短歌を三十首書いていました「わさび猫」
短歌を三十首書いていました。
テーマは「へんな文語」です。
よければご笑覧ください。
わさび猫 御殿山みなみ
出張を終えてこころのどこだろう洗濯機の本気を眺めおり
謎の力を秘むるようなり額へとひらり貼らるる絆創膏の
歯みがきの鏡にはんびらきたる眼のじきに開店する花屋さん
気がつけば昼の去りおり部屋獏のせいにはできぬぼくのぼんやり
黄昏。魔法のあるやいなやに関わらず一毫たりとも浮くな絨毯は
案の定寝ても寝らるるずぶとさは看過する分針の等速を
報道は未明の雨のすさまじく夢の世界はあると思うよ
虹、どこかくすみながらも虹、ありとあらゆる影のうえを走りたし
いのちではあって覚悟し踏む草の一歩のこれはまさか石ころ
その子にはすまねどお説教ひとつ聴こえて街のすっと濃くなる
ひと世界救いし体で息切れもなきままに会社にすべり込む
小さき誤記に頭を下げて上ぐるまでに何羽ゆきしか光速すずめは
世には世を 会議室より鼻歌の響いてこぬことのその通り
県道を右ねと聞きぬそういえば引っ越していたり府から県へと
陽炎に羊を数えゆく坂の、せめて、涼しげに走らせん
紐を捨つる前に試せるあやとりの ぼくの指のぼくとは限るまじ
なぜ一番乗りを確信したるかはさておき全員に手を振らる
橋として短けれども全力で運河を渡ってきたよと言えり
居酒屋に話題の尽きて最強のつるぎを友と決めてゆくこと
酒に弱いほうが持つゆえ下駄箱の鍵のありかを吐かされている
そう言ってしずかに泣ける俳優のきっと彩らるる私生活
冗談でえがきしわさび猫なれど振り返ればいる気のする夜道
耐えかねてぱちんと指を鳴らすときたまたま灯るすべての宿よ
まちがえて降りて隣の車両へと乗りなおすその嘘の真顔は
知り合いの近さでひとを追い抜いて急ぎおるおとこと思われん
笑いすぎて流す涙の雪のよう。窓に車のきらきらひかる
叶うなら同じくありたし引っ越してはじめに買ってみる調味料
海をしずくに戻してゆかばいつか微生くじらに遭う 希望の話なり
大人には勝手になるよいつまでも唐揚げを最後まで取っておく
さにあらば生まれてごめん さにあらぬぼくを祝いに躍る目覚まし
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