評bot 8


今回も始めます。趣旨は下のツイートをご参照ください。なお、ご利用者様は敬称略にて失礼いたします。


家の中まで炊き込んであるのかよ米としょうゆとしあわせを嗅ぐ /入瀬

すごく炊き込みご飯の匂いがしている、というのが分かります。だからこそ家の中が炊飯器の中なのかよ、という感慨に至ったのでしょう。けっこう上句の表現は面白いです。「かよ」と呼びかけているのが「家の中」に他人を感じ、その他人との「しあわせ」があるという示し方もほっこりしますね。

さて、下句がこれまた上手く言っていただいている表現なんですが、このあたりは好みの分かれるところだと思います。「しあわせ」を嗅ぐというのがレトリックなのは自明なのでいいんですが、「米としょうゆと」というのが、しょうゆベースなのはわかるんですが、リアル志向でいくと「そんな分離して嗅げるか・・・?」という感覚が邪魔するわけです。上記に含まれるのが主に米としょうゆ、なのかもですが、もっと他にも、あるでしょ・・・みたいな。

とはいえこういう並べ方が面白いのは確かなのです。ウケる歌、だと思います。で、その「ウケ」を志向すると、ちょっと嘘をついちゃうんですね。レトリックじゃなくて、嘘。それは確実に面白くなります。面白くするからこそ、「素のしあわせ」からはちょっと浮いたポエジーが残ってしまって、それでよかったです? という気にはなりました。

ご利用ありがとうございました。


手のひらに流れる赤と違う赤トイレに流す二日目の赤 /笹見地図

生理中の歌なのかなと思って読みました。私は男性で経験がなく、聞きかじっただけの知識なのであまり断言はできませんが、生理の二日目くらいっていうのは割とよく血が出ることが多いらしく、「二日目の赤」というとそういうことを想起します。で、やっぱり血って属性によって色が変わっているものだと思います。いわゆる経血とその他の血の色が違う、は、あるでしょうし、そこに気づいたということでしょうか。

その気づきは十分歌になっていると思いますが、「手のひらに流れる赤」を、ちょっと読み切れませんでした。手のひらの内側を普通に流れている血と読むと、「そりゃ違う赤だろ」となってしまうのは否めません。現実に出血していてそれが手のひらに流れているのかな? が、掴み切れませんでした。

なんか、この歌って血VS血の生々しさを拾っていきたいんじゃないのかな、というのがある中で、それを中途半端にやってしまっている気がします。私がこれを気づきだと書いたのはそういう実感がないからで、女性からすれば、この描写であれば気づきまでいかないのかもしれません。

ご利用ありがとうございました。


落日に光って応える祖父の管 ぼくはセーキをストローで飲む /スズキ皐月

なんといいますか、何を差し置いてもとりあえず対比! って感じで対比を見せつけている歌です。「祖父」は確実に死に近く、管につながれて生きているのでしょう。そこから点滴を飲んでいるのかもしれません。「ぼく」はたぶん健康で、ストローという管でセーキを飲んでいるのです。そこがまずわかりすぎるくらいわかります。セーキ、「生気」っぽいですし。

上句の「落日に光って応える」というのは、「祖父」が生きようとする力の象徴として読めました。しかし「祖父の管」がそういう意思をもって光ることはありませんから、主体がそれを見てそう感じたということでしょう。この描写は短歌的に優れていると思いますし、読んでいて「祖父」に対して生きてほしいなと思わせるものがあります。

その細やかな感情を、「ぼくはセーキをストローで飲む」が、拾っていないような感覚があります。あまりにも淡々としているというか、確かに対比は効いているんですけど、その対比がしたかったの? というか。「管」を通して「祖父」の「生への気持ち」を感じ取ったのでは? があったからこそ、そのあたりが霧消してしまったのは個人的に残念です。

ご利用ありがとうございました。


断面をやはくひからせ世界にはつぶれてはいけないものばかり /荒野水

光っている歌の連続ですが、抽象的になんとなく言いたいことはつかめた気がします。「断面」というのは基本的には見えないはずというか、切断されたからこそ見えるものだと思いますので、初句二句でそういう切断されたものが感じられます。そこから「世界には~」ということで、断面を見せるものは「つぶれたもの」として捉えることもできます。

このときある、「やはくひからせ」の、ふだんは見えないけれど見せたら光る、という妖しさはポエジーだなと思います。この歌から引き出せる景はたくさんあると思いますが、私は人身事故かなにかでつぶれてしまった人間を思いました。

とはいえ、この「引き出せすぎ感」が、この歌の成長を止めてしまっている気がします。この歌からイメージを引き出すのはかなり読み手の領域というか、それはそれでいいんですが、個人的には読み手にイメージを引き出させるためにどう背中を押してあげるかが短歌なんじゃないかという気もしておりまして、ちょっと「つぶれてはいけないものばかり」は広すぎると思います。上句が何の断面だったのかを示すなどもよいのではないでしょうか。

ご利用ありがとうございました。


今回は以上です。


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