11月 雑感


朝、家を出るときは妻に手を振ってから出ていくのだけれど、週に2回あるゴミの日の朝は、ゴミ袋を持ちながら手を振ることになる。
そのうち1回は、燃えるゴミだけでなく資源ゴミやビンカンの日でもあるから、両手がいっぱいの状態で手を振ることになる。

さすがに振れないから、なんかこう、肩で振る。実際の腕はだらんとゴミを持っているのだけれど、想像の肘はちゃんと曲がっていて、アイドルの宣材写真のようなパーで手を振っているイメージで。
そんな習慣。

その朝もそうやって肩で手を振って家を出たら、あとから妻に「なんで指2本立ててたの?」と聞かれた。その動きを自分で把握していなかった。
そんな朝もある。


「通路」なのかと思い、「通路」でいいじゃんかと思い直し、「通路」でなきゃだめなことを、自分はわかっていないなと感じる


自分のことが信用ならない、正確に言えば自分の言動を自分で把握しきれているとは到底思えない、という感覚は長年あって、昔の記憶を触るたびに余計にうごめいてくる。

大昔、両親の結婚写真を見た記憶がある。イギリスにいたころだから、5歳のころだ。両親の知り合いと思われる日本人の教授っぽい家で見せてもらった。ロンドン地下鉄をすごろくに見立てたようなゲームがあって、すごく好きで何度もせがんだ中でのことだった。写真を見た僕は、なぜだか涙があふれた。なぜかは今もわからない。

この記憶は間違いなく僕の中にあるけれど、本当にイギリス滞在中だったかはあやしい。教授の名前は覚えているけれど、そこでのことだったかもあやしい。教授がロンドンにいたかもあやしい。
間違いないのは、5歳の頃にイギリスにいたことがあること、そのゲームがとても好きでどこかでせがんだこと、両親の結婚写真を見たことだ。

しかし、僕は本当に涙をあふれさせたのだろうか。その疑念は、本当に写真を見たのかなと思わせるくらいには現実を侵食してくる。
事実ってなんだろう。


プライドないのか、と一瞬思ったが、なぜだろう


道を歩いていると、クリーニング屋の車を見かけた。トラックではなくてバンだった。
窓から、パンの中にハンガーをかけるパイプが設置されていて、たくさんのハンガーにかかった服がつられているのが見えた。寡聞にして初めてこれを認識した。

いいね、という気持ちと、いいのか、という気持ちが同時に湧いた。前者は、そのほうが服にいいもんなという気持ちで、後者は、そうは言っても普通に寝かせて積んだほうがたくさん入るんじゃないのかという気持ちだった。
ほどなく、ハンガーの方がむしろ空間を有効活用できるのではという気持ちになり、「いいのか」は霧散した。

でも「いいね」と「いいのか」は、確かに同時にあらわれたのだ。


110円は想定外だったんだなとしみじみ感じる


僕は結構体毛がある方だ。頭髪はないし、胸毛もそうでもないけど、腕はしっかり生えている。
そのへんを歩いていたり、仕事をしていたりするときに気になることは一切ないのだけれど、服屋などにある大きな鏡を通して目の当たりにすると、自分が気持ち悪くてうわっとなることがある。なんだろう、腕だけ見ている分には問題なく、体全体として見るとダメな感じ。

ポケットモンスタースカーレット・バイオレットに出てくる敵トレーナーの造形に、バックパッカーというのがいて、ちょっと気持ち悪い印象を与えてくる。そいつにも腕毛が生えている。
僕の中で、腕毛は、あるけどないことになっているものだと思う。


「女なのに満塁男って」じゃなくて、もう、「満塁男って」なんだな


体の話といえば、職場の上司から加齢臭がする。これは仕方ないことだと思う。
ただ、職場の空調の構造上、上司の席の周囲の空気が全体に回っていくような感じになっていて、かなり増幅されて伝わってしまっていた。そうなると「耐えている」感じになってしまい、こんなことで上司にヘイトをためるのもなという気持ちになった。

そこで、上司の席の横にある小さな共用ロッカーに置き型ファブリーズを置いてみた。すると、やはり空調の構造上ファブリーズもめちゃくちゃ空間をかけめぐり、完全に相殺された。
よかった。
だからこそ、身の回りにあるいろんな「こんなこと」が、恐ろしく思える。「こんなこと」で亡くなってしまう人もいるんだろうなと思う。


高級だから「様」だとしたら、の、「したら」がこわい


その上司の話といえば、勤め先ではラジオ体操の時間があるのだけれど、ジャンプの運動のとき、上司はアキレス腱を伸ばす運動に変更している。

たぶん、これをやろうと思った身体的背景と、やることを決定した人格的背景と、やれる社会的背景とがあって、毎朝おもしろいなと思いながら眺めている。

その上で、僕のやりたいことってなんだろう。


この買わせたさって、なんなんだろう


コンビニでiTunesカードを買った。僕はソーシャルゲームをやるので、いくらでも課金できる環境が怖く、Apple iDとクレジットカードを紐づけてはいない。
そして、買ってからチャージするまでに、謎のタイムラグがある。

なぜだかはわからないが、しばらくカバンにねかせてしまうのだ。買ったから一安心、というだけだといいのだが。

まだ、人生で、あの時準備しておけば……みたいなことって起きてないのだけど、いつかはそれがくると思う。
お金のことを考えていると、その予感が特に増す。


国交省なんだ 市だと思ってた


川沿いに、飲みかけのコーラのペットボトルが置いてあった。
なんか昔、名探偵コナンのオリジナルアニメストーリーで、ストーカー殺人事件ってのがあったなということを思い出す。

女がいて、その女のストーカーが死ぬのだ。女が犯人で、確か殺し方は、ストーカーの目の前で炭酸飲料を飲みながら歩いて、それを置くフリをして毒入りの飲料にすり替えるのだった。

ストーカー、あれ飲んじまったのか。

現実の置き去りコーラを前に、ふと感慨深くなる。あの頃と今とでは、ストーカーに対する法的な立ち位置もずいぶん違う。
でもストーカー被害はどんどん深刻になっていく。
人は人に、目をつける。


この中にはパスタが入っていて、それがおいしかった


割と細い信号のない道だけどそれなりに車が通るところを歩いていると、右折したい車が対向車線のあくのを待っているのが見えた。後ろの車がイラつくやつだ。見れば5台以上待っている。

と思いきや、その車全部が右折していった。よかったね。
なんでもいいから、よかった話で締めたくなる。とはいえ、阪神タイガース日本一とか、そういうのではないんだなという11月だ。


このツイートの理髪店に、明かりがついていた
再開するのかはわからないけど、なんかよかった

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