ヴァーチャル空間におけるアーティスト活動の可能性 ~ジャンルの壁を超えて

 VT界隈が広がりを見せる中、多種多様なVTが現れている。音楽シーンに限って見ても、かなり幅広い分野のVT達を見ることができます。
 そもそも、VTはその誕生から音楽と強く結びついた存在です。17年末に有名になった人達が軒並みライブ活動をしていることからそこら辺は見て取れるんじゃないかと。それはマネタイズの過程で偶然そうなったのかもしれないし、或いはヴァーチャル空間はそうしたアイドル的な活動の新たな場としての有用性からVTという存在が生まれたのかも知れません。
 とにかく現在のVT界隈を語る上で音楽を無視する事は難しいでしょう。そんな中、私が注目しているのは同人サークルトマト組です。なぜ私が彼らに注目するのか、少しばかり語らせていただきたいと思います、勝手に。

1 ヴァーチャルジャズボーカリスト・高峰伊織

 トマト組を語るならば絶対に外せないのが高峰伊織さんでしょう。彼女の歌は時に伸びやかで涼やか、しかし力強いシャウトもなんのその。私の貧相な語彙で彼女の歌を語るのはなんとも勿体ない話なので是非とも聞いていただきたいのですが…
 恐らく彼女が属している音楽ジャンルに二の足を踏む事と思います。そうトマト組はJAZZサークルなんです。ジャズという音楽は敷居が高い、と感じてしまうのはなぜでしょうか。実は私もそうでした。クラッシックなんかもそうなんですけど、ある程度以上歴史があるジャンルですと前提知識がないので踏み込むきっかけがない、とか今流行っている音楽とは系統が違うので聞き慣れていないので聞かないという感じなんではないでしょうか。
 恐らくそうした普及の難しさは彼ら自身が一番感じていることなのではないでしょうか。そこでこちらの動画を御覧ください。

 ジャズの文脈でシャルルを再解釈して見るとシャルルという歌が持つリズミカルで気持ちのいい語感を再確認できます。そして歌うというのはなんと自由であるのか、と教えてくれます。ジャンルを超えて様々な歌をジャズの手法で表現する、という面白さは彼女ならではの面白さですね。

2 ヴァーチャルギタリスト・アシノ

 そしてもう一人紹介させていただきたいのはトマト組代表のアシノさんです。彼のギターテクと幅広い音楽への造形は凄いの一言に尽きます。雑談混じりにサクサクと一曲仕上げていく配信はかなり玄人向けなのですが彼の音楽の引き出しが四次元なのではないかと思わせますね。ギターテクもジャンルを問わず様々な曲を弾く方でウクレレでFFの曲を弾く配信はかなり面白かったですね。
 彼の活動で目を引くのは他のVTへ呼びかけたりBGMを提供したり生放送ライブを行う等多様なコラボでしょうか。カラオケ音源と違う生の伴奏は相手に合わせてお互いに伸びていく感じが最高におもしろいし、少しの失敗も彼の技量なら面白い演出に変わっていく、そんなとこが私は大好きです。

3 VTが文化になった時の話

 彼らの活動は膨張を続けるVT界隈では小さいものかもしれません。しかし彼らの存在が鍵になるときがあるのかもしれな。私はそんな可能性を感じるのです。
 いずれVTが文化となるとき、その箱の中には何が入ってるでしょうか。その中身の多様性は文化の深さと許容性に繋がっていきます。衰退していく文化の特徴は多様性の否定と硬直性に他なりません。
 SNSというシステムは同種の繋がりを強調していくものです。そうしたシステムに依存するVT界隈もまた同好の士と繋がる傾向があり、数世代たった時には恐らく飽和するのではないでしょうか。そうした時にカンフル剤となりうるのはVT達の多様性だと思っています。その時にそれは私達の硬直した感性すらも溶かす事になるのかもしれません。

 随分壮大なほら話だなぁ、と思うかも知れませんが、今年の夏に私は面白いものを見ました。同人音楽という分野は私は葉鍵の頃に知り合いがドハマリしてたもので多少は見ていました。それから私自身も東方のアレンジにハマってちょいちょい見ていたんですよね(実はその時にトマト組さんのCDを買っていた事が只今判明しました)。だから同人音楽ジャンルで行列が出来る事が結構珍しい事だと思いましたね。
 同人音楽というジャンルで今回トマト組さんが行列を作ったというのはかなり凄い事なんじゃないかと思います。ひょっとしたら特典の白上フブキさんのキーホルダーが原動力だったのかもしれませんが、なにはともあれジャズというジャンルの壁が打ち崩されたような気がしたんです、勝手に。
 それを見て、私がVT界隈に期待していることが何となくわかった気がします。

4 多様性という言葉

 本稿の起稿に際し、多様性という言葉を用いるのが正しいかすこし悩みました。私は言語学や文化人類学においてその言葉の名のもとに生かされている文化や生き物を知っています。その言葉の裏にはたまに傲慢さがあらわれるのも否定できません。
 しかし伊織さんの新譜、POLESTARを聞いてるうちにどうでも良くなりました。彼らは誰がどう聞いても保護されるような弱々しい存在などではなく、Vという場で創作を楽しむ力強いアーティスト達だと思い知らされました。
 トマト組の在り方を見ているとVTの多様性は彼らの属性が『VT』という共通文化を通してまるでモザイクアートのようにそこに散りばめられていく、ごった煮のような多民族的文化を形成するのではないか、そう思えてきます。そうあって欲しいです。
 私達は様々な視点からVTを見ています。みんながまったく違うものを見ていてそれぞれが持つVTというイメージは違うでしょう。それでもVTという共通認識からお互いにいろんな話ができたらきっと楽しいことでしょうね。

 トマト組さんのライブ配信は自宅がまるで洒落たジャズバーにでもなったような本格的なものです。ジャズというジャンルに興味はなくてもその不思議な雰囲気を一度楽しんでみませんか?

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