評bot 12

 

今回も始めます。なお、投稿フォームには記載しましたが、評botの期間は9月30日の21時までとさせていただきました。もともと9月末まで予定とは書いてありましたが、期限を明確にしておこうと思います。ご容赦ください。

趣旨は下のツイートをご参照ください。なお、ご利用者様は敬称略にて失礼いたします。


この海に身体を倒してゆきながら/死のことなんて/思わなかった? /パプリカ志村 a.k.a 村

「/」の記号は短歌では改行的に読まれることが多く、そう受け取りました。「/」がなければ一行でするっと読める歌ですが、あえての三行詩のようなスローモーションを歌に持ち込んでおり、結論それは効いているんだろうなと思います。「倒してゆき」が、ゆっくりに感じられるので。

「海に身体を倒す」という行為は、場所にもよりますが、溺死につなげることは可能です。そういうこともそうですし、もっと漠然とした「死」を、海に身体をしずめることで思わなかったかという突きつけは、この歌の発話者が行為者に対して行っているようにも読めますが、そうなるとみなさんどなたですかとなってしまうところもあり、発話者=行為者の自問自答に読めます。

そして、自問自答的に読むと歌に深みがあると思います。自分がなにを思っているかというのは、自分なら把握できているはずだ、という思い込みに切り込む形です。しかもそれが「死」という大きな概念であること、シチュエーションが「死」に近づける状況であることを踏まえると、分かっているけど無意識で逃避している、みたいな繊細な心理を感じ取れます。

一方で、他者に対する発話として読むと、どうしてもコントロールしたい感が先走ってしまうので、個人的に好みではありません。ただ、ここを選択するのは読者の領域の歌であると思います。

ご利用ありがとうございました。


矢印がすごい速さで動いてしまう設定をした上司のパソコン /長井めも

いたずらというか、日ごろの報復なのかもしれませんが、マウスポインタを最速にしておくというのは面白いので、情景にはくすっとします。「動いてしまう」で、明確にいたずらの方向であることを示し、「設定をした」で「まだ上司はこれを使っていない」時限爆弾感を演出しており、このあたりは巧みなところだと思います。

とはいえ、やっぱり結句にかけての説明がぎこちない気がします。「矢印がすごい速さで動いてしまう」というのは、非パソコン語です。感覚をそのまま言葉にした感じ。「設定をした」は、パソコン語です。ここに食い違いがある気がします。非パソコン語を貫くなら「設定をした」は「ようにいじった」みたいになると思います。主体の発話なのでこのままでも全く問題ありませんが、ちょっとここに違和感です。

とはいえ、「設定をした」の時限爆弾感は効いているとも思いますので、個人的には上句を整える余地があると感じました。「動いてしまう」というのも三句の字余りとして許容範囲ではありますが、すぐさま四句へとつながる接続なのでどこかもたつきます。初句七音にしてもいいと思いますので、スッキリさせてもいいような。あるいはこのあたりはシンプルに言及して、その「上司のパソコン」がいまどういう状態にあるのかに踏みこんで、景の奥行き勝負に出てもいいような気もします。

ご利用ありがとうございました。


次々と角を曲がれば次々と生まれたように蝉が鳴き出す /千吉

わからん、いや、わかる・・・? という印象です。「わからん」から入ってしまったのは、角を曲がるたびにあたらしい蝉の鳴き声がするなんてことあるかな? と思ってしまったのです。私の蟬経験はクマゼミなんですが、めちゃくちゃうるさいので、角を曲がる前から鳴き声は届きそうな気がしてしまいまして。

とはいえ、ちゃんと考えてみたらこういうこともあるかな、と納得できてきました。蟬というのは何年も地面にいてから出てくるもので、「生まれたように」のとぼけかたが効いているとは思います。「鳴く」から踏み込んで「鳴きだす」まで言いにいっているのはけっこう強いと思います。私はここにひっかかったので、冒頭の「わからん」が先行しました。とはいえ、わかるかなーとはなりました。

個人的には「次々と」をどこまでやりたかったんだろうというのは気になりました。そりゃ、蝉と「次々」このシチュエーションに出くわす方がポエジーとして大きいのは確かですが、それにともないこの主体が「次々角を曲がる」という、移動の特殊性を持ってしまっているのです。そのへんこれでいいのかな、とは。もっと普遍的な瞬間の切り取りにするのであれば、一回の角の曲がりだけでも演出として十分であるようには感じます。

ご利用ありがとうございました。


今回は以上です。

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