評bot 9
今回も始めます。趣旨は下のツイートをご参照ください。なお、ご利用者様は敬称略にて失礼いたします。
八階建てマンションの屋上に立つクレーンがまるでアラベスク、綺麗 /藤田美香
「アラベスク」というと、同じ幾何的な模様が繰り返されているものを思い浮かべますので、この「クレーン」は複数台あるのかな、と思います。一機でも骨組みなんかで見てとれますが、複数機あるような気はしました。
「八階建てマンション」が「八階建て」だってわかる人は、それなりにそのマンションを見ているひとかそこを知っている人のはずなので、主体にとってマンションそのものに愛着がないわけではないと思います。なにかの工事なのか、もしかしたら解体なのか、なんといいますか「八階建て」と言い切れるマンションの屋上に「クレーン」があったらそりゃ切り取ってしまうよな、という、そういうところに心を読み取りました。
結句「綺麗」を、言われてしまうと、そりゃそうなんですが、という感じはあります。そもそも「クレーン」が「アラベスク」に見える瞬間があるのなら、それは「綺麗」なんだろうなと思いますので、わざわざそこまで書かなくてもいいとは感じました。反対に、「どうアラベスク」なのかというのが完全に想像するしかない状況なので、そこを読み手任せにせずに、主体が観た景の手がかりを与えてくれた方が読み手としてはより多くの物を持ち帰れるのかな、という気がします。
ご利用ありがとうございました。
お化粧を落とせば別の生き物になりぬるりと夜の買い物へ行く /新井きわ
三句七音、の歌ですね。「生き物に」で上句が切れるかと思ったんですが。とはいえ、ここのプッシュ感は好きです。初読だとつまずくかも、くらいです。
化粧を落とせば別人、というのはわざわざ短歌に言うほどのことではないかもしれないんですが、そこを徹底して「別の生き物」であると言い切っているのが面白いです。とはいえここの言い切りもそれなりに手垢がついているとは思いますが、「ぬるりと」で受けているのがさらに徹底していていいなと思います。ただのすっぴんの人は「ぬるり」感がないですが、そこに「別の生き物」という修辞が前置かれることで、「ぬるり」の質感を(ないにもかかわらず)想像することができます。
「買い物」というのが普通は昼にすることが多く思えるのもその原因かもしれません。こういう形でなんとなく出してくる「別の生き物感」が、「ないのに感じられる」面白さというのがあると感じました。歌を通じてこの主体の性格みたいなものがうかがい知られる部分もあると思います。
ご利用ありがとうございました。
特売の挽き肉まとめて買うような買い物上手になりたくはなかった /なかけん
評botは投稿にあたり解題される方もいらっしゃいますが、それは参考にとどめております(つまり、考慮しているということです)。今回これが「連作中の一首」だということですので、「一首としてはもうちょっと知りたいところがある」という私の感想は、これ以上申し上げません。
結句の裏切りがある歌です。個人的には、「特売の挽き肉をまとめて買うような買い物上手」がいいか悪いかと言われたらいいと思いますので、それを拒否する主体にあれっとは思いました。とはいえ、みみっちい部分もあるかもしれません。必要なときに必要なだけ買えばいいと言えばそうですので。
面白いのは、これを拒否しつつもこのこと自体は「買い物上手」とほめているところです。つまり、今置かれている自身の状況からすれば「いいこと」だということは分かりつつ、その上で「そうじゃない人生がよかった」となっているところに、普通の表現よりひとつ多い層を感じます。こういうところが短歌だと思います。結句のどっしりした韻律も、吐露している感じがして好ましく感じました。
ご利用ありがとうございました。
今回は以上です。
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