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短歌五十首『トロイメライ』

精進します。

トロイメライ
御殿山みなみ

天国に扉があれば部屋もありそしたらそこで揺れるビー玉

いねむりの果てにかなしく立つ駅のすべてを辞書で調べていたい

五月雨の先祖はきっと海だけどずっとわたしが浮かべてる虹

ウィンカーがなぜか鳴りつづけるような遠距離恋愛をしています

お花見をこじつけできる 犯人の書いてある本ばかり読むので

軟式テニスの話になれば仮置きのシャラポワが走るし点も取る

ね、映画をよくわかってる主題歌でしょ、って電話ごしに流れるYouTube

利き腕がひよこの時期は食パンのくずをことさらやさしく拭いて

電車から会社までの間 かといって年々まもられるクールビズ

深夜だけテレビに咲いている花をわたしは朝礼で話さない

会議室にしずむすべての電卓に音ではなく音色をあててゆく

ポジティブな怠惰 きのうを長いこと指している五月の腕時計

三ヶ月先に予定の嵌まりこむ あの水たまりを踏んだら濡れる

泣くまいとお茶を買うときコンビニにいつも売り切れてるながれぼし

恋人が送る写真のいとしくもわたしの直前で去るきっぷ

茶柱の立った動画のほぼ写真 うおーすげーと声のする写真

土曜だとおもってた日は地球儀をむしろゆっくり回していよう

しまわれるこたつに灯るさみしさを言うのにちょうどいい糸電話

独りのときにアフロに変えた信長は涙のいけにえにうってつけ

ドラゴンに影はなりますトラックと電信柱のはざまをゆけば

リコーダー生やして塀をみる彼の音楽室の、まぶしいでしょう

夕焼けをどうすることもできなくてぼうっとしたよ時も止めずに

満月のてまえの月とブランコとわたしとのみごとな三角形

駆け出さない足を夜風はそこそこの生活の真似だと云いはなつ

起きてから駅に着くまでぎこちなく迎えにいくひとをやっている

富士側の新幹線のブラインドのオセロみたいにあくんですって

おおげさな薔薇の名前に盛りあがるふたりがぼんやり欲しがる子ども

街を裂くけんかだったがツチノコの存在は前提だったのが

服屋には恋人いわく恋人の地元に流れてるトロイメライ

ほくろから漏れるひかりを隠せてるひとばかりだな大通りには

うきうきが白衣で来ては去るように借りた目薬のなじんでくれる

歓声の、最後までドームを埋めて、けれどいっしゅん綿毛であった

スリッパで砂漠に行ったことはないわれわれが見上げるそのクレーン

改札で恋人を見送るときの、見送られる予定のすでにある

あくびして寝て起きてまたあくびして床より布団だな海なのは

音は波だとわかりだす 半日後くらいにそちらにゆく雨雲の

想像のなかでも猫とおじさんは傘をささずに走っていった

幽霊のくつろぐ椅子にきみは掛けきのうのキスをおもうのですね

クロールの呼吸がふいに降りてきて歌詞カードの句点が腑に落ちる

側溝をながれる花に追いぬかれうつむいてては読めない信号

雨音とキーボード音が入れ替わったとしても上司は怒るひと

受信した残業を送信できる状態にして、そのまま帰る

そうはいってもお酒をがまんした道にあくびするわたしの生徒会

ネクタイが点滅しても地球にはいていい敢えてのぼる歩道橋

信仰のレプリカを提げ神社へと向かう すべてにいい音がする

おみくじに生きてていいと言われたが言われなくても生きてくつもり

生活をならべたら無駄があるから飽きずにくり返せてるおはよう

恋人の博物館を出たときの笑顔で夏を つぎ会える日を

この角を曲がらなければ川べりの波打ち際になっているとこ

木漏れ日にやっぱり脱いだネルシャツのボタンというボタンが初夏の鈴


ありがとうございました。

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