連作三十首『運転』
第61回短歌研究新人賞 応募作品です。
運転
乗り込んだ営業車からエンジンの音、を、明るく空耳したい
PからD はみでた棒は削られる アルファベットのあそびのはなし
肩に吸いつくシートベルトでよみがえる丸腰にはりついた怒声の
左折してサイドミラーをひゅんと過ぎたものがさいわいだったらやだな
ぼくはいまうさぎとかめのうまである軽めの追突事故を横目に
ちょっぴりの雨にいちいちワイパーをかける小指を隠すハンドル
給油するときはこうべを垂れるだろう煽ってくるプジョーの中のひと
ラジオをつければミスチルがぼくをぶん殴り口は大きくあけるものだね
冗談で「預金通帳を持ってこい」と言える上司の幻覚を轢く
トラックにごうと抜かれて歩行者をほぅむと抜いてあげたいけれど
アクセルを踏むときだけ辞めたいと思う 不満を仕事だけのせいにする
信号にいらだっちゃってほらやっぱやる気あるんじゃないかって 空
ながれぼしまだ昼だけどウィンカーはいつも価っ値ととなえているよ
ワイパーで雨ごとぬぐえない位置のフンが気にならなくなったこと
笑われるかなあいまだにETCに阻まれる想像で震える
車線変 更がかなりへ たなのは未 来予知を妄 想でするため
去年突っ込んだ高速の壁がもうきれいさっぱりきたないんだから
事故ったら営業から抜けられるけど、のけどを自分でほめる不器用
エアバッグでたとえられちゃうものすべて中央分離帯のむこうがわ
運転しているときだけぼくは人間であとはサラリーマンの残像
高速を降りれば街はゆっくりで鼓動ばかりが生き急いでる
ブレーキ 何語なんだろうkonゲツハhappyakuマンエンtariマセンとは
渋滞につかまったとき永遠の渋滞を思う きょうは大安
ワイパーの頻度を隣のボクシーと合わせつついやいやとつぶやく
コンビニのつぶれたあとにコンビニが生えてて別にぼくじゃなくても
笑っちゃうよこんな真顔で目にはいる苦手な得意先の響きには
バックしますバックしています人生をバックしてくれませ車止め
絶望も希望もみょうに大げさでパワーウィンドウの小蠅のおなか
RからP やっぱり棒は削られて不老不死ならもう信じない
歯車は車からぼくへとうつり誰に「お世話になります」んだろ
リサイクルも考えましたが、内容的にできそうになかったので公開します。予選通過二首掲載。次回出す場合はもっとがんばろう。
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