん行ったわよ! 建物の上から入って、バスルームの配管を通って下に降りたの!(??) 探さないとダメよ。サラミの匂いがするところにあるからぁぁぁ!」と続いた。

やっぱり根に持ってるな...と思いつつダイニングへ行き、昨日までサラミが吊るしてあった一角に目をやる。すると、そこにはパンパンに膨れて靴下らしからぬ形状をしているものの、それでも見覚えのある靴下が吊るされていた。僕のだ。

なんで僕の靴下なんか使うんだよ。足のサイズが25.5cmしかない上にアンクルソックスだから、中身ぜんぜん入んねぇじゃん...と舌打ちしつつ、壁に打ち込まれた釘に掛かった靴下を写真に撮ってアンドレアへ送る。
すると、
"開けてみて。何が入ってる?" というメッセージが返ってきた。
マシュマロにグミ、そして炭を模した砂糖菓子を撮影し送信すると、今度はボイスメッセージが届く。
「たったそれだけ?! 信じられない... 今からベファーナに文句を言いに行って、20分後に帰るから」

それから20分後、近所のスーパーマーケットのロゴが入った重そうなレジ袋を持って帰ってきたアンドレアが、
「ベファーナにクレームを入れたらすぐに他のを届けるって言ってたけど...来た?」

「来てない」

「おかしいな。彼女、約束は必ず守るはずなんだけど... ドアの前には置かれていなかったし、家の中に入らなかったということは...」

これ見よがしなヒントを出され、ベランダを見に行く。
すると、思い切り外から見えるように、今年25歳になる男が持つことは許されないであろう靴下が吊るされていた。

靴下の中に入っていた犬。Cerbero と名付け、書き物机の上で飼うことにした。

月のよう
わが身ひとつの
主顕節

千差万別
年によりけり

僕のために来るエピファニアは、月のように姿を変える。年によって祝い方が違うんだ。

『月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど』(大江千里)の本歌取り

ちなみに、今日の夕食はトマトソース・スパゲッティ。

僕が初めてアンドレアの家に来たときに食べさせてくれたのもトマトソース・スパゲッティだった。

そして、デザートはズッパ・イングレーゼ。

あいつはドルチェを作るのも上手い。あのときはティラミスを出してくれた。

240106

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