短歌三十首『Thistopia』
第六十二回短歌研究新人賞応募作品です
Thistopia 御殿山みなみ
となりあうビルの住所のはちゃめちゃに違うそこにも降るのか雨は
マスクするだけでおちつく こわくなる マイナンバーにマイとあるのが
そのひとは駄菓子屋のなんでもなさを伝えきれないまま旅立った
信号を頭のなかでさわるとき青から赤に変えていたずっと
行けたからこそ喉元に貼られてる選挙に行ったふりのたやすさ
なんだったかはおいといて台風に備えて買った記憶だけある
同じこと でも逃げ出した犬の名をぼくはいったん覚えたほうだ
玉ねぎを切って泣いてるひとがいま、どこにもいない瞬間のこと
令和には連れてゆけない電柱のあったとしても気づけないのが
改札をとおったときのおそらくはいい意味で芽がつまれたかんじ
あっちばかりあく満員の地下鉄に立ってるひとがみんな起きている
集合をまもってしまう道すがらいつか誰かがにぎる消火器
たくさんのひとにたくさん明確なビジョンを売っている本屋さん
ともだちの友達の名を訊きなおすときにこころに生える爆弾
笑いあう そんな病気ができたとき健康でなくなる方々が
人類がはたらけることを乞うようにくりかえされているご注文
アップロードされたとたんにいいねって思うだけでは足りないケーキ
食べるためマスクをはずしそれっきりなのをともだちの友達が言う
番号で呼ばれてはいと言えた日のぼくはすごく すごく人間です
禁煙と彫られた壁のあるかぎりどこかにいてほしい喫煙者
ひとつずつ球のふえゆくジャグリングの回しつづけて成り立つ円は
分からない仮想通貨のうごめきを分かれなくなる気がしています
廃ビルに影だけとどく くちぶえを吹いて帰れるひとだったなら
弁当が半額になる瞬間のかきむしられるようなWIN-WIN
カップめん買ってて そうか いい曲のかかるラジオの裏のばたばた
消火器の手際はずっと悪いまま、できればそれもばれないような
満月を裸眼で撮れば携帯に二度とにじんでくれない月の
あたらしい時代がくるとわかってる コロ コロだから その犬の名は
ファミレスのなんでもなさをいつの日かぼくは教えてしまうのだろう
天井の絵が描いてある天井を見たことないと言い切れますか
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