榊原紘『悪友』デジタル栞文-vol.2-


「遠泳」同人の榊原紘の第一歌集『悪友』(書肆侃侃房)が刊行されました。毎週一回、「遠泳」メンバーがリレー方式で歌集についてnoteを更新しています。第二回目は松尾唯花が担当です。

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第二回:呪い

 僕はいつも怒っていて、何かを憎んでいて、復讐心のようなものを盾として、ここまで歩いてきたように思います。(「あとがき」より)

 新しく同人誌をつくろう、と榊原さんとふたりで話したのは、大阪駅から少し歩いたところにある紅茶屋さんだった。
 当時、同世代の歌人たちによる同人誌が盛んに発行されていて、そのどれからも声をかけられずにいた榊原さんとわたしは、たぶん怒っていた。怒っていた。
 わたしは今、「遠泳」の海でどのように泳いでいるように見えるだろう。「遠泳」の歌たちに、仲間たちに、ずいぶん救われてきたように思うけれど、それはあの日の怒りがあったからこそなのかもしれない。

ゆるせなくていいよ、このまま区境(くざかい)を越える僕らの傍らに雪
/戯れに花
祝福を 花野にいるということは去るときすらも花を踏むこと
/猫はどこへ行く

 榊原さんの温度感はふしぎで、人見知りのわたしが上がりながら話す沸騰しそうな温度にも、なにか怒りに燃えている、あるいはしんどさに沈んでいる温度にも、いつも同じ温度で対面してくれるので、気付けばわたしの温度は均されて、別れた後にどこか狐につままれたような心持ちになる。

ローソンが潰れてできた大きめのローソン 性善説を信じる
/はためく
ビルにビルの影を見ながらそんなこと杞憂だよって言ってやれない
/強くてニューゲーム
どんぐりを胸の底から拾いあげ明かさなくてもいいと話した
/天国と春服
新しいティッシュをあけるときの風 報われたがっていいと思った
/生前

 一緒に奈良に在った一年間を思うと、心が柔らかくなる。

散るときがいちばん嬉しそうだった、そしてゆったり羽織るパーカー
/メフィスト

今はこの歌集が、読んでくださった方の心の中で、あらゆる呪いを解くための武器となることを願います。強く願います。(「あとがき」より)


 呪いは呪いなので簡単には解けないけれど、でも、榊原さんの歌集がこのように在ることに、少し救われている。

 『悪友』、ついに発売です!


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