ヴァーチャル空間におけるアーティスト活動の可能性について ~配信という作品の補追

 拙作「配信という作品」がじわじわと伸びていて、読んでいただいた皆様には感謝しかありません。まあ賛同の言葉はないものの、否定の言葉がないという事実から無言の肯定があるものと思っています。
 実はアレ、ある文章に対する反論として書いたものでした。中盤ハテナが多いところは異議あり! というノリノリのテンションで書いていたものなんですよね。書いてる最中も書き終わってからも、他人の揚げ足を取るような事になんの意義も見いだせずお蔵入りかなーと思っている時に手紙を書いててふと「原点に忠実であれ」という言葉とともに書き直してああなりました。そのあとちょっと考えた事がありますので補追させてもらいます。

何が配信を作品足らしむるか

 自分にとっての作品の定義は「作者が何らかの意図を持って作成し、他者に何らかの感動をもたらすもの」という厳密なようで緩いものです。
例えば切り抜き動画。あれは作者が感じた何かを他者に伝えたいという意図で作られ、そしてそれは大抵その意図が伝わります。だから作品であるといえます。
 そもそも配信は自動的にアーカイブになります。ので、自動的に作品たる資格を得ます。ましてや今9000人いる配信者が毎日配信をすればそれだけ作品が生まれる確率は高まると思います。映画界の格言に「クソの山からダイヤは生まれる」といいますからね。これは裏を返せば母数が大きくなければ名作は生まれない、という意味もはらんでます。
 こうした土壌を無視するのはいかにも勿体ない話じゃないですか。だとすると配信を作品として成立さている(と私が勝手に思っている)ものはなんでしょうか。

アバターと作品

 アバターのフィルタリング効果、というテーマはもう他の方も語られていますので割愛します。ここではそれが配信にどういう効果を及ぼすか少し考えてみましょう。
 人間の配信は作品たりえるのか、というところでお答えするなら当然足りえる、といえます。例えばマンデラ大統領やキング牧師の演説の動画。あれなんかは一つの作品でしょう。また落語の名人や芸人さんのビデオなんかも作品といえますよね。
 それらに共通しているのはテーマが明確で複数の手によって見られる事をプロデュースされていることでしょうか。そうした映像作品に対してVTの配信が作品と定義するに足る根拠は何であるか、と問われたならばアバターの存在が大きいと思うのです。
 先に上げた例で言いますと、有名人のそうした演説は彼の社会的な背景を込みでプロデュースされたものですし、芸人さんは見られる職業です。どちらも見られるための自分を演出しているといえましょう。そう考えるとアバターに近いものがありませんか?
 アバターを利用する事は彼/彼女が個人として追う特質が排除され、彼/彼女が望む姿を演出することが出来ます。それは企業勢が与えられたアバターを使用したとしてもそれはおなじです。彼はそれを拒否する事をしませんでしたから。
 合わせて実際の背景の排除は彼/彼女から現実からの乖離させます。思うに生身の配信でもっとも引き戻されるのは背景ではないでしょうか。
 総じて考えるとフィルタリング効果はかなり強いと思います。男4人が宅飲みをする配信を1万人くらいが見てましたけど、アバター(動いて無かったのでイメージ作用のみですが)なしでその人数が集まるとは思えません。
 逆に考えるとこれまでの配信が作品たり得ない可能性は『個人では演出出来ない点が多く、彼/彼女が目指す所にたどり着けない』という所なのでしょうか。そう考えるとYouTuberさんの動画は作品足り得るわけですね。

『美は見るものの眼に宿る』

 恐らく私などが言うまでもなく配信というのが自己表現の場として認められていけば一つの配信が『作品』として認められていくのでしょう。そして『作品』として成立していく上で割と大事な事があります。それが鑑賞され意義ある経験として共有される集団が発生し一定の権威を有する世界が誕生することです。

 その世界の誕生こそがVTが文化として承認される上で必要なものです。その機能をYouTubeのようなプラットフォームが提供するのか、それともSNSのようなソーシャルメディアが担うのかはわかりません。

 つまり配信を作品としていきたいのならば、VTが好きな皆さんが好きなものを好きと言う事がとても大事になっていくという事です。現代は価値観というものが個人に付託される時代です。未発達なVTという土壌に何の種を巻いていくかは皆さんが決めることなんでしょうね。10年後の界隈が匿名の悪しき文化を継承したものになるのか、それともまったく見たことのない世界になるのか。それはわかりません。願わくば、私が見たことのないようなものになっていてほしいです。

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