短歌連作「12月 雑感」
家を出るとき、雨が降っていると思って傘を手に取ったら、ちょうど止んでしまって、会社まで傘と歩いた。帰りは会社に傘を忘れそうな予感がぼんやりとたちのぼってくる。
じゃないもの 枯山水のレシピとか 冬の真昼の帰り道とか
足元もスマホも見ずに変わってる青信号に気づかないとき
帰りは雨かなと思ってスマホの雨雲レーダーを調べたら降らないようだ。朝の時点で夕方の天気を見るのは精度が落ちるけど、だいたい当たるってことが感覚としてある、
手袋のまま蝶結びは無理だけど試すだけ試した冬の朝
足元をすくわれるって紐なのか鞭なのかたくさんの手首なのか
の、上で、昔の天気予報ってどのレベルで成り立っていたんだろう。
沈黙をいい天気すねで埋めたあと雲ひとつなくっておどろいた
さよならが大事だったな さよならが大事だなとはならなかったが
マナーの悪いことに歩きスマホをしてしまったので、右手に手袋と傘、左は素手のままスマホがあった。そのまま左手に手袋をはめればいいところを、なぜかコートのポケットに突っ込んで歩く。
その昔、公衆電話 そんで今はフリーWi-Fi、と 思い始める
シューゲイザーが好きだった僕とシューゲイザーが好きな僕のふるえる喉仏
なんでこうなっているんだろう、のまま、会社に着いた。この運ばれ方は、なにか別の形での既視感があった。
ツイートでやれば済むネタいじくって短歌にしもうツイートはない
雨か鰐かを選ばされれば雨だけどもしかして今落ちているのか
新NISAにあわせて証券口座を作った。時代に流されているなと実感しつつ、結局は今の自分の貯蓄をどういう形で持っておくかってことだよね? と理解はしたので、動いた。この理解には、将来の自分の予測が必要で、怖かった。
徒歩圏で殺しがあるとやってくるマスコミだよね壁じゃないよね
もう、友達じゃないとは思う 夕方がすこんと抜けた日だった どうだった?
ネットを見れば、NISAで「人生いける」という趣旨の記事があった。そんなことはない。人生はなんとかなることのほうが多いが、これでいけるものなんてない。
むかし自分で書いたミステリ小説の名探偵の頭がいいな
包丁を自分に はなく、アイロンは分からないままワイシャツをゆく
人生には岐路だらけかもしれないけど、そのほとんどは道を選んでないなと思う。会社の加湿器の水を交換しながら思う。
いくつからカウントダウンするつもりなのかは話し合いたい 縄だ
あれは自分の川に放った蛇だからぐるぐる巻きをやってあげねば
昔、異世界転生ものが流行ったとき、時代だなあと思った。ここではないどこかに行きたいし、そこでやりなおしたいよねと。
自分への投資がなにもないままに名前を言ってもいいこのわたし
遅起きの妻がばっちり決まってた 僕は夫になりついて行った
その流行は、どこかで、追放された主人公が居場所を見つけるものにシフトしていったように思う。そこもなんかわかるのが何とも言えない。
服とかを好きに評して芸人の返しかたをパクって暮らしてる
【全部俺】ふるいにかけた粉だからいつかの夢を裏切ってみた
今でいうと、持っているスキルが評価されないけど、別の場所ややり方に行くことで輝くみたいなのが強いのかな。
好きな人が嫌いな人を責めていて その通りだし でも ネット上だし
鍋つかみと言いつつ鍋敷きのつもりで、それであなたが持つ熱い鍋
どれも、強くてニューゲームとかスキルセットとか、ゲームのアイデアが当然に落とし込まれている感じ。自分ごと時代が動いていって、もう戻れない感じ。
寒風で向かい風だけど走らなきゃあの電車まで工場ゆきの
街の波 弊社はそういう口コミにやりがいがないって書かれてる
ところで昔あんだけ話題になった「ゲーム脳」ってなんだったんだろう。
目が悪いなりにわかったトナカイのオブジェが近づけば小さいな
もしかしてレコードよりもCDが先に滅びる? メリークリスマス
今を思っても、昔を思っても、将来を思っても、時代とともに一方通行のコンベアに運ばれているんだ、どこかで途切れて落ちるんだという感覚はあって、年末はそれが強くなる。
めげるまで竹刀を振った過去があり、今はあるだけ 年越し蕎麦か・・・
赦すけど雪の砂漠のオアシスは凍っているだろう魚ごと
結婚してから、自分に(大黒柱的な意味ではなく)維持していきたい幸せができて、そのコンベアは小さな舟に変わっていった気がする。
かつて僕はメールの歌を高評価されそのときの白いガラケー
夕焼けがカレー鍋へと溶けてゆく 世渡りって言葉、深いな
なんとなく、オールが手中にあるんだな。
水没のめがね乾かしきったのでもうちょっと、走らせてもらっていいですか?
人生ちゅきちゅきちゅき妖怪をやってみよう冗談だけど比喩ではなしに
うれしいこともたくさんあった一年だった。噛みしめたい。来年からは、毎月の雑感は書かないでおこう。今年もお世話になりました。
スピッツのライブは未来のスピッツの新曲を思わせる躍動感
妻と手をつなげば少しあたたまる妻か僕かの結婚指輪
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